半人前の死神達(短編バージョン)

凛々サイ

第1話 事故

「男の子が車にっ……! 誰かっ、誰か救急車を!!」

 

 叫び声が聞こえる。周囲が異様に騒がしい。僕は棒術部の部活帰りに、いつもの通学路を通り、帰宅していた。未だに軟弱な僕は、先輩からいつものように袋叩きされ、疲れきっていた。だけど今はそれとは比にならない程に、ただ朦朧とする意識の中で、僕はその言葉を口にした。


「しに……た……い」

「は? 死神になりたい、だと?」


 そうじゃない。

 僕の顔をしかめっ面で覗き込むこの人は誰だ? それに僕はこの瀕死の状態で、どうにか頑張って「死にたくない」と言ったんだ。


 なのに、全く違う言葉を吐き出した目の前の男性。その声の主は鼓膜に心地よく響く低音の声だった。だが、そんなもの関係ない。どう聞いたらそうなるんだ。天然なのか、そう突っ込む体力さえも無く、僕はアスファルトの上に横たわったまま押し黙った。それに声を一文字さえ出す気力も既に無かった。


 段々と体から力が抜け落ちていく。その声の主は、意識が遠のく僕を覗き込むように眉間にしわを寄せながら、何かを考えるようなそぶりをしている。


 僕は先程からずっと冷たい路上の上に寝そべっている。いや、車に跳ね飛ばされた、そう言ったほうがいいのかもしれない。仰向けの状態のまま、最後に拝むことになるかもしれない綺麗な夕焼けの空を見つめていた。今にも意識が途切れそうだ。辛うじて届くのは、周囲からの叫び声、そしてざわめき、車の音や様々な雑音だ。


 その中で僕はその不快な返答をした男性を最後の力を振り絞るように見つめた。僕と同じ高校生ぐらいだろうか。服装は黒の学ラン姿で、整った顔立ち。夕日をたくさん浴びた短髪が少しだけ風になびいている。紫がかった奇妙な髪色だ。前髪は片方だけが長く、決して優しい眼差しとは言えない右目だけが覗いている。

 その時、彼が右耳に付けている十字架のピアスが風に揺れた。次の瞬間、何かを思い付いたかのようの僕の顔を見つめ、にたりと笑った。その笑顔は芯から凍り付くような薄気味悪い笑みだった。

 

 その時だった。

 どこからともなく、今まで見たこともない大きなのこぎりが彼の目前に突然現れ、その大きな鉄の固まりを右手で力強く握ったかと思うと、こう言った。


「シュン、お前に任せた」


 それはまるでおとぎ話に出てくるような死神のような姿だった――。


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