第54話 告白現場
その後、午後の授業を終えて帰りのホームルームも終えた一輝は直ぐに教室を出て、綾香と待ち合わせをしている下駄箱へと向かった。
しかし、ホームルームが終わって直ぐに一輝が下駄箱に来たため、下駄箱にはまだ一輝以外誰も来てなく、一輝はここで綾香が来るのを待っていることにした。
そして、それから数分経過すると、一輝以外の帰宅部の生徒たちも各々家に帰るため、下駄箱へ向けて歩いて来た。すると、
「あっ、一輝くん」
帰宅部の生徒の中から綾香が顔を見せると、そう言って、一輝の元へと駆け足で寄って来たのだが。
唐突に綾香がそんなことを言ったので、二人はその場にいた帰宅部の生徒たちの視線を集めてしまったのだが。
綾香はそんなことは気にせず、一輝の元へと駆け寄って来た。そして、
「お待たせしてしまってすみません、一輝くん」
綾香はそんなことを言った。なので、
「いえ、大丈夫ですよ、ただ、綾香さんはいいのですか?」
一輝がそう返事をしてから、綾香にそう言うと。
「何がですか?」
当然のように、綾香はそう聞いて来たので。
「綾香さんは学校で僕と会話をしていてもいいのですか? 以前学校では、僕と綾香さんは話さないようにしましょうと言っていたので、その点だけが僕は心配なのですが」
一輝はそんな疑問を綾香にぶつけてみた。すると、
「そういえば、私は少し前にそんなことを言いましたね。でも、もう大丈夫です、私と一輝くんが付き合っているということは、もう学校中に広まってしまったので、今更そんなことを気にする必要は無いので、一輝くんは今後、私に何か用事があれば、学校でも遠慮せず私に話しかけて下さい」
綾香はそんなことを言ったので。
「分かりました、綾香さんがそれでいいのでしたら、今後はそうさせてもらいます」
一輝はそう言って、綾香の言葉に同意した。そして、
「それじゃあ、そろそろ体育館裏に行きますか、いつまでもここで話をしているわけにはいきませんから」
気持ちを切り替えるように、一輝がそう言うと。
「そうですね、そうしましょう」
綾香はそう返事をして、二人は靴に履き替えると、一輝は綾香と並んで体育館裏へと歩いて行っていた。すると、
「……でも、一輝くんは本当にいいのですか?」
綾香はそんなことを言ったので。
「何がですか?」
一輝がそう質問をした。すると、
「私の告白現場に付き合ってもらうことです、勿論、私が実際に告白をしてきた相手の人を振る所を見て一輝くんが安心できるのでしたら、私の傍で告白を見守っていてもらっても全然大丈夫なのですが、恐らく、私に告白をして来た人は一輝くんのことを歓迎はしないでしょうし、もしかしたら、一輝くんに対して何か失礼な言葉を口にするかもしれません、それでも、一輝くんは大丈夫ですか?」
綾香は一輝のことを心配するようにそんな言葉を口にした。なので、
「ええ、勿論です、相手の男性から罵声を浴びる可能性がある事くらい僕は分かっているので大丈夫です、それに」
「それに、なんですか?」
綾香がそう聞くと。
「綾香さんは以前言っていましたよね、辛い時にはお互いに支え合っていけるような恋人になりたいって」
一輝がそう言った。すると、
「ええ、確かに私はそう言いましたね」
綾香がそう答えた。なので、
「そうですよね、それで今の状況は綾香さんにとってはかなり辛い状況だと思うのです。恋人が居るのに色々な男子から告白されて、それらを全て断らないといけないので。なので、綾香さんからすれば迷惑かもしれませんが、僕が傍に居ることで少しでも綾香さんの気持ちが楽になればいいかと思いましたし、もしこのことが噂になれば、綾香さんに告白する人が少しでも減るかもしれないと思ったのですが……もしかして、僕のこの行動は綾香さんからすると迷惑でしたか?」
一輝は自分の思いを全て口にしたが、最終的には少し不安になって、綾香にそう質問をした。しかし、
「一輝くん……いえ、そんなことは無いです、正直、人気のない体育館裏へ私一人で行くのはいつも心細かったので、一輝くんが傍に居てくれると思うと、私は凄く安心します」
綾香は笑顔を浮かべてそう言った。なので、
「そうですか、それなら僕はこの提案をして良かったです」
一輝も安心してそう言った。すると、
「そうですね……ただ、一輝くん、どうせ付いて来てもらうのなら、私から一つ、一輝くんにお願いがあるのですが、聞いて貰えますか?」
