俺は義経、兄になんか殺されてたまるか。
風猫(ふーにゃん)
第一章 都落ち、平安奥の細道
第1話 義経の墓に詣ったら、源平時代。
俺は歴史、特に日本史の軍記物が好きだ。
小学校の図書館で、ジュールベルヌやHGウェルズのSF小説や偉人の伝記小説を読み漁り中学校の図書館では、日本史の偉人達の伝記に嵌まって、受験勉強そっち退けで読み耽った。
以来、邪馬台国の卑弥呼から戦国武将まで、その逸話や史実の物語に並々ならぬ執着を持っている。
俺は、幼少期に両親を交通事故で亡くして、祖父母に育てられた。その祖父母も俺が大学に入ると相次いで病気で亡くなった。
大学に入る前、祖父から我が池田家に伝わる家宝というものを渡された。
それは鞘に掠れた『笹竜胆の家紋』を施した短刀で脇差しにしては短く、自害でもするための特別なものと思われた。
へぇ、こんな物を持っていたご先祖様って、相当偉い人だったんだな。
そう言えば『笹竜胆の家紋』て、鎌倉幕府の源頼朝の河内源氏の代表的な家紋じゃないか。
もしかしたら、俺のご先祖は源氏だったりして。はははっ。
その時は、そんな軽い気持ちしかなかった。
東京の大学に入り、ふと興味が湧いて先祖について調べて見ることにした。
国立図書館には山のように資料があって、2年掛かりで河内源氏の譜系を調べた。
そしてようやく解ったことは、源頼朝や義経の父の弟である源行家の子孫が陸奥と紀伊で、
だって、俺の名前は
そんなことが解った大学3年の春休み、俺は世界遺産にも登録されたご先祖様の地、岩手県の平泉町を訪れていた。
中尊寺金色堂や境内、毛越寺庭園や境内附鎮守社跡、無量光院跡などのほか、白鳥舘遺跡、長者ヶ原廃寺跡を巡って周った。
最後に柳御所にある源義経の墓、高館義経堂にやって来た。
非業の死を遂げた義経には、三人の妻があり正室の
二人目は、
平時忠の娘である蕨姫との婚姻が、頼朝から義経と時忠(および平家残党)の通謀を疑れた一方で、義経も頼朝に対抗するため連携しようとしたともとれる。
『平家物語』によると、平時忠は義経に押収された機密文書を取り戻すために娘を義経に差し出す事を考え、18才の現妻の娘は惜しいので先妻の娘で婚期を逃していた28才の蕨姫を義経に娶らせたという。
彼女に懇願された義経は封も開けずに文書を時忠に返却し、受け取った時忠はすぐさま焼却処分したという。
静御前は義経の子を妊娠していて、頼朝が「女子なら助けるが、男子なら殺せ。」と安達清常に命じた。
閏7月に静は男子を産み、安達清常が赤子を取り上げようとするが、静は泣き叫び離さなかった。
だが磯禅師が赤子を取り上げて清常に渡し、赤子は由比ヶ浜に沈められた。
その後、静と磯禅師は京に帰され、憐れんだ北条政子と大姫が少なくない重宝を持たせたという。その後の消息は不明である。
石段を登り、小さな祠のような『義経堂』の前で手を合せ、心の中で語り掛ける。
『義経さん。貴方が幕府を開いていたら、北条家に代わり、奥州藤原家が執権にでも、なっていたんですかね。
知ってますか、頼朝の将軍家は孫の実朝までの三代で絶えたのですよ。
平家の怨念ですかね。貴方達の命を救ったのに、恩を仇で返された平清盛公の怨念かも知れませんね。』
『 • • • 違う。』
『えっ、“違うっ”て聞こえたような、、。』
『違うぞ、儂が祟った。』
『えっ、えっ、義経、、さん?』
『そうだ、我が子孫よ。儂の血が流れておるから、心の声が聞こえる。
兄、頼朝の血すじは、儂が祟ってやった。』
『 • • • • 。』
『儂の誤りは、
『えっ、平泉の藤原泰衡の裏切りを予想して、なかったことですか?』
『違うな、兄頼朝と、朝廷を甘く見たことよ。
朝廷も幕府も、力ある者を競わせ、強き者を排除する。後世の足利も徳川もそうであろう。
儂は、兄と、父の仇を討つ一心同体と思うていたが違うた。
兄は儂を一家臣としか見ていなかったのだ。
だから儂は誤った。父の仇は己一人で果たすべきだったのだ。』
『それは、頼朝と兄弟で争うということ?』
『違うな。儂が加わらねば、兄は平家に負けたかも知れぬ。平家にも英傑はいたからな。』
『そうかも知れませんね。だけど、時は戻りません。もう、終わったことです。』
『そうでもない、儂の祟りの力は残っておる。儂は死に戻りできぬが、儂の血を引く者ならば、あの時の儂に憑依ができる。』
『えっ、まさかっ。』
『頼む、儂の怨念を払うてくれ。皆の命を護ってくれ、頼んだぞっ。』
そう義経に言われた俺は、深い霧にいた。
そして、前方の明るい光の出口へと向った。
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深い霧の中を光りに歩みを進めると、街中の小路へ出た。頭の中で怨霊義経の声が響く。
『義経、いや遮那王よ。そちは今11才の儂に憑依した。この先で争うておる者の命を救え。
心配はいらぬ。そちには、武家の御曹司として鍛えられた武技がある。』
『何だって〜、いきなり誘拐しておいて、戦いかよ。』
自分の装いを見ると、公家達の日常着である狩衣の子供服で、着物の裾と袖の短い半尻姿、腰に短い太刀を佩いでいる。足元は草履を足に結んでいる。
着物にしては、動きに支障が少ない方だ。
一瞬でそれらを確認すると、小走りで小路を進む。既に前方の喧騒が聞こえていた。
喧騒の下へ着いて見ると、一人の僧兵を囲み7人ばかりの野盗紛いの男達が戦っていた。
僧兵は堀を背にして背後を護り、並々ならぬ剛力で薙刀を振るい野盗達を打ち払っているが多勢に囲まれており、しかも野盗の一人が弓で狙いを付けている。
俺は迷わず道端の小石を3個拾うと、弓矢を構える男に投げ付けた。最初の一個は男の眼前を掠め、二個目は腕に当たり、三個目は足に当たった。男が弓の構えが崩れたのを見ながら、僧兵を囲む者達に太刀を抜いて斬り掛かった。
一人目は、驚き振り返る様を首から袈裟斬りにし、続く隣の男が上段に振り上げた瞬間に首に突きを入れ倒した。
一瞬で二人を倒され、慌てふためく野盗達の隙を突き、僧兵の薙刀が二人を倒す。
俺は再び弓を構える男に駆け寄ると弓を引く右手を切り払った。さらに踵を返して逃げようとするところを背中から串刺しにして倒した。
見ると僧兵に倒されて、野盗は一人しか残っていない。慄えながら正面の僧兵と背後にいる俺を振り返る野盗の男は、僧兵の薙刀を躱すことができずに最後を遂げた。
これが、荒法師『武蔵坊弁慶』と名乗る男と
遮那王との運命の邂逅であった。
後世の世に伝わる五条大橋での、百本の刀を集める弁慶と牛若丸が戦う有名な逸話は、御伽草子や数多の創作本、歌舞伎などの創作だ。
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