第六話 エピローグ

 リーダーが降伏した直後にヘリからファストロープで隊員が下りてきてリーダーに銃を突き付け拘束する。

 リーダーは抵抗せず、大人しく捕まった。


「大丈夫! ダイナ!」


 ヘリに乗ってきたアイリも降りてきて、ダイナの元へ駆け寄る。


「思ったより早かったね」

「ええ、爆発と銃撃があった上に通信障害が発生したから。緊急事態だと判断して御代隊長のコードでヘリを緊急に飛ばしたの」

「許可得たの?」

「まさか。非番で無礼講だとかいって酔い潰れていたから認証キーを勝手に奪って申請したのよ」

「大丈夫か」

「大丈夫でしょう。潰れて指揮出来ないときは戦争中に代わりに処理したりとかしていたし、裸踊りしていたからそのことをネタにセクハラだと言って簀巻きにした上、脅して、うやむやにするわ」

「相変わらずだな」


 戦闘は強いし、悪辣な罠を仕掛ける御代隊長だが、奔放すぎて羽目を外しすぎることがよくある。

 酒を飲んでの裸踊りなどその最たるものだ。

 勿論アイリは良くは思って居らず見つけ次第粛正している。

 おまけに経費で高い酒を買っている事が多く、予算を圧迫しており、その子でも御代に対して不満をため込んでいる。

 脅しのネタにでもしないと不満を発散できない。

 肩をすくめ、この場にいない隊長の事など後回しにして尋ねる。


「他にも仲間がいると思うんだけど」

「周辺の監視カメラの捜索で怪しい車を探しているわ。すぐに見つかるはずよ」


 これだけ大事になったのなら警察も動くだろう。というか自衛隊にしゃしゃり出られて困るだろう。

 必死に捜索を行うはずだ。仲間の拘束も間近だろう。


「で、その子が誘拐された妖精族の少女」


 ダイナの服の裾を握る少女を見てアイリが尋ねた。


「うん、成り行きで守ることになった」

「そう大変だったのね」


 ようやく肩の荷が下りたとばかりに言うダイナに、呆れるようにアイリは言う。

 何故かこの手のトラブルにダイナはよく巻き込まれ、トラブルに遭う。

 その後始末を手伝うことになるのも何時もの事だ。

 だが、ダイナへの悪い思いは自然と抱いてていない。


「おい」


 ヘリに吊り上げる準備をされていたリーダーが尋ねてきた。


「名前と所属を教えてくれないか。俺は小山一樹、戦争中は第三二普通科連隊」


 たった一人で仲間相手に足手まといを抱えて逃れた上、反撃して大損害を負わせてきた。

 一体どんな奴なのか、リーダーは知りたかった。


「木戸大成、集成五〇三連隊だ」

「五〇三……」


 小山は目を見開いて驚いた。


「どおりで強いはずだ。まさか戦争を勝ち残った精鋭とは」

「定数の倍の死傷者出した弱い部隊だよ」


 ダイナは自嘲気味に言う。

 定数は二〇〇〇名ほどだったが書類上の話だ。

 寄せ集めの上に、補充してもすぐに戦死したり、負傷して戦線離脱するため定数を満たすことはなかった。

 ダイナも名前を覚える前に死んでいった補充要員を何度も見ている。


「皆、戦争で修羅場をくぐり抜けたと思ったんだが、異世界へ行った精鋭相手とはな。知っていたら手を出さなかったんだが」

「こっちも、こうなると分かっていれば、大勢で囲んで降伏させていたよ」


 なまじプロだっただけに手加減出来ず、土砂ダム利用して一掃するしか方法はなかった。

 本来なら大人数で包囲して降伏させたり、制圧するのがセオリーだ。

 その意味で不意の遭遇戦となり、激しい激戦になって仕舞った。


「ところで一つ尋ねて良いか?」

「話せる範囲で」


 ダイナの言葉にリーダー、小山は口元に笑みを浮かべて尋ねた。


「どうしてホテルでの爆発の後、少女のシャワーに入っていたんだ」


 逃げられたと聞いて、逃げたのがどんな人物か確認のために部屋に入ったが、浴室が濡れているのを確認している。

 爆発前に使った可能性もあったが、濡れ方が違う。

 それに見るからにダイナ周辺の雰囲気が悪くなった。


「ダイナ、どういうこと」


 アイリが笑顔で、いや凍り付いた笑みを浮かべて尋ねてきた。


「そんなの関係ないだろう」

「変なことしていないでしょうね」

「していない」

「はい、していません」


 ティファニアがダイナを庇うように言う。


「良い身体でした」


 だが余計な一言が付いたためにアイリの表情が昏くなる。

 説明を求める視線に耐えられず答える。


「……爆発で埃を被ったからだよ」

「そこの妖精少女の前で?」

「休暇でいきなり吹き飛ばされたら頭冷やさないとやっていけないよ」

「それでも、ブービートラップが爆発したのに」

「戦争では普通だっただろう」


 仕掛けられた爆発物が爆発するのは日常茶飯事だった。


「気分転換をするのは普通だ。それにやましいことはない。ていうか、これは小山の罠だ。おい、説明しろ」


 小山に説明させようとしたが、つり上げの準備が終わったため、ヘリに引き上げられていった。

 小山は自分の仕掛けた爆弾が大損害を与えたことに満足し、笑みのままヘリに収容されていった。


「……本当に何もなかったのよね」

「止めてください。ダイナは私を助けてくれたのですよ!」


 ティファニアはダイナを庇おうと言うが、抱きついたために逆効果だった。

 ダイナはアイリの誤解を解くために長時間、説明する事となった。

 全ての後始末が終わったのは夜明け頃で、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る