綾香がそう言ったので。
「ええ、いいですよ、何ですか」
一輝がそう言うと、綾香は一輝に一つのお願いをした。すると、
「えっ、本気ですか!?」
そのお願いを聞いた一輝は驚いた様子でそう言ったが。
「ええ、勿論本気ですよ、でも、一輝くんは嫌ですか」
綾香はそんなことを言ったので。
「……いえ、嫌では無いです」
一輝はそう答えた。すると、
「そうですか、それなら一輝くん、不束者ですがよろしくお願いします」
綾香はそう言って、自分の左手を差し出したので。
「……分かりました」
一輝もそう返事をすると、差し出された手に向けて自分の右手を差し出した……
その後、一輝と綾香の二人が体育館裏へ辿り着くと、一人の男子生徒が二人に背を向けて、体育館の壁を見ながら立っていた。そして、
「待っていたよ、立花さん」
足音で気が付いたのか、男子生徒はそう言って、綾香の方へと素早く振り返った。そして、そんな男子生徒は如何にも爽やかなイケメンといった顔立ちをしていて。
挨拶の仕方は男の一輝から見ても、かなりかっこよく見えたし、普通の女子ならそれだけで何人か落ちそうだなと、一輝は思った。しかし、
「初めまして、それで、私に一体何の用でしょうか?」
そんな挨拶を受けても綾香はその男子生徒には一ミリもなびいた様子はなく、普段通りの口調でそう言った。なので、
「ああ、それわね、僕は今日、立花さんに僕の気持ちを伝えようと思って……」
その男子生徒は決め顔を浮かべてそのまま言葉を続けようとしたのだが、直ぐに思い留まって。
「……ちょっと待ってくれ、立花さん」
「何ですか、先輩?」
綾香が返事をすると。
「立花さんの隣に居る男子生徒は一体誰なんだ?」
爽やかイケメン風の男子生徒はそんな質問をしたので。
「彼は私の彼氏の佐藤一輝くんですよ」
綾香は笑顔を浮かべてそう答えた。すると、
「まあ、そうだろうな……恋人でもない相手とそんな風に手は繋がないだろうからな」
そう言って、男子生徒は視線を落とした。
そして、そんな男子生徒の視線の先には、しっかりと恋人繋ぎをしている一輝と綾香の手があった。そして、
「ど立花さんはどうして、ここに彼を連れて来たんだい?」
男子生徒はそう質問をした。すると、
「一輝くんがそうしたいと望んだからです」
綾香は短くそう答えた。すると、
「成程ね、でも、僕は今日、君に一人でここに来て欲しいと手紙にそう書いて置いた筈なんだけど、手紙はきちんと読んでくれたのかい?」
男子生徒は綾香に向けてそう質問をした。すると、
「ええ、勿論読ませてもらいましたし、一輝くんに一緒に来たいとお願いされていなければ、私は手紙に書かれていたように、一人でここへ来るつもりでした、でも」
そこまで言うと、綾香は一度言葉を切ってから。
「私からすれば、初めてお話をする先輩よりも、彼氏である一輝くんの気持ちの方が大切ですから。なので、私は先輩との約束を破ることになると分かっていても、一輝くんをここへ連れて来ました」
綾香は男子生徒の目を真っ直ぐに見て、はっきりとした口調でそう言った。すると、
「成程、確かに立花さんの言うと通り、僕なんかよりは彼氏の方が大事だよな……でも、立花さんがこんな風にはっきり言うなんて思わなかったな、僕のイメージだと、立花さんはこういうことはもっとやんわりと、相手のことを気遣った言い方をすると思っていたよ」
男子生徒はそう言った。すると、
「もし今の発言を聞いて私に軽蔑したのでしたら、私に手紙を出したことは無かったことにして、この場を去ってもらってもいいですよ」
綾香は男子生徒の質問には答えず、強気な口調のままそう言った。しかし、
「……いや、そういう訳にはいかないな、今の立花さんを見ていると何となく結果は見えているが、それでも僕は男のプライドとしてこのまま引き下がる訳にはいかないな」
男子生徒はそう言った。すると、
「……そうですか、分かりました、私はきっと先輩の思いに応えることは出来ませんが、それでもいいのなら先輩の気持ちを聞かせて下さい」
綾香は顔を下に向けると、一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべたが、直ぐに前を向くと、真面目な顔で男子生徒に向けてそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます