探偵の初仕事Ⅲ

 下校ルートにある監視カメラの数は全部で11台。

 ここから、樹斗がいなくなったとされる時間帯で絞り込み動画を調査していく。



「校門を出たところは確認した。数人と一緒に帰っているな」



 少しだけ映った後、画面外に消えていった。



「次はここか」



 下校ルート順に監視カメラを見ていく。見ている感じちゃんと下校ルートは守って帰っているようだ。

 友達も何人か一緒にいるし、攫われそうなタイミングは今のところ見つからない。



「後2つ。コンビニに1つ、住宅街に1つ」



 コンビニの監視カメラには樹斗ともう一人、友達が画面の端に少しだけ映っていた。



「問題ないな」



 そして、最後のカメラ。



「……………………………………………来ないな」



 いつまで経っても、最後のカメラの場所に樹斗の姿が現れなかった。

 ってことは、コンビニから住宅街の監視カメラのある場所までの間になにかあったってことか。

 確かにここは人通りが少なく攫うなら絶好の場所のように見える。

 その辺ちょっと見て周るか。ついでに樹斗と一緒にいたガキの家にも寄っていこう。

 えっと、カメラに映ってたあのガキは……水奈月拓登(みなずきたくと)か。家はここから歩いて行けるな。

 俺はファミレスで会計を済ませた後、その足で水奈月宅へと向かう。



「この辺だったと思うが…………っ!」



 表札に水奈月と書かれた家を見つけたが、俺はそちらに視線を送らず、そのまま素通りした。

 そして、何事もなかったかのように水奈月宅から少し離れたコンビニの中に入った。



「あっぶね、あぶね」



 未だに心臓がバクバク言っている。



「足がはえぇな」



 水奈月宅の近くを通った時、スーツ姿の男性が数人うろうろしているのが見えた。

 恐らくDDDだろう。

 あのおばさんの通報を受け、俺と同じように水奈月拓登に目を付けたのだろう。



「気づかずにインターホン押してたら、事情聴取されてただろうな。最悪、捕まってたかも」



 あのままDDDが見張っていたら、水奈月宅に行って調べるのは不可能そうだ。

 てか、DDDが調べてるなら、俺が出張る必要もなさそうだな。

 このまま帰ってもいいが、依頼を中途半端で投げだしたら、紫苑に文句言われるだろうな。

 なんで私のことすっぽって仕事に行ったくせに、ちゃんと依頼片付けないの! とか何とか。



「適当にアイスでも買って帰ってやるか」



 チョコミントでいいだろう。全人類が大好きなアイスだし、文句言われんだろ。

 と、アイスコーナーで物色していた時、



「あ!」

「ん?」



 見知らぬガキに指さされた。

 なんだよ。俺なんかしたか?



「さっきの兄ちゃんだ」

「は? さっき?」



 どっかで会ったか?

 いや、見覚えがマジでない。

 とか、考えていたら、ガキがさらにガキを呼んできた。



「なぁなぁ、見ろよ。さっきのあれじゃね?」

「あ、ホントだ」

「なになに?」



 なんかどんどんガキが増えてきたんだが。4人くらい。



「お前らなんだ。人のこと指差して。失礼だぞ」

「兄ちゃん、あれだろ? 樹斗の姉ちゃんの彼氏だろ?」

「は? 誰の彼氏だって?」

「だ~か~ら~、樹斗の姉ちゃんだって」



 樹斗……あぁ、あの行方不明のガキか。



「って、彼氏って何の話だ!」

「だって、さっき一緒にファミレス入っていくの見たぜ」



 なんでそれだけで彼氏判定されるんだ。

 小学生ってそういうとこあるよな。2人きりの男女見たら全員付き合ってるとか思っているのマジでやめてほしい。



「ん、てか、お前らあれか? 樹斗ってガキの知り合いか?」

「話逸らすなよ~。彼氏なんだろ?」



 めんどいな。



「ああ、もうそれでいいよ。それでどうなんだ? 知り合いなのか?」

「マジかよ!」

「あ~あ、拓登のやつが知ったら落ち込むぞ」

「失恋だな」



 こいつら、俺の話聞いてないな。



「おい、何でも好きなアイス買ってやるから、俺の話を聞け」

「え!? マジ!? 聞く聞く! なに?」

「お前ら、樹斗を知っているのか? あと、拓登ってガキも」

「知ってるも何も同じクラスの友達だよ」



 なるほど、ちょうどいい。



「その2人はいつも一緒に帰っているのか?」

「うん、家の方向同じだしな」

「そうそう、それにあいつら仲いいし」

「でも、拓登は樹斗の姉ちゃんに惚れてるからそれで仲良くしてる感あるよな」



 ふむふむ。



「それで、昨日、2人はどこかに遊びに行くとか話してたか?」

「拓登の家で遊ぶみたいなこと言ってなかった?」

「言ってた言ってた。新しいゲーム買ったからとか」

「あ~あれな。俺もやりたかったわ」



 そう言うことか。

 監視カメラの映像から判断するに、樹斗は家に帰らず、そのまま水奈月宅に行ったって感じか。

 DDDが家を見張っていることも考えて、水奈月家が怪しさ満点だな。

 ちょっと調べてみるか。



「ガキども、いい情報をありがとう」



 樹斗のクラスメイト達にアイスを奢った後、俺は近くに喫茶店に入り、ARコンタクトを起動する。

 確か、水奈月宅の前を通った時、車がなかったよな。

 水奈月の両親が所有する車両を特定。その情報をもとにNシステムをハッキングし、行方を追う。



「昨日の夕方に車を出して、それっきり帰ってないな。時間的に樹斗が水奈月宅に行ったのと一致するし、ほぼ確定だな」



 車は東京都を出て、埼玉へ向かっていたが、昨日からずっとそこにとどまったまま動いた形跡がない。

 DDDならこの車の場所は特定できているだろう。にもかかわらず、未だに樹斗が見つかっていないってことは、これはかく乱のためと見ていいだろう。

 別の移動手段を使った可能性が高いな。

 車両だとNシステムで足が付く。それを避けるなら、やっぱり異能力か魔法を使った線が濃厚だな。

 そうなるとカメラのハッキングで居場所を特定するのは現実的じゃないな。

 別の切り口から考察していった方が良さそうだな。

 水奈月家が能力者狩りに関わっている前提で考えたとして、DDDにマークされる程度だから、彼らは主犯ではなくトカゲの尻尾程度の位置づけだろう。

 主犯ならそんなへまはしないだろう。能力者を狩ってもすぐに捕まってしまえば、売ることすら出来ないのだから。

 じゃあ、水奈月家はどうして能力者狩りに関わっているか、と言うことになるが、弱みを握られているか、あるいは、金だな。

 弱みに関しては調べるのに時間がかかりそうだから、金の方面でまずは調べていこうか。

 ベタなところで口座を確認しよう。



「…………あった」



 水奈月家が使っている口座は2つ。

 ここから不自然な金の流れを見つけられたら、めっけもんだけど。



「クレジットの引き落としに、公共料金の支払い……会社からの給与振り込み……ま、何もないか」



 足がつくし、流石に口座に振り込みはないか。もし、金がらみだとしたら、手渡しの方が安全だよな。

 こうなると、弱み握られている方面で探さなきゃいけないな。

 こればっかりはハッキングだけで行けそうにないんだよな。関係者への聞き込みとかしないとだし、DDDの方が早く情報掴みそう。

 根気よくやっていくしかないかぁ~。

 と思ったが、口座の履歴を見ていてあることに気が付いた。



「あれ? 2年前までは口座から金を引き落としているな」



 金額的に生活費だろう。毎月、一定金額を引き落としていた。

 だが、一時を境に全く金を引き落とさなくなった。

 カード払いが増えたのかとも思ったが、クレジットの利用金額は増えていない。



「現金を手渡しで受け取って、そこから使ってるから口座から引き下ろす必要がなくなったとかか?」



 となれば、2年前に何かがあったはずだ。

 これで調べる範囲がだいぶ狭められるな。

 とりあえず、最後に金を落とした日から1か月間何があったか追ってみるか。

 監視カメラや職場の日報などをハッキングして得られる情報を増やしていく。

 カメラの方は俺一人じゃ時間がかかりすぎるからAIに任せて俺は他の部分で情報を集めよう。



「しんどいが、こういうのは根気が大事。だって、俺に出来ることなんて、これくらいしかないのだから」



 水奈月家の会社情報を調べていたら、監視カメラを見ていたAIからアラートがなった。



「なんだ?」



 何かを見つけたらしく、その映像を映し出す。

 そこには水奈月拓登の両親が映っており、怪しげなビルの中に入っていった。

 AIが検知したってことは普段いかない場所ってことだよな。

 気になって、水奈月夫妻が入ったビルを調べる。



「ペーパーカンパニーだな」



 そこのビルに入っていたのは、名前だけの架空の会社だった。

 じゃあ、次はこの架空の会社の元を辿るか。足がつかないようにしているとは思うが。

 地道な作業過ぎて気が遠くなりそう。

 ただまぁ、まだ俺に出来ることが残っているのなら、やるっきゃないよな。



「よし、やるぞ~」



 と、気合を入れなおした瞬間、喫茶店の扉が勢いよく開くのが見えた。



「いた!」



 入ってきたのは見覚えのある女子高生。

 なんか俺の方を見て、指さしてきた。てか、あの感じ、怒ってる?

 俺なんかしたっけ?



「ちょっと、東雲さん!」


 どかどかと俺の席までやってきた朱莉はドン! と俺の座っているテーブルの上を強く叩いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る