第13話 ゲームセンター

「それで颯太、この後はどうするんだ?」


 その後、一輝が颯太に向けてそう質問をすると。


「そうだな……」


 颯太はそう呟くと、時間を確認するためか自分のポケットからスマートフォンを取り出すと、その画面を見て。


「……悪い2人とも、ボウリングに夢中で気が付かなかったけど、さっきバイト先の店長から電話があったみたいだ。一応今日は休みにしてもらっているのだけど、無視するわけにもいかないし、ちょっと掛け直して来るから2人はここで待っていてくれ」


 颯太はそう言うと、席を立って静かな場所へ向かうため、その場を離れた。すると、


「斎藤くんは何のアルバイトをしているのですか?」


 綾香はそんなことを一輝に聞いて来た。しかし、


「すみません立花さん、あついが何のアルバイトをしているのかは、僕も知らないんです。あいつは割と自分のことは何でも話をするのですが、どういうわけかアルバイトのことだけは誰にも教えていないようなのです」


 一輝はそう言って、綾香に説明をした。すると、


「そうなのですか、家の高校はアルバイトを禁止されていないので隠す必要もないと思うのですが。でも、休みの日にも店長さんから電話が掛かって来るなんて、もしかしたら意外と大変なアルバイトなのかもしれませんね」


 綾香はそんなことを言った。なので、


「そうかもしれませんね、ただ、今までの感じからして、颯太はこの先もバイトのことを誰かに話すつもりはないようなので、その答えはずっと謎のままな気もしますが」


 一輝はそう返事をした。すると、


「タッタッタ」


 そんな足音を立てながら、颯太が早足で一輝と綾香がいる席まで戻って来た。そして、


「悪い2人とも、バイト先の店長から今日も出勤してくれって言われちまった。だから、俺はもう帰るけど、後の時間は俺のことなんて気にせず2人で楽しく過ごしてくれ!! それじゃあな!!」


 颯太は早口でそう言うと、2人を残してそのまま駆け足でボウリング場を後にした。すると、


「……斎藤くん、帰っちゃいましたね」


 綾香がそう言ったので。


「……そうですね」


 一輝はそう答えた。正直、一輝からすれば毎晩電話で話をしているとはいえ、まだ綾香と2人で過ごすとなると緊張してしまうので、今日は最後まで颯太には一緒に居てもらいたかったのだが。


 急なアルバイトなら仕方がないなと、一輝がそう思っていると。


「ピロリン」


「ん?」


 一輝のスマホからチェインのメッセージが届いた音が響いた。なので、一輝はポケットからスマホを取り出して、その内容を確認してみると。


「悪い一輝、バイトが入ったっていうのは嘘だ! いい雰囲気みたいだから後はお前1人で頑張れ!」


(……あいつ)


 一輝は声には出さす、心の中で呟いた。


 そのメッセージを見た瞬間、颯太は元々、今日は最後まで付き合うつもりはなく、何処かのタイミングで自分は抜けて一輝と綾香を2人きりにつもりだったのかもしれないと、一輝はそう思ったが。


(まあでも、多分颯太のことだから僕たちに気を遣ってくれたんだよな……この場を用意してくれたのは颯太だし、ありがとうと言っておくよ)


 颯太が自分たちのことを考えて行動してくれていると分かってはいたので、一輝は心の中で今頃帰りのバスに向かっているだろう、颯太に向けてそうお礼の言葉を言った。すると、


「ピロリン」


 続けてもう一通、颯太からチェインが届いた。なので、一輝がその内容を確認してみると。


「でも立花さん、励ますためとはいえいきなりお前に抱き着くなんて、相当お前のことが好きみたいだな! これなら今日でもうキスとかその先まで行っちゃえよ!」


 そこには、さっきまでの感謝の気持ちを無に帰すような、そんな最低な言葉が表示されていた。なので、


「……やっぱり、さっきの言葉は取り消すわ」


 一輝が小声でそう呟くと。


「え? 佐藤くん、何か言いましたか?」


 綾香がそんなことを聞いてきたので。


「あっ、いえ何でもないです!! それより立花さん、この後はどうしますか? 最初は僕たちのやりたいことに付き合ってもらったので、次は僕が立花さんのやりたいことに付き合いますよ!!」


 一輝は誤魔化すようにそう言った。すると、


「……そうですね、これをやりたという希望は特にはないのですが、1か所だけ行きたい所があります」


 綾香はそう言ったので。


「それでも大丈夫ですよ、何処に行きたいのですか?」


 一輝がそう質問をした。すると、


「ゲームセンターです」


 綾香はそう言った。なので、


「ゲームセンターですか?」


 一輝がそう口にすると。


「意外ですか?」


 綾香がそう聞いてきたので。


「……はい、正直、立花さんがゲームセンターで遊んでいる姿は想像できないのでかなり意外でした。もしかして、立花さんはゲーム好きなのですか?」


 一輝は正直に答えて、綾香にそう質問をすると。


「いえ、そういうわけではないです。私の家にゲームはありませんし、ゲームセンターに行ったのも、私が小学生の時が最後です、でも」


 そこまで言うと、綾香は一度言葉を切り。


「ゲームセンターでクレーンゲームをしたりプリクラを撮ったりするのって、凄く恋人っぽいじゃないですか。だから、私たちもそういう経験が出来たらいいなと、そう思ったのですが……」


