第47話 一輝の部屋で

 そして、そんな話を聞いた一輝は、


「ちょっと、母さん、さすがにそれは言えないよ!!」


 自分の母に向けて一輝は慌ててそう言った。すると、


「えー、別にいいじゃない、ここまで話をしたらそれくらいのことも聞かせてよ。それに、一輝も気になるんじゃないの? 立花さんが自分のどんな所が好きなのか?」


 一輝の母はそう言った。なので、


「それはそうだけど……」


 一輝がそう言った。すると、


「それで、立花さんは一輝のどんな所が好きなの?」


 一輝の母は綾香に向けて改めてそう質問をした。すると、


「えっ、えっと、それは……」


 綾香は少し頬を赤くすると、自分の隣に座っている一輝の顔をチラリと観てそう言った。すると、


「まあ、随分と可愛い表情をするのね、本当、今すぐ嫁として家に嫁いで来て欲しいくらいだわ!!」


 そんな綾香の表情を見た一輝の母はテンションを上げてそう言った。そして、


「さあ、立花さん、その可愛い表情のまま一輝の好きな所を存分に語って頂戴!!」


 その勢いのまま、一輝の母は綾香に向けてそう言った。すると、


「えっと、それは……」


 そう言って、綾香は顔を赤くしたまま口を開こうとすると。


「グルルルル……」


 突然、誰かの腹の鳴る音がリビングの中へ響き渡った。そして、


「……もう、お父さん、空気を読んでよ」


 一輝の母は自分の隣に座っている夫に向けてそう言った。すると、


「いやあ、すまない、ただ、そろそろ昼ご飯の時間なので、腹が減ってしまったんだ」


 一輝の父は苦笑いを浮かべながらそう言った。なので、


「……まあ、それもそうね、立花さんとのお話に夢中になっていたけど、そろそろお昼ご飯の準備を始めないとね。あっ、そうだ」


 一輝の母はそう言うと、綾香の方を見てから。


「ねえ、立花さんさえよかったら、貴方の分の昼ご飯も私が用意しようと思うのだけど、立花さんはそれでもいいかしら?」


 綾香に対してそう質問をした。すると、


「えっと、ご迷惑でないですか? 折角の家族団らんの場所に私が混ざってしまうのは」


 綾香は少し心配そうな口調でそう質問をした。なので、


「そんなことはないわよ、一輝の彼女なら立花さんは家の家族と同じようなモノだし、それに、立花さんみたいな美人が家の食卓に混ざってくれたら、家の食卓がより華やかになって私たちとしてもとても嬉しいから、立花さんさえよかったら家で昼ご飯を食べて行ってくれないかしら? それに、私としては出来ればもっと立花さんとお話をしたいと、そう思っているのだけど」


 一輝の母は綾香に向けてそう言った。そして、その言葉を聞いた綾香は一輝の方を振り向いてから。


「えっと一輝くん、いいのですか?」


 少し遠慮がちにそんなことを聞いて来た。なので、


「ええ、勿論です、とういうか、僕は最初からそのつもりで誘っていたので、今更遠慮をしなくてもいいですよ」


 一輝はこれ以上、綾香が変に気を遣わなくてもいいように笑顔を浮かべてそう言った。すると、


「分かりました、それならお母さん、申し訳ありませんが私の分のお昼ご飯の準備もよろしくお願いします」


 その言葉を聞いて、綾香はようやく納得をして一輝の母にそう言うと。


「ええ、勿論よ!! 腕によりをかけて作るから、その間、立花さんは一輝の部屋でゆっくりと過ごしていてね!!」


 一輝の母は椅子から立ち上がると、何時にもなく張り切った様子でそう言った。すると、


「えっ、僕の部屋に来るんですか?」


 一輝は少し驚いた様子でそう言った。すると、


「当たり前じゃない、貴方の彼女なんだから部屋にくらい入れてあげなさいよ!! それとももしかて、部屋にエッチなモノが置いてあるから、立花さんを自分の部屋に入れるのに抵抗があるのかしら?」


 一輝の母はそんな爆弾発言をして来た。なので、


「ちょっと母さん、何を言っているんだよ!? そんなモノないよ!! ただ、すみません、立花さん、少しだけ部屋の整理をしてくるので、少しの時間ここで待っていて下さい!!」


