第66話 写真撮影

 その後、綾香はハート模様のウサギをゆっくりと地面に降ろすと、今度こそニンジンステッキを上げて、ウサギがそれを一心不乱に食べ始めた。そして、


「本当に凄く可愛いです」


 綾香はそう言いながら、頬を膨らませてニンジンステッキを一心不乱に食べているウサギの姿を笑顔を浮かべながら、もう片方の手でウサギの背中を撫でながらそう言った。そして、


「一輝くんもこの子の背中を撫でてあげたらどうですか? 凄く可愛いですよ」


 綾香は満面の笑みを浮かべたまま、一輝の方を見上げてそう言ったので。


「ええ、分かりました」


 一輝はそう返事をすると、ウサギの背中に手を伸ばし、綺麗なハート模様が描かれているウサギの背中を綾香と一緒に撫で始めた。すると、


「毛がフカフカでとても気持ちいいですね」


 綾香は普段は絶対に見せないような崩れた笑顔を浮かべながら、一輝に向かってそう言ったので。


「ええ、そうですね、ただ、綾香さんは本当に動物が好きなんですね」


 普段は見られない無邪気に喜んでいる彼女の姿を見て一輝はそう言った。すると、


「そうですね、この子も本当に持ち帰って飼ってあげたいくらい可愛いです」


 綾香は笑顔を浮かべたままそう言ったので。


「そんなことを言ったらコタロウが悲しみますよ」


 一輝がそう突っ込みを入れると。


「あっ、勿論コタロウも私にとっては大切な家族ですし、とても可愛いと思っています。でも、体が大きくて全身で甘えて来るコタロウと、小さくて一生懸命生きているウサギちゃんとでは可愛さが違うじゃないですか、私はこんな可愛さも接種したいんです!!」


 綾香はそんなことを言ったので。


「えっと、それなら、動画を観たり近所のペットショップに動物を観に行ったらどうですか?」


 一輝がそう言うと。


「可愛い動物の動画は普段から良く観ていますよ、ただ、飼う予定も無いのに一人でペットショップに行くのは、何となく勇気が出なかったのですが、一輝くんと一緒なら勇気を持って行けそうな気がします」


 綾香はそんなことを言ったので。


「それなら今度ペットショップでデートをしませんか? 僕は動物を飼う予定はありませんが、可愛い動物を観るのは好きなので、ペットショップに行くのは嫌では無いですから」


 一輝がそう答えると。


「そうですか、それなら申し訳ありませんが、その時はよろしくお願いします」


 綾香はそう返事をした。そして、二人はハート模様が付いているウサギを撫でながらそんな話をしていると。


「あの、すみません」


 少し遠慮がちに、このコーナーの受付をしていた若い女性の園内従業員がそう言って話しかけて来たので。


「えっ、あっ、はい、何ですか?」


 ウサギの背中から手を離して、一輝が従業員の方を観てそう言うと。


「あの、もし間違っていたら申し訳ありませんが、お二人はもしかしてカップルなのですか?」


 女性従業員はそんなことを聞いて来たので。


「えっと、それは……」


 急にそんな質問をされるとは思っておらず、一輝は正直に答えるべきかと少しだけ悩んでいると。


「ええ、そうです、私たちはとても仲のいいカップルですよ」


 綾香は直ぐにそう答えた。すると、


「あっ、やっぱりそうですよね、お二人の雰囲気からして絶対にそうだと思っていました!!」


 その答えを聞いた女性従業員は笑顔を浮かべながらテンションを上げてそう答えた。そして、


「実は、お二人が今撫でているウサギは恋愛成就のウサギと言われていて、その子と一緒に写真を撮ると恋愛に関する良いことが起こると言われているんです。なので、もし良かったらお二人で、その子と一緒に写真を撮りませんか?」


