カノジョ
バブみ道日丿宮組
お題:自分の中の喪失 制限時間:15分
救える生命があるとしたら、救えない生命もある。
まさに目の前で生命が終わろうとしてる。
血だらけの彼女はどう考えても手遅れ。救急車がきたとして蘇生するなんてことは奇跡が起きても不可能。止血しようにも胸に刺さったナイフは抜けない。少しでも辛くないように抜けばいいのかもしれないが、僕にはできなかった。
刺した人間である彼は、自分で首の線をきった。即死ができない自殺だった。散々叫びながら、先に死んだ。死ぬなら一人で死ね。彼女を巻き込むなよ。彼女がストーキング被害にあってるという時に、もっと対策をすべきだった。
そうすれば、死ぬなんてことはなかっただろう。
それでも……。
登下校中に刺されるというのは、回避できないかもしれない。
満員電車での痴漢、暴漢によるレイプ。ヤンキーからのカツアゲ。いじめ。
いろいろな問題が日常に存在してる。
それらを解決できないのに、すれ違いざまの犯行を回避するなんてことはできない。
誰かが自分を襲う。
そんな被害妄想を持って生活することはできない。それはもうまともじゃない。気が狂ってるともいえる。
彼はそうだったのかもしれない。
彼女を求めすぎて、おかしくなったかもしれない。
ようやくというか、救急車の近づいてくる音が聞こえる。
今から処置しても無理だろう。
アスファルトの地面に広がるのは彼女と、彼の血。
こんなにあるのかというくらいに流血したそれはもう回収することはできない。
消えてく生命。
無気力になるしかなかった。
ぼーとしてると、救急隊員がかけよってきて彼女を救急車に運んだ。
僕は指示に従うかのようについてった。
彼女の呼吸は止まらなかった。
終わると思った生命は、処置でなんとか和らいだようだ。
病院につくと、すぐに手術室に運ばれてった。
何分か経つと、おばさんがやってきた。
『ごめんなさい』と、おばさんはいった。
何を謝る必要があるのかと、顔をあげると、おばさんは笑ってた。
わけがわからなかった。
娘が通り魔にあって、なぜ笑ってられるのか。
『こうなる未来だったのよ』
告げられる言葉は信じられなかった。
未来? 占いなんてものが当てはまるようなことじゃないだろうに。
『大丈夫、傷は残るけれど死なないわ』
医者でもない人間が何を言うのか。
『そういう未来でもあるから』
これはおばさんじゃないのかもしれない。似た誰か。
なんか疲れたなと思えば、僕は知らない病室で眠ってた。
隣には規則正しい呼吸をする彼女がいた。
カノジョ バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます