第9章 ダブルデート
第60話 ネタバラシ
一輝が黒澤務との勝負を終えて一週間程が経った次の週の土曜日の昼頃。
一輝は綾香と一緒に学校近くにあるファミレスに来て、ある人物を待っていた。すると、
「それで、斎藤くんの話というのは何なのでしょうか?」
一輝の隣の窓際の席に座っていた綾香がそんなことを聞いて来た。しかし、
「すみません、綾香さん、僕も颯太からはこの時間に綾香さんと一緒にファミレスで待っているように言われただけなので、どういった話なのかは分からないんです」
一輝はそう答えた。すると、
「そうですか、それなら仕方がありませんね、ただ、斎藤くんが来れば分かる事なので、今は大人しく待っていることにします」
綾香がそう言ったので。
「ええ、そうしましょう……ただ、すみません、綾香さん」
一輝がそう答えると。
「えっ、何がですか?」
綾香がそんな事を聞いて来たので。
「その、貴重な休日なのにわざわざこんなことに付き合わせてしまって、本当にすみません」
一輝は少し申し訳なさそうにそう言った。すると、
「いえ、私は別に構いませんよ、それに電話越しでは無く、こうして一輝くんと直接話が出来るのは私としても嬉しいですから」
綾香は一輝の方を向くと、笑顔を浮かべてそう言った。なので、
「……そうですか、それなら良かったです」
一輝は電話ではこの様な甘い言葉をよくかけられているのだが、目を見て直接こんなことを言われると、一輝は未だに照れてしまうので、綾香から目を逸らしながらそう答えた。すると、
「もう、一輝くん、今更こんなことで照れなくても大丈夫ですよ」
綾香は可笑しそうに笑いながら、一輝に向けてそう言った。しかし、
「別に照れていませんよ」
一輝は綾香から顔を背けて、窓の外を見たままそう言った。すると、
「そんな態度で言われても全く説得力がありませんよ、でも、そんな風に恥ずかしがり屋な一輝くんも可愛くて良いなと、私はそう思いますよ」
綾香はそう言ったので。
「……何度も言いますが、男は可愛いと言われても嬉しくは無いですからね」
一輝は窓の外を見たままそう言ったのだが。
「そうみたいですね、でも、こればかりは仕方が無いです。先週の黒澤先輩との勝負で真剣に走っている一輝くんは意外と格好良かったのですが、やっぱり一輝くんはこんな風に照れている姿の方が可愛くて似合っていると思います」
綾香はそんなことを言った。なので、
「前から思っていましたが、綾香さんってやっぱり隠れSですよね」
一輝はチラリと綾香の方を見てそう呟くと。
「そうかもしれませんね、でも、私がこんな風に意地悪をしたくなるのは大好きな一輝くんだけなので、その点は安心してもらって大丈夫ですよ」
綾香は満面の笑みを浮かべてそんなことを言ったので。
「いや、その話の中に安心できる点なんて何一つ無いのですからね」
一輝は思わずそう突っ込みを入れた。すると、
「……相変わらず仲が良さそうで安心したよ」
二人の耳に少し呆れた様子のそんな声が聞こえた。なので、
「あっ、颯太、やっと来たのか」
一輝はそう言いながら、声をした方を観たのだが。
「……えっ」
「どうも、お久しぶりです、佐藤先輩!!」
今日、二人をここに呼び出した颯太の隣には、高校生にしたら割と長身な彼に比べるとかなりの小柄で、黒髪短髪の少し幼い顔立ちをした、先週一輝が戦った黒澤務の妹である黒澤心愛が立っていて。
一輝と目が合うとそう言って挨拶をして来た。なので、
「ええ、お久しぶりです」
何で彼女がここに居るのだろうと、一輝は少しだけ困惑しつつもそう言って、心愛に挨拶を返した。すると、
「えっと、一輝くん、斎藤くんの隣にいる女性は誰ですか?」
綾香は少しだけ困った表情を浮かべながら一輝に対してそう質問をした。なので、
「えっと、彼女は黒澤心愛さんといって、黒澤元生徒会長の妹さんですよ」
一輝がそう言って綾香に説明をした。すると、