 そう言って、綾香は少し上目遣いで一輝のことを見て来た。そして、


「……可愛すぎる」


 そんな綾香の可愛らしいお願いと仕草にやられて一輝は思わずそう呟いた。すると、


「えっ、佐藤くん、今可愛って……」


 綾香は少し驚いた様子でそう言った。なので、


「あっ、いえ、何でもないです!! それより、そういうことなら早くゲームセンターに行きましょう!! 僕もそういうのは恋人みたいでいいなと、そう思いますから!!」


 一輝が誤魔化すようにそう答えると。


「そうですね、それでは行きましょうか」


 綾香もそう言って、2人はボウリング場を離れて、別の階にあるゲームセンターへと向かった。






 そして2人はエレベーターを使って移動して、ゲームセンターの入り口の前へと辿り着いたのだが。


「……思ったよりも音が大きいのですね」


 ゲームセンター特有の爆音を聞いて、綾香はそう言った。なので、


「立花さんは普段、あまり音がうるさいような場所には行かなのですか?」


 一輝がそう質問をすると。


「そうですね、私は普段は本屋やカフェなど、比較的静かな場所に行くことが多いですが……でも、大丈夫です。折角ここまで来たのですから、恋人らしいことをやりましょう」


 綾香はそう答えつつも、一輝に向けてそう言ったので。


「分かりました、ただ、気分が悪くなったら無理をせずに言って下さいね」


 一輝は綾香にそう言って、2人はゲームセンターへと入った。すると、


「うわあ、色々なゲームがありますね」


「そうですね」


 ゲームセンターへ入った綾香は辺りを見渡しながらそう言った。小学生以降ゲームセンターへは行っていないと言うだけのことはあり、綾香は最初の内は店内を興味深そうに見渡しながら一輝の横を歩いていたので、この調子なら大丈夫そうかなと、一輝はそう思っていたのだが。


 ゲームセンター特有の爆音だけでなく、今は日曜日の真っ昼間ということもあり、店内は学生や子ども連れの親子などかなりの人でごった返していて、綾香はその人ごみに酔ってしまったのか。


 時間が経つにつれて少しずつ、綾香は口数が少なくなっていき、笑顔を浮かべるのも辛そうになっていた。なので、


「立花さん、申し訳ありませんが今日はゲームセンターで遊ぶのは諦めて、少し休憩を取りましょう」


 一輝が彼女の体調を気遣ってそう言うと。


「……ええ、そうしてもらえると助かります」


 綾香はそう言うと、力なく笑った。






 その後、2人はゲームセンターを後にして、別の階にある休憩スペースのベンチに並んで座っていた。すると、


「すみません佐藤くん、私から言い出しことなのに、こんなことになってしまって」


 一輝が買って来た水を手に持ったまま、綾香は申し訳なさそうにそう言った。なので、


「気にしないで下さい、普段は静かなところにしか行かないのに、いきなりあんなにうるさくて人が多い所に行ったら、こうなってしまうのも無理はないと思いますから」


 一輝は綾香を励ますようにそう言った。すると、


「それもありますが、私はそれ以上にこんなにかっこ悪い姿を佐藤くんに見せてしまったのが非常に申し訳ないです。私は佐藤くんの前では可愛くて素敵な彼女で居たかったので」


 綾香はそう言った。ただ、そんなことを悲しそうにいう彼女の姿を一輝はこれ以上見たくはなかったので、


「そんなに気にしないで下さい、僕もボウリングでは立花さんの前でかっこつけようとしましたが、結果的には空回りをしてしまって、立花さんの前で恥ずかしい姿を見せてしまいましたから。ですが」


 そこまで言うと、一輝は一度言葉を切り。


「その後、立花さんに励ましてもらって分かったんです、恋人というのはお互いに支え合うモノだって。だから、立花さんが辛い時には僕が立花さんのことを支えてあげたいし、逆に僕が辛い時には、さっきみたいに立花さんに僕のことを支えてもらいたいです。だから、これから先、例え何かにつまずくことがあっても、お互いに支え合って、立花さんとの恋人関係を続けて行きたいです」


「……佐藤くん」


 綾香がそう言うと。


「えっと、これが僕なりの励ましの言葉ですが、もしかして、こんなことしか言えない僕だと立花さんの彼氏には相応しくないですか?」


 一輝は少し自信がない様子でそんなことを聞いて来た。しかし、


「いえ、そんなことはありません。寧ろその言葉を聞いて、佐藤くんが私の彼氏になってくれてよかったと、私はそう思いました」


 綾香はそう言った。何故なら、一輝の言った言葉は綾香が理想としている恋人像と全く同じものだったからだ。すると、


「そうですか、立花さんにそう思ってもらえたのなら嬉しいです」


 一輝は安心した様子でそう言った。なので、


「それならよかったです、ところで佐藤くん」


「何ですか?」


 一輝がそう聞くと。


「私は今とても辛い状況に居るのですが、佐藤くんはどうやって私のことを励ましてくれるのですか?」


「……え?」


 彼女にそう言われ、一輝は一瞬言葉を失った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る