第39話 慌ただしい昼休憩

 次の日の昼休憩、一輝はいつものように教室で颯太と共に昼ご飯を食べ終えて、自分の席に付いたまま、颯太とそのまま雑談をしていると。


「……ねえ、佐藤くん」


 そう言って、一人のクラスメイトの女子が一輝に向けて話しかけて来た。なので、


「えっと……何ですか、高橋さん」


 そう言って、一輝がそのクラスメイトに向けて返事をすると。


「……えっと、その……」


 その女子生徒は、何か一輝に聞きたいことがあるのか、そんな風に何かを言おうとしていた。すると、


「ああ、もういいよ、代わりに私が聞くね!!」


 彼女の傍にいたもう一人の女子生徒がそう言って、一輝の机の前に来た。そして、


「佐藤くん!! さっきAクラスに居る私の友達に聞いたんだけど、佐藤くんが立花さんと付き合っているっていう話は本当なの!?」


 彼女は一輝に対してストレートにそんなことを聞いてきた。しかし、そんな彼女の声は予想以上に大きく、クラス全域に響き渡り、クラス内に居た生徒全員の視線を一輝たちは一気に集めてしまった。そして、


「……おい、どうするんだよ、一輝、なんかお前たちのことがバレてるみたいだぞ」


「……ああ、分かっているよ」


 颯太に小声でそう言われて、一輝はそう答えた。そして、自分たちの関係がバレているということは、遂に綾香が自分と一輝の関係をクラスメイトに話したのだろう。


 そして、彼女がそう告白した以上、自分も意を決しないといけないと、一輝はそう思い。


 クラスの中に居る生徒全員に注目されているという現状で、一輝は心を落ち着けるように、その場で小さく深呼吸をして息を整えると。


「……ええ、僕は現在、立花綾香さんと付き合っています!!」


 こんな状況になった以上、変に誤魔化しても無駄だと思い、一輝はクラスメイト全員に聞こえるように、少し声を大きくしてそう言った。すると、


「「「えーー!?」」」


 一輝に質問をしてきた女子生徒を含め、クラスの中にいた生徒が男女問わず、多くの人がそう声を上げた。そして、


「佐藤くん、今の話は本当か!?」


 今まではろくに会話をしたことがない、サッカー部でそれなりにイケメンのクラスメイトが一輝の方へ駆け寄って来て、一輝に向けてそう質問をした。なので、


「……うん、本当だよ、嘘だと思うんなら、立花さんにも同じことを聞いてみるといいよ。多分、僕と同じ答えを言うと思うから」


 一輝はその勢いに少し押されつつも、そう言葉を返すと。


「……そんな、立花さん程の女性がどうして、佐藤くんみたいな地味で冴えない男子を……」


 男子生徒はそんな言葉を口にした。すると、


「おい、大輝だいき、幾ら何でもそんな言い方はないんじゃないか?」


 一輝の前の席で黙ってことの成り行きを見守っていた颯太が、少し声音を低くしてサッカー部のクラスメイトに向けてそう言った。すると、


「……ああ、そうだよね。すまない、佐藤くん、つい気が動転して大変失礼なことを言ってしまった。どうか許して欲しい」


 サッカー部のクラスメイトは本当に申し訳なさそうな表情をすると、そう言って、その場で一輝に向けて頭を下げた。なので、


「いえ、気にしないで下さい、いきなりこんなことを言われて驚くなという方が無理ですから。ただ、できたらこの話は悪戯に周りの人には話さないでくれませんか? もうバレそうになったので、僕たちの関係は皆に話すことにしましたが、だからといってこのことを必要以上に広めたいとは僕も綾香さんも思っていませんから」