 一輝はかなり慌てながらそう言った。すると、


「ええ、分かりました」


 綾香はそう返事をしたので、一輝は急いで席から立ち上がると、駆け足でリビングから出て行った。そして、そんな息子の姿を見届けた一輝の母は、


「ごめんなさい、立花さん、何だか頼りない息子で」


 少し苦笑いを浮かべながら、綾香に向けてそう言うと。


「いえ、大丈夫です、一輝くんには少し頼りない部分がある事は私はよく分かっていますし、それに私は一輝くんのそういう所も可愛くていいなと思っているので、私は大丈夫ですよ」


 綾香は少し照れ臭そうな表情を浮かべてそう言った。すると、


「そうか、それなら良かったよ、それに君みたいな素敵な子が息子の初めての彼女になってくれて私は嬉しいよ」


 今まで黙って話を聞いていた一輝の父は綾香に笑顔を浮かべてそう言った。その後、暫くの間、三人がリビングで待っていると。


「お待たせしました、綾香さん、それでは、母さんが料理を作っている間は二階にある僕の部屋で待っていましょう」


 一輝がリビングに戻って来ると、綾香に向けてそう言ったので。


「分かりました、そうしましょう、それではお母さま、申し訳ありませんが私の分のお昼ご飯もよろしくお願います」


 綾香はそう言うと、席から立ち上がり一輝の後に続いてリビングを出ようとした。すると、


「任せて、立花さん、それと一輝、いくら可愛くて美人な彼女と二人きりだからって、変なことをするんじゃないわよ!! 家の壁は薄いから、もし立花さんに妙なことをしたら直ぐに分かるんだかね!!」


 一輝の母は自分の息子に向けて大声でそう言った。なので、


「そんなことはしませんよ!! 綾香さん、早く行きましょう」


 一輝は大声でそう言うと、そのまま綾香を連れてリビングを出た。そして、綾香がリビングのドアを閉めると。


「……その、すみません、綾香さん、僕の母が色々と失礼なことを言って」


 一輝は綾香に向けてそう言って謝った。すると、


「大丈夫ですよ、それに、一輝くんのお母さまは初対面の私に対して色々と話しかけてくれて、私としてはとても嬉しかったですよ」


 綾香は笑顔でそう言った。なので、


「そう思って頂けたのなら良かったです、それでは、僕の部屋は二階にあるので、早速行きましょう」


 一輝はそう言った。すると、


「……ええ、そうですね」


 綾香は少し緊張した面持ちでそんなことを言った。なので、


「僕は綾香さんに変なことをするつもりは無いので、そんなに身構えなくても大丈夫ですよ」


 一輝は綾香を安心させる様にそう言って、階段を昇り始めたのだが。


「……少しくらいならそういうことをしてくれもいいのに」


 綾香は小声でそんなことを呟いた。すると、


「綾香さん、何かいいましたか?」


 上手く聞き取れなかったのか、一輝は綾香に向けてそう質問をしたのだが。


「いえ、何でもありません」


 綾香は誤魔化すようにそう言うと、一輝に続いて階段を昇り始めた。そして、


「綾香さん、ここが僕の部屋です、綾香さんの部屋程立派ではありませんがどうぞ」


 そう言って、一輝は部屋のドアを開いて自分の部屋へと入り、綾香もその後に続いて一輝の部屋へと入った。すると、


「綺麗に片付いていますね」


 部屋に入った綾香は中を見渡してそう言った。なので、


「ありがとうございます、ただ、綾香さんの部屋に比べたらかなり狭いので、少し窮屈に感じるかもしれませんが、そこは我慢して下さいね」


 一輝は少しだけ苦笑いを浮かべながらそう言った。


 事実、一輝の部屋は綾香の部屋に比べたら四分の一くらいの大きさしかないので、一輝がそう言うのも無理は無かった。しかし、


「いえ、そんなことはありません。寧ろこれくらいの広さの方が私としては落ち着けていいなと思います、それでは私はここで少しの間のんびり過ごさせてもらいますね」


 綾香はそう言うと、何を思ったのか彼女は部屋の隅に置かれている、一輝のベッドの傍へ歩いて行くと。


 当然の様にそのまま一輝のベッドの上に座った。なので、


「えっ、綾香さん!?」


 一輝が少し驚いてそう言うと。


「? 一輝くん、どうかしましたか?」


 綾香は一輝の方を見ると、一輝が何で驚いているのか分からないといった様子でそう言った。

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