第74話 二人きりの家で
そして、一輝と綾香が靴を脱いで家へと上がると。
「えっと、綾香さん、僕の部屋の場所を覚えていますか?」
一輝は綾香に向けてそう質問をすると。
「ええ、勿論です、二階の一番奥の部屋ですよね」
綾香はそう言ったので。
「そうですか、それなら綾香さんは先に僕の部屋に行っておいてくれませんか? 僕は飲み物とかを準備してから部屋に行くので」
一輝がそう答えると。
「分かりました、それでは、私は一輝くんの部屋で待っているので、一輝くんも早く来て下さい」
綾香はそう言って、一人で二階へ上がって行った。そして、綾香の姿が見えなくなると。
「……さて」
一輝はそう言うと、ポケットからスマホを取り出すと、自分の母親へ電話を掛けた。すると、
「……もしもし」
数コールしてから、一輝の母は電話に出たので。
「もしもし、母さん、僕は今家に帰ったんだけど、父さんと母さんは今何処かに出掛けているんですか?」
一輝がそう質問をすると。
「ええ、そうなの実は私は今、お父さんと一緒にデートに出掛けているの」
「……え?」
一輝の母はそんな事を言ったので、一輝は思わずそう呟いた。そして、
「えっと、急にどうしたんですか? 父さんとデートなんて、僕が知っている中では一度もそんな事をしたことは無かったじゃないですか」
一輝がそう質問をすると。
「そうね、でも最近になって一輝に立花さんっていう滅茶苦茶可愛い彼女が出来て、二人の初々しいやり取りを観ていると、私たちも付き合っていた頃を思い出して、久しぶりにデートにでも行かないって私が提案したら、父さんもOKしてくれたから、突然で悪いけど、今日は父さんとデートをして過ごすことにしたの」
一輝の母はそう答えた。そして、その言葉を聞いた一輝は、
「そうですか、まあ僕はもう高校二年生なので別に一人でも大丈夫ですし、母さんが休日にどう過ごしても別に何も言うつもりはありませんが、ただ一応、何時くらいに帰って来る予定なのかは教えておいてくれませんか?」
母に対してそう質問をした。すると、
「そうね……ちょっと父さんと相談するから、少し待っててね」
一輝の母はそう言って、電話口から離れた。ただ、一輝としては父も母ももういい年なので、どうせ直ぐに帰ってくるつもりなのだろうと、一輝がそう思っていると。
「ごめんなさい、一輝、今お父さんと話したのだけど、十数年ぶりのデートだから、今日は二人で夕食を食べて帰りたいってお父さんが言っているの、だから悪いけど、一輝は自分の分の昼ご飯と夕食はコンビニとかで準備してくれない?」
「……え?」
その言葉を聞いて、一輝はそう呟やいた。そして、
「えっと、つまり、母さんたちは夜まで家に帰って来ないのですか?」
一輝がそう質問すると。
「ええ、そのつもりなんだけど、何か問題があるの?」
一輝の母はそんな事を聞いて来たので、一輝は何と答えるべきか一瞬迷ったが。
「……いえ、何の問題も無いです、えっと、父さんとのデートを楽しんで来て下さい」
綾香が家に来ていることは伝えず、一輝はそう言うと。
「ええ、分かったわ、それじゃあ一輝、悪いけど留守番を宜しくね」
一輝の母はそう言って電話を切った。そして、一輝はスマホをポケットに仕舞ってから。
「という事は、今日はずっとこの家で綾香さんと二人きりですか……」
一輝はそう呟くと、可愛い彼女と二人きりという事でつい、良くない妄想をしてしまいそうになったのだが。
「いや、落ち着け、今は綾香さんと上手くいっているのに、こんな事で台無しにしたら駄目だろ!!」
一輝はそう言って、自分の頭に浮かびかけていた邪な妄想を振り払った。そして、一輝はその場で小さく深呼吸すると。
「……よし、いつまでも綾香さんを待たせる訳にもいかないし、早く飲み物の準備をして部屋に向かおう」
一輝はそう言って、リビングへと向かって行った。そして、
「綾香さん、申し訳ありませんがドアを開けてもらえますか?」
自分の部屋の前へ辿り着いた一輝だが、一輝の両手は飲み物とお菓子を乗せたお盆で塞がっているので、部屋の中にいるであろう綾香に向けて、一輝はそう声を掛けた。すると、
「あっ、はい、今開けますね」
部屋の中からそんな声が聞こえてから直ぐに部屋のドアが開き、一輝は自分の部屋へと入った。
そして、部屋の中央に置かれている小さな机の上にお盆を乗せると。
「ジュースもお菓子もあるので、綾香さんが欲しかったら遠慮せず頂いて下さい」
一輝は綾香に向けてそう言った。すると、
「分かりました、一輝くん、ありがとうございます」
綾香は笑顔でそうお礼を言った。そして、
「そう言えば、先程一輝くんはお父さんの車が無いと言っていたので、お父さんは出掛けているのでしょうが、一輝くんのお母さんは今何をしているのですか?」
綾香はそんな事を聞いて来たので。
「えっと、実は今、母さんは父さんと一緒にデートに出掛けていて、この後はデートを楽しんで、夜ご飯を食べてからこの家に帰って来る予定らしいですよ」
一輝は正直にそう答えた。すると、
「そうなのですか、それは仲が良さそうで良いですね」
綾香はそう言ったので。
「ええ、そうですね」
一輝はそう答えた。しかし、
「……あれ?」
その後、直ぐに綾香はそう呟くと。
「えっと、すみません、一輝くん、少し質問があるのですが、いいですか?」
綾香はそんな事を言ったので。
「ええ、いいですよ、なんですか?」
一輝がそう言うと。
「えっと……確か、一輝くんの家は一輝くんとご両親の三人暮らしでしたよね」
綾香はそう質問をして来たので。
「ええ、そうですよ」
一輝がそう答えると。
「えっと、一輝くんの家では、犬とか猫とかそういったペットは飼っているのですか?」
今度はそんな質問を投げて来たので。
「いえ、残念ながら綾香さんの家とは違い、家ではペットは一匹も買っていませんね」
一輝は再びそう答えた。すると、
「……えっと、つまり、今この家は私と一輝の二人きりということですか?」
綾香は恐る恐るといった様子でそんなことを聞いて来た。なので、
「ええ、そうなりますね」
一輝がそう答えると。
「……そうですか」
綾香は短くそう答えると、彼女は地面に視線を落として俯いてしまった。
そして、数秒間待っても、綾香はその恰好のまま動かなかったので。
「えっと、綾香さん? 大丈夫ですか?」
一輝が遠慮がちに綾香にそう質問をすると。
「えっ? あっ、はい!! 何ですか?」
綾香は少し慌てた様子でそう返事をしたので。
「いえ、綾香さんが全く動かなくなっていたので、大丈夫ですかとそう声を掛けたのですが」
一輝が再びそう言うと。
「あっ、はい、大丈夫ですよ、別に一輝くんと二人きりだからって緊張してるとか、この後、一輝くんに色々といやらしいことをされるのかもしれないと思って、思わず体が固まってしまったとか、そんな事はありませんよ!!」
綾香は早口でそんな事を言ったので。
「綾香さん落ち着いて下さい、全部声に出ていますよ!!」
一輝が慌ててそう言うと。
「……え?」
一輝の言葉を聞いて綾香はそんな声を上げた。
そして、綾香は自分の言った言葉を段々と思い出して来たのか、綾香の顔はどんどん赤く染まっていった。そして、
「……その、一輝くん、さっき私が言った言葉は全部忘れてくれませんか?」
綾香は頬を真っ赤に染めたまま、上目遣いで一輝の目を観てそう言った。なので、
「……ええ、分かりました」
一瞬の間をおいて、一輝はそう答えた。
ただ、今の本気で恥ずかしがっている表情を浮かべている綾香は、一輝が今まで観て来た綾香のどんな表情よりも可愛く観えてしまい。
綾香には申し訳ないが、今日初めて見た彼女が本気で照れて慌てているこの様子は、この先何があっても忘れられそうにないなと、一輝は内心そう思ったのだった。
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