 一輝はそう言った。すると、


「綾香さんか……うん、分かったよ、失礼なことを言ったお詫びに、このことはなるべく話さないように、サッカー部の人には話しておくよ……それじゃあ」


 そう言って、大輝は一輝の元を離れ、自分の席へと戻って行った。すると、


「ほら、高橋さんたちもいつまでも突っ立ってないで、自分の席に戻ったらどうだ? そろそろ昼休憩が終わって授業が始まるぞ」


 颯太が未だにその場に残っている、クラスメイトの女子二人に向けてそう言ったので。


「あ、うん、そうだね、私たちももう席に戻ろうか」


「うん、そうだね」


 そう言って、二人の女子生徒も自分たちの席へと戻って行き、その様子を見て、一輝たちの様子を伺っていたクラスメイト達も一輝たちから視線を外して。


 次の授業の準備を始めるために、自分たちの席へと戻って行った。そして、全てのクラスメイトの視線が自分たちから逸れたのを颯太が確認すると。


「……なあ、一輝、大輝の言ったことはあんまり気にするなよ。他の人が何と言おうと、俺はお前たちは十分にお似合いのカップルだと思うぞ」


 颯太は一輝を励ますようにそう言った。なので、


「ありがとう、颯太にそう思ってもらえているだけでも、僕は十分だよ」


 一輝はそう言った。


 その後の午後の授業は特に何事も無かったが、一輝はいつもよりも周りの視線を強く感じながら、学校生活を終えた。






 そして、その日の夜、一輝はいつものように綾香に日課の電話を掛けた。すると、


「はい、もしもし」


 そう言って、綾香が電話に出たので。


「もしもし、綾香さん、今電話大丈夫ですか?」


 一輝がそう言うと。


「ええ、大丈夫ですよ」


 綾香はそう言ったので、一輝はいつものように電話を続けることにした。そして、


「えっと、綾香さんは今日、僕たちが付き合っていることをクラスメイトの人に伝えたんですよね」


 いつもなら最初は軽い雑談をするのだが、今日はそう言ったモノはなく、一輝はいきなり本題に入った。すると、


「……ええ、そうですね、昼休みにクラスメイトの女性の方からそういった話題を振られたので、一輝くんからの許可も貰っていたので、その時に私と一輝くんが付き合っていることをその方に伝えました」


 綾香はそう言った。なので、


「まあ、そうでしょうね、僕は昼休みにクラスメイトの女子から綾香さんと付き合っているのかと聞かれたので、多分、綾香さんが話したのではないのかと、そう思っていました」


 一輝がそう言った。すると、


「そうですか……因みに、一輝くんはクラスメイトの方から何か言われましたか?」


 綾香は少し心配そうな口調で一輝にそんなことを聞いてきた。なので、一輝は一瞬、誤魔化そうかと思ったが、少し前に綾香には嘘を付かないと約束をしたのを思い出したので、正直に話すことにした。


「……実は、クラスメイトの男子の一人に、綾香さん程の女性がどうしても僕みたいな地味で冴えない男子と付き合っているのかと、そんなことを言われました」


 なので、一輝は正直にそう言った。すると、


「……誰ですか、そんなことを言ったのは」


 綾香は今までに聞いたことがないような低い声でそんなことを言った。なので、


「えっ、あの、綾香さん、どうかしましたか?」


 一輝が少し困惑した口調でそう言った。すると、


「……あっ、すみません、私の大切な一輝くんが馬鹿にされたのかもしれないと思うとつい、少しだけ頭に血が上ってしまいました」


 綾香は我に返って、少し申し訳なさそうにそう言った。なので、


「いえ、大丈夫です、寧ろ、僕のためにそんな風に思ってくれてありがとうございます……ただ、綾香さんの方こそ、僕と付き合っていると言ってから、クラスメイトの人たちに何か言われなかったのですか?」


 一輝が綾香に向けてそう質問をすると。


「えっと、それは……」


 綾香は何か言い辛いことがあるのか、そう言って口を閉ざした。しかし、一輝に対して隠し事をしないという約束を思い出したのか。


「……その、一輝くんからすると少し気分が悪くなるお話かもしれませんが、それでも聞いてくれますか?」


 綾香は一輝に対してそう言った。なので、


「……ええ、勿論です、それに僕たちが付き合っていることを話すと決めた以上、周りから何か言われることは覚悟していました。なので、綾香さんさえよかったら、話をして下さい」


 一輝がそう言った。すると、


「……一輝くん、分かりました、それなら、少し心苦しいですがお話しをしますね」


 綾香はそう言って、一輝に対して今日あった出来事を話し始めた。

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