第34話 真実の告白

「……よし!!」


 颯太に悩みを相談して、自分なりの結論を出した一輝はその日の夜、自分のスマートフォンを手に取ると、久しぶりに緊張した面持ちで通話ボタンを押した。そして、数回呼び出しのコールが響いた後。


「もしもし」


 そう言って、一輝の彼女である立花綾香が通話に出た。なので、


「もしもし、綾香さん、今時間は大丈夫ですか?」


 一輝はそう言うと。


「……ええ、大丈夫ですよ」


 綾香はそう答えた。なので、


「ありがとうございます」


 一輝はそう言った。しかし、


「「……」」


 それ以降、二人は電話越しで黙ってしまった。この毎晩の電話はもう一ヶ月程、毎日欠かさずに続けているため、普段なら今更気まずくなるようなことはないのだが。


 一輝が綾香の質問に答えられなかったのが原因で、昨日から二人の間にはなんとも言えない微妙な空気が漂っていた。


 しかし、一輝としてはこのまま黙っているわけにもいかないので。


「あの、綾香さん!!」


 一輝がそう言うと。


「えっ、あっ、はい!! なんですか?」


 突然大声で自分の名前を呼ばれて驚いたのか、綾香は少し声を大きくしてそう返事をした。なので、


「えっと、突然のことで申し訳ありませんが、綾香さんは明日なにか予定はありますか?」


 一輝は少し声量を落として真面目な口調でそう言った。すると、


「明日ですか? いえ、特に予定はありませんよ」


 綾香はそう言った。なので、


「えっと……それなら明日、何処かで僕と会ってくれませんか? その、綾香さんに大切な話をしたいんです」


 一輝はそう言った。すると、


「……大切な話ですか」


 綾香は一輝の口調でなにかを察したのか、そう言って少しの間黙っていた。しかし、


「……ええ、分かりました、それで、私は何時頃に何処に行けばいいのですか?」


 最終的に綾香は納得して、一輝にそう質問をしたので。


「えっと、それなら……」


 一輝は明日の集合時間と集合場所を綾香に伝えた。そして、


「分かりました、それならその時間に私はそこへ行きますね」


 綾香は一輝の提案に乗って素直にそう答えた。なので、


「ええ、よろしくお願いします……あの、綾香さん」


「なんですか?」


「……その、明日綾香さんにお話をする内容は綾香さんからするとかなりショックを受ける内容になるかもしれません。ただ、僕としては綾香さんを傷つけるつもりは一切ありませんでしたし、それに僕は今では綾香さんのことを本当に愛しています……そのことだけは覚えておいて欲しいです」


 最後の方は少し声を小さくしつつも、一輝は綾香に向けて真剣な口調でそう言った。すると、


「……ええ、分かりました、それでは一輝くん、お休みなさい、また明日お会いしましょう」


 綾香はそう言ったので。


「ええ、お休みなさい、綾香さん、明日はよろしくお願いします」


 一輝がそう言うとスマホ先の綾香は静かに通話を切った。そして、


「……僕たちの今後の関係は明日次第で大分変わるな……ただ、それでも、今後も綾香さんとの関係を続けられるように僕なりに精一杯、綾香さんに自分の気持ちを伝えよう」


 一輝はそう言って、手に持っているスマホを力強く握りしめた。






 そして、次の日、待ち合わせ場所のファミレス前で一輝が待っていると。


「お待たせしました、一輝くん」


 そう言って、綾香が店のドアの前で待っていた、一輝の前へと現れた。なので、


「わざわざ来て頂いてありがとうございます、綾香さん」


 一輝がそう綾香にお礼を言うと。


「いえ、別にいいですよ、それよりも大切な話というのはなんですか?」


 綾香は一輝に対してそんなことを聞いてきた。しかし、


「ここで話をするのもなんですから、取りあえず店内に入りませんか? ドリンクバー位なら僕が奢りますよ」


 一輝は綾香にそう言った。すると、


「分かりました、ただ、代金は自分の分はきちんと私が払うので、奢ってもらう必要はありませんよ」


 綾香はいつもと変わらない様子でそう言った。なので、


「分かりました、それでは店内に入りましょう、話は席に付いてからきちんとさせてもらいます」


 一輝がそう言って、二人はファミレスの中へと入った。


 そして、二人は窓際の席に向かい合って座ると、昼ご飯を食べた後だということもあって二人ともドリンクバーだけを注文して、各々好きな飲み物をグラスに注いで席に戻って来ると。


