探偵の初仕事Ⅳ
「どったん?」
俺は至って平静にそう返した。
「どったん? じゃないです! 誰が彼氏ですか!」
「彼氏? 何の話だ」
「さっき子供たちに言ったそうじゃないですか!」
「あ~~~」
そう言えば、ガキどもの相手が面倒で適当にそんな返事した気がする。
「その子供たちが兄や姉に、つまり私の同級生に私が彼氏できたって言いふらしてたんですよ! どうしてくれるんですか!?」
「すまんすまん」
適当に謝って、コーヒーを飲もうとした。
「東雲さん!」
だけど、朱莉は俺からコーヒーカップを奪い取る。
「のんきにコーヒーなんか飲んでる場合じゃないです!」
そして、朱莉が手にしたコーヒーカップはどんどん小さくなっていった。
「ねぇ、俺のコーヒーは?」
「これで充分でしょ?」
小さくなり過ぎたコーヒーカップはもう俺の手で持てるようなサイズではなかった。
どうやら、朱莉の異能力のようだ。触ったものを小さくできるてきな感じか? 大きくも出来たりするのだろうか?
「とにかく! ちゃんと責任は取ってくれるんですよね!」
「責任って? 結婚すればいいのか?」
「なっ!」
朱莉は一瞬固まり、顔を真っ赤にしていた。
「そう言うことじゃないです!」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」
「私も弟を探す手伝いをさせてください」
「…………さっきも言ったが、DDDが動いてんだ。俺たちに出来ることなんてねぇよ」
「じゃあ、どうしてあなたはまだここにいるんですか?」
「…………」
「まだ、弟を探してくれているんですよね。じゃなきゃもう帰ってるはずですものね。さっき私を安心させて帰らせたのは危険に巻き込みたくないとかそんなこと考えてたんじゃないんですか?」
………ったく、頭のいい奴は苦手なんだよなぁ。
「まぁ、そうだが。残念ながら正直、手詰まり状態だ」
「私にもお手伝いできることがあるかもしれません。どこまで調べたのか教えてもらっていいですか?」
ん~、まぁいいか。言っても損することなんてないしな。
俺はかいつまんで今の状況を説明した。
「そう、だったのですね。水奈月さんたちが……」
自分の知り合いが犯罪に加担していたと知り、少し肩を落としていた。
「で、なんか知らないか? 水奈月家に関して。特に2年位前だ」
「2年前ですか……う~ん」
朱莉は記憶の奥底をたぐるように思い出そうとしていた。
「あ~そう言えば」
「何か思い出したのか?」
「水奈月家に遊びに行ったときに、私たちとは別に水奈月のおじさんとおばさんにお客さんが来てました。なんか2人とも怯えているような、崇拝しているような、そんな矛盾した感じで対応していて、違和感があったのでよく覚えています」
「訪ねてきた奴の特徴や人数は?」
「2人だと思います。部下と上司って感じでしたね。上司の方の印象が強くて部下の方の記憶は曖昧なのですが」
「じゃあ、上司の方だけでも教えてくれ」
「すっごく細い体で、髪は茶色っぽい髪でしたね」
「他にはなんかないのか? それだけじゃ判断つかん」
「後は…………あー、目が少しだけ赤かったような……」
「目が赤い……? それは本当か!?」
「え……は、はい」
俺が急に大声を上げたからか、朱莉はビクッと肩を震わせた。
「何か分かったんですか?」
「いや、確信はない。だから、ちょっとこの写真を見てくれ」
俺は1枚の写真を朱莉に送る。
「あ、来ました。これですか?」
そう言って、朱莉は俺の送った写真ファイルを開く。
「あ、そうですそうです! この人です! 間違いないです!」
「そうか、その写真に写ってる奴がいたんだな」
「そう言えばそうです、こんな死んだ魚の目みたいなのしてました。けど、誰です? 東雲さんの知り合いなんですか?」
「アホか。そいつは犯罪者の写真だよ」
「は、犯罪者!?」
「こいつの名はフラン・リッター。過激派宗教団体ヴェスパーのトップに立つ男だ」
「ヴェスパー? フラン・リッター?」
聞き馴染みのない言葉だったのか、朱莉は首を傾げていた。
そうか。ヴェスパーは表に出てこないから一般人にはあまり認知されていないんだった。
「裏の世界で有名な犯罪者だ。詳しいことは知らない方が身のためだろうし、あえて言わないが」
「そ、そんな極悪人に弟が捕まっているならなおさら早く助けに行かないとじゃないですか!」
「わーってるよ」
フランが彼女たちの前に現れたというのは貴重な情報だ。
ヴェスパーは表に顔を出さない。特にフランは裏で画策していることが多い。
そんな奴が末端の人間のところに直接顔を出すとは思えない。
となると、水奈月家に何かあると考えるのが妥当だろう。
けど、さっき調べた時、水奈月家が裏社会と繋がっていそうな形跡はなかった。
ん、いや、そう言えば、朱莉が来る直前に、水奈月夫妻がペーパーカンパニーの中に入っていくところを見たんだった。
フランが関わっているなら、十中八九ヴェスパー関連の会社だと思うが。
「……ダメだ、何も出てこない」
直接この会社に行ってもいいんだが、どうせもぬけの殻だろうしあんまり意味はなさそう。
それよりも水奈月家に行った方が得られる情報はありそうだが……。
「問題は見張りのDDDだよな」
仕方ない。ちょっとリスクあるが、偽情報流してどかすか。
バレたときは紫苑に何とかしてもらおう。
と言うことで、水奈月家の見張りをしているDDDに機械音声で、犯人のふりをしDDD局員を適当な場所に呼び出した。
「よし、行ったな」
監視カメラでDDD局員が移動したのを確認し、俺は席を立つ。
「もしかして、見つかったんですか!?」
「いいや、これから水奈月家に行く」
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