 女性従業員はそんなことを言った。しかし、


「えっと、恋愛成就って確か、好きな相手と結ばれるという意味ですよね? 僕たちはもう付き合えているので、あまり効果は無いような気がしますが」


 一輝がそう言うと。


「確かに恋愛成就と言いますと、一般的には片思いの相手と結ばれたいという意味で使われていますが、実はもう一つ意味があって、恋愛に関するあらゆる願いが叶うという意味もあるみたいです。なので、例えば私たちがこの先もずっと恋人として仲良く過ごしたいという願いも、この子なら叶えてくれそるのかもしれないので、写真を撮る意味はあると思いますよ」


 綾香はそう言って、一輝に対して恋愛成就に付いて説明をした。すると、


「詳しいですね、そうです、彼女さんの言う通り、恋愛成就にはそう言った意味もあるので、お二人の今後に付いて何か願うことがあれば、その子と一緒に写真を撮れば、その願いを叶えて貰えるかもしれませんよ」


 女性従業員はそんなことを言った。そして、


「それでもし写真を撮りたいのでしたら、お二人のスマートフォンを貸して頂けたら、私が写真を撮って上げますがどうしますか?」


 彼女は続けてそんなことを言ったので。


「えっと、それなら僕のスマホで写真を撮ってくれませんか? 綾香さんには後から僕が写真を送るので」


 一輝はそう言うと、スマホを取り出すとカメラを起動して女性従業員に手渡した。すると、


「分かりました、それならお二人とも、その子を抱えて横に並んで下さい」


 女性従業員がそう言ったので、綾香はハート模様の背中のウサギを抱きかかえて、その場から立ち上がったので。


 一輝は綾香の隣に立つと、少し遠慮がちにウサギの背中に手を置いた。そして、


「それじゃあ撮りますよ……はい、チーズ」


「パシャ」


 そんな音と共に、二人は写真撮影を終えた。そして……






「ありがとうございました、今日はとても暑いので熱中症に気を付けて園内をお楽しみください!!」


 女性従業員にそう言われながら見送られ、二人はウサギ小屋を後にした。すると、


「ふふ、良い思い出が出来ましたね」


 綾香は一輝から自分のスマホに送られて来た、ウサギと一緒に写っている2ショット写真を観ながらそう言ったので。


「ええ、そうですね、因みに綾香さんはどんなお願いをしたのですか?」


 一輝が何気なくそう質問をすると。


「……それは秘密です、言葉にするのは恥ずかしいので」


 綾香は頬を染めながらそんなことを言ったので。


「えっ、一体なにをお願いしたのですか? 恥ずかしがらずに教えてください」


 そんな風に言われると、一輝は余計気になってしまい、綾香にそう言ったのだが。


「秘密と言ったら秘密です、恥ずかしいですから」


 綾香は意地でも言いたくないのか、珍しく全力で拒否をしていた。そして、


「それより、一輝くんこそどんなお願いをしたのですか?」


 綾香はそう言って、一輝に話題を振って来たので。


「綾香さんが教えてくれるのでしたら、僕も教えますよ」


 一輝はそう答えると。


「……もう、一輝くんの意地悪、それなら教えてくれなくていいですよ」


 綾香は少しだけ頬を膨らませながらそう言ったので。


「冗談ですよ、僕のお願いは、これからも綾香さんと二人で仲良く穏やかに過ごしたいというモノです」


 一輝がそう答えると。


「……そうですか、因みに私も一輝くんと同じようなお願いですよ」


 綾香はそう言ったので。


「えっと、それなら、僕にお願いの内容を教えてくれてもいいのではないですか?」


 一輝はそう言ったのだが。


「いえ、それは嫌です、確かに私のお願いは一輝くんと似たようなモノですが、もっと先の事も考えて居るので、やっぱり今は言いたく無いです」


 綾香はそう答えた。そして、一輝はその言葉を聞いて余計に気になったのだが、これ以上質問をして綾香の機嫌を損ねたくないと思ったので。


「分かりました、それならこれ以上は聞きませんが、綾香さんが話してもいいと思ったら教えて下さいね」


 一輝がそう言うと。


「分かりました、その時はそうさせてもらいます」


 綾香はそう答えた。

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