「それでは一輝くん、そろそろ大切な話というのを聞かせてもらってもいいですか?」


 綾香は一輝に対してそう言った。なので、


「ええ、分かりました……」


 一輝はそう言うと、綾香の顔を真剣な表情で見つめた。そして、


「今日、僕が綾香さんにお話をしたい大切なこと、それは先日、綾香さんに聞かれた僕が綾香さんに告白をした理由に付いてです」


 一輝はそう言った。すると、


「やはりそのことですか……その、聞いた私が言うのもなんですが、もし話し辛いことなのでしたら、一輝くんは無理に話をしなくても大丈夫ですよ」


 綾香は一輝を気遣うようにそう言った。しかし、


「いえ、気を遣ってくれるのはありがたいのですが、そんな綾香さんだからこそ僕は本当のことを伝えたいんです、ただ、綾香さんにとっては少し辛い話になりますが、それでも僕の話を聞いてくれますか? 僕は綾香さんには隠し事をし続けたくはないんです!!」


 一輝は綾香に向けてそう言った。そして、その言葉を聞いて綾香には一輝の本気さが伝わったのか。


「……分かりました、それなら一輝くんが私に告白をした理由を教えてください」


 綾香はそう言った。なので、


「分かりました」


 一輝は短くそう返事をした。そして、


「僕が綾香さんに告白をした理由、それは……」


 そこまで言うと一輝は一度言葉を切った。この先の言葉を口にすると、今の関係が終わってしまうかもしれない、そんな恐怖が一輝の中で大きく広がっていたが。


 それでも、自分のことを本気で好きでいてくれている綾香にこれ以上嘘を付き続けたくはないので、一輝は口を開いた。


「それは、僕が綾香さんのことが好きになったからではなく、罰ゲームで綾香さんに告白をすることになったからです」


「……え?」


 自分にとって聞きたくないことを言われる、それくらいのことは事前に予想していた綾香だが、それでもこんなことを言われるとは思っていなかったのか、彼女はそんな反応をした。


 そして、その後も一輝はそんな綾香に対して、自分が綾香に告白することになった経緯を正直に伝えた。


 しかし、一輝が話を進めるごとに、綾香は少しずつ顔を俯かせて、どんどん辛そうな表情になっていったので、一輝は思わず話を止めたいと何度も思ったのだが。


 それでも、綾香に本当のことを伝えると決めた以上、途中で辞めるわけにはいかなかったので、一輝は最後まで綾香に自分が告白することになった経緯を伝えた。そして、


「これが僕が綾香さんに告白することになった理由です。そして、今の綾香さんにこんなことは言いたくありませんが、告白していた当時の僕は、綾香さんのことを可愛くて綺麗な人だとは思っていましたが、正直、僕なんかとは関わりのない雲の上の存在だと思っていたので、どこを好きになったというのも当時はなかったです」


 一輝がそう答えたると。


「……そうですか」


 綾香は力なくそう答えた。ただ、自分のせいであるとはいえこれ以上、綾香の悲しそうな表情を一輝は観ていられなかった。なので、


「……その、今更こんなことを言っても遅いのかもしれませんが、颯太がそんな罰ゲームを言ったのは、僕たちが上手くいくからだと思っていたからで、決して悪意があったわけではないです。それに、僕は綾香さんと一緒に過ごしている内に、綾香さんの素敵な所がどんどん見えて来て、今では本当に綾香さんのことを大切に思っていますし、できればこれから先もずっと僕の彼女でいて欲しいと思っています……そのことだけは分かって欲しいです」


 一輝はそう言った。すると、


「……ええ、分かっています、斎藤くんとちゃんとお話をしたのは一度だけですが、それでも、彼は本当に私たちの仲を応援してくれていると分かりましたし、一輝くんが今は私のことを好きでいてくれているのも、ちゃんと理解しているつもりです、でも」


 そこまで言うと、綾香は一度言葉を切り。


「すみません、一輝くん、その話を聞いて私は直ぐに今後も今まで通りの関係でいましょうとは、言えません。だから、数日間、私に考える時間をくれませんか? その時間の中で私たちは今後も恋人関係を続けていくのかどうか、私は結論を出したいです」


 綾香は俯いたまま、一輝に向けてそう言った。なので、


「……分かりました、それなら僕は綾香さんの気持ちが決まるまでは電話もしないので、綾香さんなりの結論が出たら、その時は僕に電話をして下さい。綾香さんがどんな結論を出しても僕は文句を言いませんし、綾香さんの答えを尊重しますから」


 一輝はそう言った。すると、


「ありがとうございます、分かりました。それと申し訳ありませんが、今日はもう家に帰らせてもらいますね……今は少しだけ気分が悪いので」


 綾香はそう言うと、自分の鞄から財布を取り出すと、自分の分のドリンクバーの料金を机の上に置いて静かに席を立ち、ゆっくりとした足取りでファミレスを後にした。


 そして、そんな綾香の背中を見送った後。


「……本当にこれでよかったのか?」


 綾香の辛そうな表情を思い出して、一輝はかなり後悔した表情を浮かべながらそう呟いたが。


 当然だが、その問いに関する答えはどこからも帰っては来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る