第2章 3人でお出かけ
第6話 付き合って3日目の夜
日曜日の夜、夕食を食べ終えて、明日学校へ行く為の準備も済ませた佐藤一輝は自分のスマートフォンを手に取って電話帳を開くと、母親を除いて唯一、電話帳に登録していた女性の連絡先を開いた。そして、
「……よし!!」
一輝はそう言うと、ゆっくりとスマホの画面を押して、その相手へと電話を掛けた。しかし、
「プルルルルル……プルルルルル……」
一輝のスマホからは何時までもそんな着信音が響くばかりで、電話の相手が出る様子は全くなかった。
なので、一輝はタイミングが悪かったのかなと思い、一度時間を置いてから後で電話を掛け直そうと思い、一輝が通話を切ろうとすると。
「っつ、もしもし!!」
普段の落ち着いた雰囲気とは異なり少し慌てた様子で、学年一の美少女と言われていて、今では一輝の彼女である立花綾香がそう言って、一輝の電話に出た。なので、
「あっ、えっと、こんばんは、立花さん」
一輝は少し驚きつつもそう言って、綾香に挨拶をすると。
「ええ……こんばんは、佐藤くん」
綾香もそう言って、一輝に挨拶を返してきた。そして、
「その、すみません佐藤くん、電話に出るのが少しだけ遅れてしまいました」
綾香は一輝にそう言って、申し訳なさそうに謝ってきた。なので、
「いえ、別に大丈夫ですよ、僕の都合のいい時間に掛けているので、立花さんが電話に出られない事もあることくらい分かっていましたから、ただ、今回は随分と慌てて電話に出たようですが、立花さんはさっきまではなにをしていたのですか?」
一輝は綾香に対してそう質問をした。すると、
「えっ!? えっと、それは……」
綾香は何か言い辛いことでもあるのか、そう言って言葉を濁した。なので、
「あっ、すみません!!もし言い辛いことなのでしたら無理して言う必要はないですよ!!」
一輝は慌ててそう言ったのが。
「……いえ、そんなことは無いです、その、実は……」
綾香はそう言って、一輝になにかを伝えようとして来たので。
「実は、何ですか?」
一輝が改めてそう質問をすると。
「実は……さっきまで、私はお風呂に入っていました……」
電話越しで綾香は少し恥ずかしそうな口調でそんなことを言った。そして、
「お風呂……」
その言葉を聞いて、一輝は思わず数秒間、言葉を失ってその場で黙ってしまった。すると、
「……もう、佐藤くんのエッチ」
綾香は羞恥心とほんの少しの怒りが合わさったような声で、一輝に向けてそう言ってきた。なので、
「あ、いえ、違います!! 決して立花さんのそういう姿を想像していたわけではないです!!」
一輝は慌てて、綾香の言葉を否定すると。
「……それなら、さっきの怪しい間はいったい何だったのですか?」
綾香はそんなことを聞いて来た。そして、
「えっと、それは……」
その言葉を聞いて、一輝が思わず言葉を詰まらせていると。
「……その、佐藤くんが本当のことを教えてくれたら、入浴中の写真をあげてもいいですよ」
綾香は唐突にそんなとんでもない爆弾発言をした。すると、
「すみません!! 立花さんのそういう姿を想像してしまいました!!」
綾香のその言葉を聞き終えた後、一輝は一瞬でそう自白をした。なので、
「……えっと、佐藤くん、幾らなんでも自分の欲望に正直過ぎではないですか?」
その言葉を聞いた綾香が少しだけ呆たような口調でそう言ったので。
「仕方ないじゃないですか!! 立花さんの写真にはそれだけの魅力が詰まっているんですから!!」
一輝は開き直って力強くそう答えた。実際、こんな風に素直に答えることで、少なからず綾香からの好感度が下がることは、一輝は分かっていたのだが。
それを犠牲にしてでも、彼女の入浴中の写真は手に入れる価値があるモノだと一輝はそう思っていた。そして、
「えっと……それで立花さん、本当に写真は貰えるんですか?」
一輝が下心を隠しきれていない、少しそわそわした口調でそう聞くと。
「ええ、佐藤くんは正直に私の質問に答えてくれましたから、なので、約束通りコタロウの入浴写真を今度、佐藤くんにあげますね」
綾香はそんなことを言った。なので、
「ありがとうございます!!」
一輝は嬉しそうな声でそう言ったのだが。
「…………あれ?」
暫くすると、綾香の言った言葉が少しおかしかったことに一輝は気が付いた。そして、
