第20話 もう、恐怖でしかない…… 【一花】
結婚したい?
私?
直塚が?
ああ、そっか、私と結婚したいって事か……。
ん、んんんん?
え?どういう事?
「先生、私、既婚者です」
知らない筈ないとおもうんだけど、思わず普通に言ってしまった。他に言うべきところはいっぱいあるのだけれども、対応できる言葉でパッと出てしまったの。
「単刀直入に言うぞ、今すぐ数藤一樹と別れて俺と結婚しろ」
ちょっとびっくり。
この直塚、ゲスいから、なんのかんの脅して、普通に身体を求められるくらいだと思ってたから。お断りだけど、断固拒否だけど。
それが結婚???
私が?
直塚と結婚?????
「ずっと考えていた事なんだ、必ず幸せにするから、今すぐあんななよなよした旦那と別れてな、俺と結婚しよう」
うわ、手を握って来たよ。
ねとってしてる。変にあったかい、というか生暖かい。
ヒィって短い悲鳴を上げてしまった。
がバット頭を下げたあと、私をのぞき込むその目がウルウルしてるよ。気持ち悪いよ。
もう、無理無理無理無理無理無理無理!!!!!!!
千回生まれ変わっても無理、世界に直塚しかいなくても無理。
で、私、既婚者だよ。
その既婚者に対して、交際なら不倫って形でまあ、内密にってわからんでもないけど、結婚って? こいつバカじゃないの?
するわけないじゃん!
「いや、無理です!」
叫ぶ様に言った。いや、むしろ叫んだ。
すると、直塚、もう私を抱きしめるの。強引に、ガバッと、ここに刃物があったら躊躇なく刺してる。絶対に裁判官は無実って言ってくれる情状酌量の末に無実だよ。
その直塚が、私を抱きしめながら、私の耳元で叫ぶの。
「俺は知ってるんだぞ!」
はあ? 何を? って思わずぽかんとする私。
「お前、一花は、数藤一樹の事を愛してなんかいないだろ?!」
本当に、耳元で叫ばれるから耳が、鼓膜がキンキンする。
「な、愛してなんてないだろ?」
って今度は小声で直塚は言った。
「出会いも、トキメキも、恋もなく、お前たちは結婚したんだよ、あのガキも、お前も」
苦しい、きつく抱きしめられて息ができない。
「だから、俺を愛せ、俺が幸せにしてやる、お前は俺と結婚するべきなんだ」
って言われて、一度体を離してくれた、ああ、息ができる、目から涙以外の汁が出てることに気が付く、ああ、よだれも出てる。耳から変な液出ないかな? そうなったら死んじゃうし。
ゼーゼーと息をする私。
「俺達は知ってるんだ。あんな事件が無かったら、お前は結婚なんてしてなかったはずだ、だからこれからは俺が指導してやるからな」
とかいうから、
それがどうした!!!!
私と一樹は、そんなちっさなもので結ばれてるわけじゃない、愛とか、恋とか、そんな一過性のものじゃない!
息を整える私に、直塚は、
「好きだー!!!!」
っていいながら、再び抱きしめて来る。
避けられない、思考が現状についていかない。後ろに下がる抵抗するけど、その太くて短い腕が、私をとらえる。
ガバッと、そしてギュウゥゥゥゥっと!
って頭の中で何かがはじけて、直塚のバカみたいに強く抱きしめる力に、どいしてか、抵抗しているつもりの力が抜けてしまって、一樹を否定された口惜しさとか、自分の結婚をしたことに対する否定に、私は一撃の呼吸を吐き出した。
息を吐いただけって思ったんだけどね、私、この時初めて、本当の、本気の、本能の悲鳴を上げてた。
『キャァァァァ!』
ではなく、
『ギャアああああああああ!!!』
って、もう断末魔だって。体育館どころか、校庭を含む学校内、もしくはその近所まで、通報がでるくらいの叫びだったそう。
そして、まるで肺どころか、体中の空気を一気に吐き出したせいなのか? 声と吐く息につられて意識もどっか飛んでった。
気が付いた時には、白井先生とか、部活してた生徒とかいて、
「一花、しっかりしろ!」
って、優が私を抱き上げるみたいにしてるの。
ああ、優だ。優だよ。
きっと、愛の告白って、生理的に無理な相手からだと、恐怖以外のなにものでもない。ホラーどころじゃない。天変地異くらいの衝撃で、足までガクガクしてる。もう、優にしがみつくしかできない。
まさか、直塚にプロポーズされるだなんて……。
何か私の大事な、心とか、気持ちとかが、汚染されてる気分だった。
目の前に怨霊とか、ゾンビとか出てきた方がまだマシなレベル。
ほんと、なんなんおかなぁ……。
もしかして、女子高校生で、人妻ってのが大きなアドバンテージになってるのかな……。
直塚に抱きしめられて、変なにおいとかついてないかなあ?
もう、ほんと、ヤダ。
ひとまず、私は、優にしがみついてワーワーと泣いたの。
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