エピローグ
半年後。結城宅。
「うあぁーー!! またバイト落ちたぁ~!」
「伊織、うるさい」
「なんだよ、その塩対応! 今回は面接受かると思ったんだよ!」
「何のバイト?」
「カラオケ」
「店長優秀じゃん」
「俺が無能だって言いてぇのか!?」
「今され言わなくても分かると思うけど、伊織に接客業は無理だと思うの」
「んなことねぇよ。やろうと思えば、出来る」
「じゃあ、やってみて。ほらそこにいるでしょ?」
紫苑はピッとリビングの方を指さした。
「はい、メテオー! 今回も私の勝ちっス!」
「やりますわね、レオナ。ですが、私はまだ半分の力すら出していませんの。私の持ちキャラはガノンですからね!」
「では、私はアンリエッタ様のサポートを」
「あーズルいっス! 2対1じゃないっスか! あ! メアリーさんこっちに来てください」
「え? あ、私ですか? でも、格ゲー?なんでやったことないです」
「教えるっスから、ね、ね、一緒にやるっス」
何故か我が家のリビングは謎のたまり場と化していた。
エルフの王女様に、そのメイドが2人、それから紫苑の後輩。
なんでこうなった。
「あらあら、随分賑やかね」
そして、ダイニングでは吸血鬼の真祖が当たり前のようにワインを飲みながらくつろいでいた。
「なんで、お前らうちにいんだよ!!!!!???!?!?!?!?」
「そんなのあなたを迎えに来たからに決まってるじゃありませんの」
お嬢様バージョンのアンリエッタがあっけらかんとそう言った。
「迎えってなんだよ。パーティでもあんのか?」
「いえいえ、お約束しましたよね? エルフヘイムに協力してくれると」
「それはもう終わっただろ。3か月前にそっちいって大体の仕事こなして解放してくれたじゃん!」
「それが、お父様たちが伊織さんの優秀さに惚れ込み、うちで雇わないかと言う話が上がってきているんですのよ?」
「宰相も喜んでいたな」
「はい、騎士団の皆様からの信頼も厚かったかのように見えました」
「あんなとこもう2度と行くか! それに俺はここで探偵の仕事をしなくてはいけないからな」
「あれ? でも依頼が来てるとこは見たことないっスよ?」
「余計なこと言わなくていいんだよ。ポンコツ悪魔」
「な! 誰がポンコツっスか!」
「自覚なかったのかよ」
「どのみち、職には困っていたのでしょう? だからこそ、アルバイトの面接を受けていたのではありませんの?」
「それは……まぁ……そうなんだが……」
「ですから、うちで雇いますから」
「いーやーだ」
「なんでですの!」
「俺はセントラルの人間だ。ここで生きていくって決めてんだよ」
「……それは紫苑さんがいるからですか?」
「なんだよ分かってんじゃん。そうだよ。俺は一生紫苑の傍にいると約束したからな。勝手に異世界なんかに移住できっか」
「でも、この前は来てくれたじゃないですか」
「あんときも紫苑同伴だっただろうが」
「あ~なるほど、そう言うことですね」
やっべ、嫌な予感がする。
「紫苑さ~ん?」
「お~う、我が天使、アンリエッタ。何用かな?」
「またエルフヘイムに来ていただけないでしょうか?」
「エルフヘイムに? ん~どうしよっかな~」
「ダメよ、紫苑ちゃん。あなたの予定は既に1年後まで埋まっています」
流石、紫苑のハンドラー。スケジュール管理は完璧のようだ。そのまま紫苑を引き留めてくれ。
「分かりました。では、エルフヘイムに来ていただける間は、毎日私が添い寝をしましょう」
「何してるの、みんな。早く行くよ」
「一瞬で堕ちやがった!!!!!」
「さっきまで部屋着でしたのに、もう外出用の服に着替えてます。私もあのくらい早く着替えられるようになれば……」
「恐ろしく速い旅行準備、私でも見逃しちゃったわ」
「チョロすぎて、あれが本当に世界最強なのか疑うレベル」
マジで行くんすか……。しかも、今すぐ?
「久しぶりの異世界旅行! ワクワク」
だけど、ま、紫苑の無茶ぶりはいつものことか。
「準備するからちょっと待ってろ」
俺は自室でエルフヘイムに行くための荷物をまとめる。
「この前行った時から、着替え以外のものは入れっぱなしだし、そこまで時間はかかんないだろ」
「いーおーりー! 早くー!」
「おめぇじゃねぇんだよ。そんなに早く準備できっか!」
玄関で紫苑が待ちきれず騒いでいた。
近所迷惑なのでやめてもらいたい。
とりあえず、適当に衣類を詰め込んで、足らなくなったら向こうで調達しよう。
「…………ん」
他に忘れ物がないかと部屋を見渡した時、机の上に置いてあった写真立てが目についた。
それは俺が紫苑に拾われた日に撮られた1枚。
「忘れてた」
俺はその写真をそっと鞄に入れ、部屋を出た。
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これは伊織の知らない物語。
「結城紫苑、1つ聞きたいことがある?」
それはアウローラでの一件の時、アリアが心の内を紫苑に話した後のこと。
「いいよー。NGなしで何でも答えちゃう」
「何故、東雲伊織なんだ? どうして、そこまで彼に執着する?」
そう聞かれた瞬間、紫苑はアリアから視線を逸らした。
「そんなの決まってるじゃん――――
――――――好きだから」
「……………ふっ」
「あ! 今、笑ったでしょ!」
「いや、貴様でもそのような顔をするのだなと」
「ひ、冷やかしは良くないよ!?」
「で、それは本人には伝えたのか?」
「べ、別にそれはアリアには関係ないじゃん!」
「NGなしで答えてくれるのではなかったのか?」
「あーあーあーあーあー、聞こえなーい」
「世界最強の弱点を見つけてしまったな」
「やっぱり、ちょっと楽しんでない!?」
「安心しろ、本人には黙っておいてやる」
「あーーーー!!! もう、言うんじゃなかった!」
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