「あの、すみません、立花さん、コタロウって一体誰ですか?」
一輝がそう質問をすると。
「私の家で飼っている犬の名前ですよ、確かに私は入浴中の写真を佐藤くんにあげるとは言いましたが、それが私の写真だとは私は一言も言っていませんよ」
綾香はそう言った。そして、その言葉を聞き終えた一輝は、
「……なんと言いますか、立花さんって、意外と悪知恵が働くといいますか、少し意地悪なんですね」
綾香に向かってそう言うと。
「そうですか? そのようなことを言われたことは初めてなので、あまり自覚はありませんが……」
綾香はそう言って、少し考えてから。
「確かに言われてみたら、私にはそういった面があるのかもしれません。でも、安心して下さい、私が意地悪になるのは佐藤くんの前だけで、他の人の前ではいつも通りの私でいますから」
綾香はそんなことを言ったので。
「いや、どうしてですか、僕の前でもいつも通りの立花さんでいて下さいよ」
一輝がそう突っ込むと。
「そうしたい気持ちはあるのですが、佐藤くんの反応がいちいち可愛いので、つい意地悪したくなるんです!!」
綾香は何故かとても嬉しそうな口調でそんなことを言ったので。
「かわっ……その、女の人と違って男は普通可愛いいと言われても嬉しくないので、できれば可愛いと言うのは止めて下さい!!」
一輝はそう言い返したが。
「えー、いいじゃないですか、実際、今みたいに照れている佐藤くんはとても可愛いと私は思いますよ!!」
綾香はとても明るい口調でそんなことを言った。そして、そんな彼女の嬉しそうな言葉を聞いた一輝はこれ以上彼女を説得するのは諦めて。
「……分かりました、立花さんがそこまで言うのでしたら好きにして下さい」
一輝はため息を付きながらそう言った。すると、
「ふふ、そういう優しい所も好きですよ」
「ぐはっ!!」
不意打ちでそんなことを言われて、一輝は心に大ダメージを受けた。
どうやら、一輝が彼女に好きと言われても平常心でいられるようになるのには、まだまだ時間が掛りそうだった。
その後も二人は特に話題を決めることもなく、お互いの気が済むまで緩い会話を続けていた。そして、
「えっと……それでは、もういい時間だと思うので、そろそろ電話を切りますね」
一輝がそう言うと。
「えっ、あっ、はい、そうですね……あの、佐藤くん」
綾香がそう言ったので。
「なんですか、立花さん」
一輝がそう聞き返すと。
「あの、折角恋人通しになったのに、こんなことを言うのは非常に申し訳ないのですが、学校では私たちは今まで通り、なんのかかわりもない、ただの同学年の生徒同士ということにしておいて下さい、今はまだ、他の方たちに私たちが付き合えっていることを知られたくはないので……」
綾香は申し訳なさそうに、一輝にそんなことを言った。なので、
「ええ、分かりました、ただ、その代わりと言ってはなんですが、明日以降も今日みたいに夜には立花さんに電話を掛けてもいいですか?」
一輝がそう質問をすると。
「ええ、それは勿論大丈夫です、佐藤くんと会話をするのは私はとても楽しいので、明日以降も佐藤くんが電話をしてくれるのを私は楽しみに待っています……それではおやすみなさい、佐藤くん」
綾香がそう言った後、別れの挨拶をしたので。
「ええ、おやすみなさい、立花さん」
一輝がそう言葉を返すと、彼女は静かに電話を切った。そして、
「……こうして電話をしていても、未だに僕が立花さんの彼氏になったなんて信じられないな」
一輝は一人そう呟いた。ただ、これはこの先、彼女と一緒に過ごしている内に少しずつ、自分も納得していくのだろうと一輝は思っていた。しかし、今はそれ以上の疑問があり。
「昨日電話を掛けるまでは、僕は立花さん相手だと緊張して、殆どまともに話せないと思っていたんだけど、何故か立花さんとは自然に会話ができているんだよな……僕は別に会話が上手いわけでも、女の人と話慣れているわけでもないのにどうしてだろう?」
一輝はそう呟いた、その答えは、一輝は自分では気付かない内に立花綾香と仲良くなり。
一年間、彼女と色々な話をして来た結果であり、もう既に二人は何の遠慮もなく色々な話が出来る間柄になっているからなのだが。
今の一輝にその答えを知るすべはないのだった。
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