第22話 お腹いっぱいに愛を! 【一花】

 ああ、やっと家に帰って来たよ。


 その間、ずっと手をつないでくれた。一樹。


 うれしい。ほんと好き。


 あと、優と翔も一緒だけど、当然、一樹をストーカーする美子ちゃんも一緒。


 最近、この辺も電線地中化計画のおかげで、あまり隠れるところがないから、美子ちゃんも大変そう。


 今日は下敷きで半分顔を隠してついてきてた。


 で、優が一緒にご飯を食べようって、誘ってきて、今、美子ちゃんも家の中にいる。食卓を囲ってる。


 この子もかわいい子だなあ。って、ひとしきり緊張する美子ちゃんを見て、若干心が軽くなる私だけど、そんな美子ちゃんに、「私も一樹の事好きなんだよ」って説明してる優を見てほっこりしてしまうけど、すぐに憤怒はふきだす私の心。


 くそう……、直塚のヤツ、私にプロポーズしやがって!


 本当に、ふざけるな!


 って怒りは未だ私の中に残ってる。というかふきだして来る。ああ、これ終わらないヤツだ。


 しかも、あの時、直塚が言った言葉。


 「お前らは愛し合ってなんてない!」


 的な言葉。


 つまり、私は一樹を愛してなくて、一樹も私を愛してない。


 あの時のあいつの顔まで、不細工に揃えられもしない眉毛の形と共に思い出される。


 そんなの、お前みたいな筋肉だるま体育教師、彼女いない歴年齢のお前にわかってたまるか!


 中学生時代には、一樹には彼女っぽい人もできかけたさ、私もそれなりにモテたから、互いに、幼馴染ではあったけど、なんでも話せて、いつも一緒にいても、どうしてか、いつの日か、私は一樹と離れて行くのだと、この家が出発点として、そこから、一樹だけじゃない。親も、一樹の親も友達も、今はこの中にいて、時間の経過によって拡散する様に離れて行くものだと思っていたけどさ。


 エントロピー、みたいに? 時間の経過によって、複雑に広く、そして希薄になって行くものだと思っていたの。


 でも違ってた。


 一樹が何もかもを失った瞬間に、私の中に芽生えたのは、一樹への失いたくないという狂気にも似た渇望だった。


 ええ? 一樹の両親が???


 え? 一樹が?


 ええ? どっかに引き取られる????


 嫌だ!


 一樹がいなくなる。消える、私という観察対象、指針で、きっと基準……!!


 無くなるの?


 無くなってしまう?


 あまりにも自然で、当然で、いて当たり前の存在に捉えられる自分に恐怖したの。


 もう意識もしてないだいじなもの。地球くらいの感じ?


 人一人の大切さは地球の重さと一緒なんだよ。やっぱりなあ。


 一樹大事。一樹必要。一樹必須。


 それって、確かに恋じゃないかもだし、まして愛が芽生えるのとは違うと思う。


 もっと枯渇して、不純で、歪なものだったかもしれない。


 ただ言えることは、失う事の、それは私にとって恐怖だった。


 まるで、自分を失うような、激しい痛みにも似た感覚。


 自分の心に張り付いてた、いまはもう自分の一部だっておもっちた、出血を伴う剥離。


 私は一樹をどうしたいのだろう?


 思うのは、一樹を自分の一部にしたいという、自分でも怖いって思える謎の欲。


 深い、暗い深海にすむ魚が、伴侶を自分の体に埋め込んでしまうくらいの狂った愛情を思い出す。


 でも、同時に思う。


 あのメスの体の一部となってしまったオスは幸せには違いない。


 そんな肯定で私は知る。


 ああ、そっか、私、一樹とSEXがしたいんだ。


 快楽とか、欲望とか、そんなものではなく、本当にただ一つの願い。


 SEXなんてしたことないのに、そんな欲望をもってしまった。


 全部、全部、一樹が欲しい。


 だから私は一樹と結婚したの。


 愛とか恋とか、それはこれから楽しむの。


 というか、結婚してから、もう、私には一樹がいいのだから、後の事は全部、その後について来るでしょ?


 恋と結婚は違うっていうかもだけど、結婚の中に恋があってもいいと私は思うの。


 でなきゃ、お見合い結婚とかも成立しないでしょ?


 たぶんだけど、人は結婚する生き物なのよ。


 もっとも、いろんな人がいるから、そうじゃない人もいると思うの、でも、私と一樹はそうなの。それは揺るがないの。


 だって、愛も無いって、ただの情だって言われてる私達は幸せだもの。


 それに情で、恋ではないとかいうけど、それこそ何を決めつけているのよって話よ。


 情が恋だっていいじゃない。


 情が愛だってそれはそれで正当な進歩に進化なのよ。


 なにが、愛なんて無いだ!


 ふざけるな!


 そんなこと、こっちで決めることで、たかだか体育教師が決めていい音じゃない。


 しかも私達は、国政によって認められた、正しい夫婦なんだから、聖なる夫婦なんだから、それを邪魔しようとしてる直塚は悪なんだ。


 もう絶対究極で悪。


 悪いやつだ。


 そう思ってやっと落ち着けた私は、一樹の作ってくれた、豚肉の生姜焼きを頬ばる。


 おいしい。


 ホント、美味しい。


 でも、やっぱり、オムライスが良かったなあ。


 って思う私。


 卑しい女だ。


 「当分、一花の好きなもの作ってあげるから元気出して」


 とか一樹が言うの。そして、


 「明日はオムライスにしよっか」


 ホント、一樹好き。


 ジンジャーの効いた豚肉と千切りキャベツで愛がお胸にどんどん溜まってく、満足する、。


  ついでに お腹も 満たされる幸福感からエッチな 瞳で、 一樹を見ちゃう。


 ほら、やっぱり愛してるじゃん。

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