第19話 予期せぬ告白? 【一花】

 私たちにとって最悪で最低な、その教師が開口一番に言った話では、


 「数藤一樹、お前の旦那の将来をどう考えてる?」


 それが、直塚教師の要件だった。


 言いたいことだった。


 つまり、自分を殴ってしまった事に対しての、一樹の今後の事を聞いているんだろうか?


 別に、どう考えてるっていわれても……。


 それで、退学とか? 内申悪くなって、大学いけないとか? って言いたのかな?


 私は特にそこで考えることは無い。


 私としては一樹って、主夫が一番いいかなあ、って思ってる。


 ずっと家にいて、家の事して、私が帰ったら迎えに来てくれるってのが理想なのよね。


 一樹は嫌がってるけど。


 私の心境はともかく、最初の言葉だけで、いかにもその後になにかあるみたいなひっかけして、私は結局、立ち話でなく、この体育館監理室に連れ込まれた。


 この直塚と密室??


 大丈夫、油断は無い。


 この体育館も今は部活の真っ最中だし、近くでバスケの部活してる女子にも認識されたし、コーチさんも見てる。むしろ、直塚と一緒に管理室に入って行く姿を怪訝そう、心配そうに見てる。


 確かに密室だけど、ここの壁の一部なんて衝立みたいなもんだしさ。なにがあっても平気って思ってた。


 それに、学校自体にもまだ生徒とか残ってて、ここから割と職員室も近い。


 善福の安心はないけど、みすみすこの体育教師の毒牙になんてかかるつもりもない。


 部屋に入ると、広さは4畳半くらいの大きさに、いつもは、そこで仕事をしているであろう、机と、あちこち破れている年季の入ったソファーに座るように促される。


 で、直塚は自分のデスクチェアーにかけて、対面するような形になる。


 つまりは、直塚先生のエリア。


 この教師の縄張りだ。


 ホント、一樹の将来の事なんて、立ち話程度でいいのにって言うのだけども、この教師は、粘液質な直塚先生は、私の足から胸のあたりを嘗め回す様に見てる。


 結婚してから、こういた男の人の視線て、ホントにわかるようになった。


 だいたいは、胸→顔。顔→胸ってパターンもある。


 直塚先生の様に、足からなで回すみたいに見る人って、きっとその視線を気取られてるってわかってやってる。偶に、遠出す時に、年配のおじさんにいるタイプ。吐き気がする。


 別にそんな話、どこでもいいのに、って思いながら、この筋肉だるまがいそいそと出してくれたお茶に目をやる。


 もちろん、手なんて付けない。


 ちなみに、この教師に一樹の成績やら内申を付ける権利なんてない。


 あるのは白井先生の方だ。


 たぶん、このナメクジ……じゃなかった直塚先生が言いたいのは、


 「俺もな、生徒に殴られるなんて初めての事でな、かなりブルってる、ショックだった」


 とか、自分の顎を撫でながら……。うわ髭も剃ってないよ、このオヤジ……。髭をそらないとさ、輪郭がボヤっとするんだよね。それが似合う人もいるけど、この直塚に対しては、ただダラシナイって印象だけがある。


 ふと、時計を見上げる。この体育館に併設された管理室の小さい窓から、まだ外が明るい事がわかる。それでも職員室には明かりがついていて、まだ先生たちが残ってるのがわかる。


 この時間だから、きっと白川先生も、まだ帰ってないだろうって思う。


 「これは、教育委員会に報告しないとならない案件だな」


 って勝手に直塚はしゃべってる。


 もう、なんかめんどくさい。


 「何がいいたいんですか? 先生?」


 って言ってあげた。ほら、言いなさいよ、ゲスっぽく、自分のしたいこと、ここに私を連れてきた理由を。


 キッと私は直塚を見つめた。


 すると、直塚は、


 「数藤!」


 っていきなり怒鳴る様に言われるから、びっくりする。


 そして次の言葉には、本当に驚いた。


 「俺と、結婚してくれ!!!!!」


 予想もしない言葉を、予想もできない人から聞くと、思考って一瞬止まるんだね。


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 ????


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 え?どういう事?


 「俺はお前を嫁にしたいんだ!」


 何言ってるの?


 この人?

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