第37話 笑顔と笑顔の隔たり 【一花】
ちょうど、洗い物をしていると、一樹が、
「優は?」
って聞いてくるから、
「もう寝てるよ、よっぽど疲れたんだね」
って答える。
あの後、優の家から持ってきてくれたA5和牛のステーキを食べた後、ちなみに味付けは、私と翔が、塩とレモン派で、和樹と優は醤油派なんだよね。ともかく、一樹と優は、なにがなんんでも醤油をかけたがる。
で、その後、家につくなり、テンションの高い優が、さっきまで会っていた『樹里』さんの話を出してきたから、ここなら一樹もいるし、変な話になる前にって思って、前もって話しよ、って言ってから食事の後、優に今の、私の知ってる樹里さんを紹介してあげたの。
この家の一番奥の和室にいつもいるから。
で、遺影と仏壇を見せて、
「この人が、私の知ってる樹里さん」
って教えてあげたら、優、膝から崩れ落ちてた。KOみたいな感じで。
基本的に、私は優には嘘つかないって、優自身が知ってるしさ、だからそこは疑わない優としては、
「じゃあ、あたし、死んだ人と話してたって事か? ゾンビには見えなかったぞ」
って、死体がなきゃゾンビにならないから違うし、寧ろレイス?とかゴースト系?? 本体持ってない系ね。生きてないからドッペルゲンガーでもないしね。
で、
「一花、おまえ、なんてこと言うんだよ、あたし、帰れなくなっちゃったじゃんか、もう無理だぞ、日が暮れた道を歩くなんて、1クラスくらいいないと無理だぞ」
って、全身から力が抜けて、仏壇前で、突っ伏したまま言ってる。
優って、こういう話ダメだった。
あと、虫とかもダメ、綺麗な蝶ですら、アップで見た印象が忘れられないって、ともかく虫全体が苦手なんだよね。乙女な子なんだよ。
そして、
「もっと早く教えてくれよ」
って呟いてたけど、
「じゃあ…‥」
って言いかけると、
「あの時の更衣室では黙ってくれ、いや、くれたありがとうだよ」
って、まあ、わからんでもない感謝をされる。
でも、まだ蟠ってるみたいで、
「たとえばさ、飯を食う前に、だよ、もっと早いタイミングでも良かったじゃん」
とかいうの、優、かわいい。
でも、それじゃあ今と変わらないし、かって怯えてる時間が長くなるんじゃあ、ないかって気はしたけど、あまりにも青い顔してう優だったから、
「ごめん、そうだね」
って言っておいた。
すると、きっと怖いんだろうけど、そこは優なんで、再び、いえ、さっきよりもっと長い時間、樹里さんの遺影を見つめるんだよね。
じっくりと、一部の隙も見逃さないくらいに、隅々まで見てる感じ。
優ってね優秀なボクサーなのね。だから動体視力とかすごいの。
当然目とかもいいし、目で捉えた現状を映像みたいに頭に保管するの。
だから、組手をしてても、あんまり同じ攻撃は通用しないっていうか、ともかく瞬間の頭の良さがすごい子なの。
だから、きっと、一番最初にその遺影を、微笑んでる樹里さんの遺影を見た時、恐怖が先に走ってしまったけど、それだけでもなく、何かが彼女の中に残ったんだと思う。
優はつぶやくのよ。
「なんか違う?」
その遺影、家族写真の中から切り抜いた、穏やかに笑う樹里さんの笑顔を見て、優は言った。
「顔は同じだ、きっと大きさもだな、顔だけだからわからないが、そんな感じがする‥…」
私は優の出逢った樹里さんを知らないから、その違いを聞きたかった。
優は言う。
「笑顔の形がさ、なんか違うっていうか……、雰囲気とかじゃなくて、形だよ、だから、三角じゃなくて四角みたいな?」
って、強い視線で、突っ伏したまま顔だけこっち向けて、きっと優的には、伝われって、気持ちを込めて私に言ってる気がする。
ああ、だから伝わってるのね、さすが優。
この遺影の写真。
家族で、私たちも含めてふた家族で撮影した写真。。
あれは、小学校に入学した時の記念写真、だから、近くの写真館に行って、撮影しった何枚目のうちの一枚。
きっと、この樹里さんと、優の出会った樹里さんは、同じ表情をしていたのだと思う。
つまり、被写体として、前に向けて作り出す笑顔。
だから外行きの笑顔。
どうしてそれがわかるかって?
だって、樹里さん、あの時、家族に囲まれて笑顔なんて見せるはずのないことを私は知っていたの。
当時、小学校に入りたての私がね。
彼女はきっと、もっと違う笑顔を、ここにいる人たちには知らない誰かにそっと、むけている。それは決して、自分の生活にかかわる人になんか気取られてはいけない事だから。
だから、優に見せた、誰か知らない樹里さんも、きっと優には外行きの笑顔を見せていたのが私にはわかる。
同じ表情で、同じ顔で、同じ外面で、異なる笑顔。
遠くからスマホを通じて聞こえる声も、まるでなぞるみたいな、言葉と音だった。
私は、私の家族を守る準備を開始する。
相手がだれで、何を目的にしているのか? そんなことは今はいい。
少なくとも、樹里さんの死に関わった人は未だ捕まっていないのだから。
警戒は最大にする。
って、優、静かだなあ……って思ってたら、寝てるし、その後、引きずって私の部屋に入れて、一樹の待つ台所に行ったのよね。
そして、今、洗い物を手伝ってるところ。
「何か心配事?」
一樹が聞いてくる。
私は笑顔で首を振って、それを否定する。
ううん、大丈夫。
これ以上、一樹の心を乱したりしない。
これは私の問題にする。
絶対に守るからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます