救えず

星埜銀杏

01

 …――うんこ、踏んだ。


 なんだか男子小学生が大好きそうなワードではあるが、今の僕は、とても哀しい。


 昨日、卸したばかりの新品の靴で、うんこを踏んでしまったわけだ。


 うぉぉんと大声を出して泣きつつ、そこら中を破壊して回りたい衝動に駆られる。


 しかも、


 どう解釈しても人糞だとしか思えないソレを踏んでしまったがゆえ悲しみは最上級。あまり詳しい描写をすると気持ち悪くなる人もいるかと思うので、これ以上はよそう。とにかく昨今のギャグ漫画でも遭遇しないような不運に見舞われたワケだ。


 不意に襲ってきた運々(うんうん)にやられたワケで略して不運だ。


 うんッ!


 現実逃避したい気分だ。


「戦闘中に、よそ見をするなッ、勇者ッ!!」


 いやいや、うんこ、踏んだんだよ、誰でも気になるでしょ、普通に。


「突っ込む。バックアップ、よろしく、僧侶」


 デッカい剣を担ぎ上げた40過ぎのひげ面な、おっさんが力強く右親指を立てる。


 いやいや、うんこ、踏んだんだって。しかも、おニューの靴でさ。マジかっての。


「オッケー。剣士。最高にハイにしてやるよ」


 なんか、うんこ、踏んだ僕のテンション、無視してない?


 なんというか、こうさ、テンションダダ下がりの僕を気遣うとか、そういった優しさはないのかね。君らには。確かに目の前に魔王がいてラストバトルって考えると分からないでもない。けどさ。てか、分かったぞ。これ、魔王のソレじゃねぇの?


 魔王を倒す為に魔王城に入ってから、ずっとトイレらしきものは一切見てないし。


 もしかして地雷的な罠としてのソレなのかもしれないぞ。


「済まん。勇者、一匹、逃しちまったッ!?」


 赤毛で、つり目な強気女子な魔道士が言う。


 本名はアンだ。確かな。どうでもいいけど。

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