第23話 桜川律子のリポート①
私は、桜川律子、32歳。
契約の元、政府に雇われた精神科医だ。
現在は、政府のとち狂った政策として、『早期未成年婚』制度のカウンセラーとして、この町に赴任している。
もちろん、未成年で結婚してしまう、とくに妻、若い奥様へのケアを中心に、その関係が継続的に、また、回避できない破局であった場合の、とくに男性側のDVなどの抑制、また、妻側の避難等も主だった仕事だ。
特に夫側が、肉体的に、また精神的に妻を離せない場合が多い。
これは私達、哺乳類に根付いた本能である『配偶者維持の本能』によるところが大きく、ほとんどの夫的立場である少年は、粗暴になる傾向がある。
どうあっても、自分の妻を離そうとかしないのだ。
これは若い夫ほど、その傾向が強く、また、妻側の親族にすら、その攻撃を向ける事さえある。
ともかく力で支配しようとするのだ。
かつてなら、ひとまず妻を遠ざけて、法的に距離を取り、完全な安全を図るためには、増悪を向ける夫の関心への薄れを待つしかなかったが、今は、夫側への投薬と専門病院への入院で対応できるようになった。
私の患者でも、以前、早期未成年婚をした女性が、心の病となってしまい、離婚してから3年もたつが、今でも通院し、私がその対応に当たっている。
結局のところ、年端もいかぬ子どもたちを結婚させるという、この方針、あまり、こんなことは書きたくはないが、この早期未成年婚は、女性には相当に負担が大きすぎる。
結婚とは男に比べて、女性の方が、成功すればこそメリットもあるが、それらが全て裏がえった場合、つまり夫婦の生活がうまく行かなかった場合、そのデメリットは全部とはいかないが、相応に女性の心身を容赦なく蝕むケースは多い。
また、私の仕事上の事でいうなら、肉体的には、生理と妊娠を管理される。プライベートもあったものではない。
管理と言えば大げさではあるが、それは一つの指針であり、それを仕事としている部署がある以上、細かく記録される必要もある。
そこまでしなくても、と思うのではあるが、関係各省がある以上、目に見えて形の残る仕事は必要なのだ。
政府と言ってもお役所の考えそうなことだ。
それでも、私事としては、私の持つゼミでの良い研究対象となっている。
さて、話を戻そう。
この早期未成年婚。
低年齢層からのSEXを進めており、最初こそ避妊推奨なのではあるが、政府の思惑だと、徐々に避妊を停止し、個人差もあるが、順調なものであれば、18歳での妊娠、もしくは出産が一つの目標になっている。
その後、経過を見つつ20歳代で、2~3名の出産、育児を推奨、計画されて、早期未成年婚をする者達は、政府主導の下、人口の上昇に寄与する為の行動は完結する。
だが問題もある。
先ほどの妻の、つまり女性の負担の話だ。
この計画に乗ることで、妻となる女性は、大きく社会に出遅れることになる。
第一児出産し、乳幼児から幼児期間、1~2年の子育てを終えた後、社会に出る、または大学に行く。
この時期の二年間の遅れは、働くにしても、学ぶにしても、大きな損失になる。
また同じ年齢の婚姻が多い中、つまり16歳どうしの結婚であると、どうしても男性側の幼さが消えない。同じ歳の妻への依存が大きくなる。
基本的に親が恋愛を教えることが少ないこの国において、それらの知識は、メディアから、吸い上げる事も多い。
そのため誇張されたり偏ったりしている内容のみに影響を受ける男性の場合、妻が妻と認識できない場合も多い。
中には妻と母が混成してしまう場合が多く、この場合、依存、甘え、セックスレスなど、弊害が多く存在する。
もちろん、メディアも商売として行う事なので、興味本位と利益に導かれ、その内容はだいぶ偏ったものになっている。
特に、深夜に逸るアニメや、少女達が読む漫画など、現実模倣しつつも、実際にはありえない世界を、本当の世界の様に作りこまれるので、それに影響された子供達が、本当の人間の姿を見誤ることが多く、今の少子化の根本原因ではないかと騒ぐ者たちもいる。
そんな中、国会は一時期ではあるが、深夜アニメやコミックスによる『ラブコメ』を禁止する、俗称、『ラブコメ禁止法』などという、行き過ぎた発議をする政党まで現れる騒ぎにまでなったという。
もちろん、それが的外れで正し事ではないことを誰もがわかっていた事だ。
確かに、それも一理はあったかもしれない。
おおむね、物語の大半を男女が交際成立きるまでを費やし、もっとも大事となる、その後の対応など、まるで書いていない。つまり、出会いから交際までが観察できるその内容が、この国の恋愛全体になってしまったという事だ。
この傾向を重く見た政治家、団体は多い。
もちろん、それは行き過ぎた考え方であって、まして法案などとは、まったく正しいとは思えない。
しかし、この国の少子化はそこまで深刻な問題になってしまっているのだ。
正直な話、私はそれはそれで、種の存続が難し局面に達してしまった以上、それが、人としての種の限外なのでは、緩やかに苦しむ事もなく滅びて行ける種族としての最後は、もしかすると幸せな事ではないかと、思い始めていた。
しかし、私は出会ってしまったのだ。
この早期未成年婚という、国のため、社会のために個人が犠牲になる、このイカれた政策の果てに出会ったレアケースに。
「数藤一花、そして一樹という夫婦」
彼らは、人の営みとして、愛や恋などとはまるで関係のない、いやむしろ、もっと上位な関係を作り出そうとしている。
まるで、この二人は結婚することを前提に生まれたと言っても過言ではないだろう。
一瞬は共生関係に見えた二人であったが、とんでもない。
互いの相互認識を再構成し、その上に互いを樹立させようとしている。
この二人は、現代社会に成し得ない新しい人間関係を構築しようとしている。
それは、えてして新しい世界を構築する所業に似て驚きと尊敬を禁じ得ない。
では、ここから一樹、一花夫妻の話をしよう。
と、思ったが、本日は妻である一花の方から、
「りっちゃん! 今日はオムライスだから、一樹の本気見せるから、絶対に食べにおいで!」
と誘われているので、そのご相伴にあずかる事にするから、本日はこの辺で。
さて、次の行動に、と思っているところで、メールが入る。
なるほど……、デミグラスソースなのね……。
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