14
泣きながら部屋を出て行ってしまった侍女が投げ捨てた鞭が、チェルの足元にあった。
ベッドにどっかりと腰を下ろして座った金髪の青年は、蛇のように目元を
「ああ。そういえばワインのお替りを頼んでいたな。忘れていたよ」
それを見て理解したようで、彼はそう言うと、右手をチェルに見せる。
「何か?」
「ワインを寄越せ」
「でもこれ、瓶にコルクが詰まっているわ」
「じゃあ取ってから寄越せ」
「取りたいところだけれど、あたし、力がないのよね。あなた男でしょう? だったら、あなたが取ってくれる?」
笑みを浮かべてそう言い返すと、ワインを両手で持ち、相手がどう出てくるか待った。だが彼はじっとチェルを見ているだけで反応がない。
「あの?」
「……いい」
何が「いい」のだろうか。
「その目だ」
チェルは自分の目が特別魅力的だとは思わない。細くもなく、二重だが、そこまでぱっちりとしている訳ではない。睫毛もごく一般的な長さだ。やや小顔なことは可愛い要素だと思っているけれど、それとて美人と呼ばれる女性たちに比べるとその程度で? と笑われてしまうくらいのものだ。
「いいぞ。もっと俺を見ろ」
だが男はそう言う。見つめることに何の意味があるのか分からない。というか、パンツ一枚でほぼ全裸の男性を見続けるというのは想像する以上に苦痛だった。いくら相手が目鼻立ちが整った造形の良い若い男性だとはいえ、特にチェルの興味を惹くものでもないし、それを見て何かを感じるほど、男性に対する関心もなかった。
「その冷たさだ。なんという逸材だろうか」
口元がだらしなく歪んでいた。そこから唾液が漏れている。顎を伝わり、一滴、二滴と床に落ちた。
そのうちに男の息が荒くなり、ベッドから立ち上がった。一歩、二歩、三歩とチェルの方に詰めてくる。
そこで初めて彼女は「怖い」という感情が湧き上がったが、ここで逃げても何もならないと、その恐怖を怒りに変換して表情にぶつけた。目元がきつくなり、ぐっと男を睨み上げる。
「おぉ……いいぞ。もっとだ……もっと! もっとくれ!」
「あんた、それでも王子様?」
「そうだ。お前の仕えるべき王子だ! さあ! 分かったらもっと俺を軽蔑しろ! 憎め!
意味の分からないことを大声で叫びながら王子はチェルの前まで近づくと、両膝を床に突き、彼女の小さな体に
――え?
次いで、彼女の両足首が掴まれると、そのまま彼は体を長いスカートの下へと滑り込ませる。荒い息が、股間のずっと下の方で聞こえた。
「何してんのよ!」
流石のチェルも条件反射的に右足を動かしていた。
「ぶはぁっ!」
思い切り木靴の先で王子の左
「ヨギさんの言ってたそっちって、こういうことだったの!?」
痛みに
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