「えっ、そうなんですか? えっと、始めまして、黒澤さん」
綾香は少し遠慮がちにそう挨拶をした。すると、
「ええ、始めまして、立花先輩!!」
黒澤心愛は綾香にも同じように笑顔を浮かべて元気よくそう挨拶をした。すると、
「えっと、二人とも急な話で申し訳ないのだけど、今日の話し合いはここに居る黒澤さんも合せての四人でさせてくれないか? 今回の話は黒澤さんも大きく関わっていることなんだ」
颯太はそんなことを言った。なので、一輝は少し考えてから。
「えっと、どうしますか、綾香さん? 僕は別にそれでも良いですが」
一輝が綾香にそう質問をすると。
「一輝くんが良いのなら、私も別に構いませんよ」
綾香は一輝の方を見てそう言ったので。
「そうですか、分かりました、一応綾香さんも納得しているみたいなので別にいいですよ」
一輝がそう言うと。
「そうか、ありがとう二人とも、というわけで黒澤さん、話に混ざって良いってよ」
颯太は隣に立っている黒澤心愛に向けてそう言った。すると、
「そうですか、先輩方ありがとうございます!!」
黒澤心愛はそう言って窓際の席に着くと、颯太もゆっくりと黒澤心愛の隣に座った。そして、
「それで颯太、話っていうのは何なんだ?」
一輝が颯太に向けてそう質問をすると。
「ああ、それはな」
そう言って、颯太は話を始めようとしたのだが。
「待って下さい、颯太先輩、話を始める前に先に注文を済ませてしまいませんか? 私は普段ならもうお昼ご飯を食べ終えている時間帯なので、少しお腹が空いてしまいました」
颯太の言葉を遮って黒澤心愛はそう言った。すると、颯太は少し考えてから、
「……ああ、そうだな、そうするか、悪いけど一輝も立花さんも先に注文を済ませてくれ」
颯太は二人に向けてそう言ったので。
「分かりました、そうしましょう」
一輝もそう返事をして、四人は各々昼ご飯を注文した。そして、
「それで、颯太の話というのは何なのですか?」
注文を終えると、一輝は改めてそう質問をした。すると、
「ああ、それはな」
そう言って、颯太は話を始めようとしたのだが。
「待って下さい、颯太先輩、このことに対しては私から説明させて下さい」
黒澤心愛は再度、颯太の言葉を遮ってそう言った。すると、
「……分かった、お前がそういうのなら任せるよ」
颯太は渋々といった様子でそう言ったので。
「ありがとうございます、それでは颯太先輩に代わって私からお話をさせてもらいますね」
黒澤心愛はそう言って、一呼吸置くと。
「私たちが今日お二人に話したいことは、先週あった勝負のことに付いてです」
二人の目を見て黒澤心愛そう言った。なので、
「まあ、そうでしょうね、黒澤さんが颯太と一緒に来ていた時点でなんとなくそんな気はしていました」
一輝はそう言った。そして、
「でも、今更そのことに付いて一体なんの話があるのですか?もしかして、黒澤さんのお兄さんは振られたことに付いて、何か文句を言ったりしているのですか?」
一輝は少し不安になって心愛に向けてそう質問をした。すると、
「いえ、そんなことは無いですよ、そもそも私の兄は立花先輩に振られるつもりで告白をしたので、計画通りに事が進んで寧ろ喜んでいましたよ」
黒澤心愛はそんな言葉を口にした。すると、
「えっ、そうなのですか?」
今まで黙って二人の話を聞いていた綾香がそう言った。すると、
「ええ、そうです、私の兄は多くの生徒たちが見守る中、立花先輩に振られる為に佐藤先輩に勝負を挑み、多くの生徒の注目を集めてマラソン対決をして、玉砕覚悟で立花先輩に告白をしたのですよ」
心愛はそう言って、二人に丁寧に説明をした。そして、
「そうなのですか……でも、どうしてそんなことを」
一輝がそう呟くと。
「お前と立花さんの為だよ」
今度は黒澤心愛の隣の席に座っていた颯太がそんな言葉を口にした。
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