第55話 ルイ

 遅くなりました! 55話です! よろしくお願いします!<(_ _)>


 ――――――――





 「なぜあなたがここにいるわけ?」


 本来なら南の前線よりも南下の魔王城にいる彼女――――魔王軍幹部シュレイン。


 「そりゃあ、一つに決まってるやろ――――あんたを殺しに来たんよ」


 そんな彼女は私の目の前で、楽し気に笑ってしゃべっていた。


 衰えなんて知らないような、2年前と全く変わらない姿。

 可愛い容姿をしているが、彼女はもてあそぶように、自分の人形おもちゃのように人を殺す鬼姫。


 その気になれば、毒魔法で息を吐くように虐殺ができてしまう殺人鬼。

 

 王城には多くの人がいるし、陛下や王妃殿下もいらっしゃる。

 ここで戦闘を始めるのは他の人間に被害を及ばせる可能性がある。


 戦闘に入る前に、場所を移動させた方がいい。


 私は瞬時に、身体能力全強化、魔法能力向上、耐物理攻撃防御強化、耐魔法防御強化――――全ての強化魔法を無詠唱で自分にかける。


 「なんやぁ、もう戦うんかい?」

 「ええ」


 シュレインはもう少し話したそうにしていたが、私にそんな気持ちはさらさらない。

 倒す――――その感情しかなかった。

 

 瞬きする間もなく、風を切るように一瞬でシュレインの前に移動。

 彼女が反応する間もなく、右足を大きく振りかぶって。


 「ぐはっ――――」


 鬼姫の腹に向かって、横から蹴りを入れた。

 

 彼女の体は中庭の草木を抜け、城壁をぶち抜き、王城外の森へと吹っ飛ぶ。

 即座に、吹き飛んだシュレインを追いかける。

 彼女が作った城壁を抜け、森へ入り全力で駆け、倒れ込む彼女の元へ向かった。


 その道中に、ポケットにしまっていた武器を取り出す。

 母の形見の大杖――――それが手のひらサイズまで小さくなったもの。


 「解放アンロック


 詠唱を呟きながら、それを空に投げる。

 キーホルダーのようにミニサイズだった大杖が、光を放って変化。

 元の大きさに戻った大杖はバトンのように空中を回転、それを右手でキャッチ。


 倒れ込むシュレインの所へ行き、刃を向けるように魔法石が光る杖先を彼女に向けた。


 「こんなのでやられるのじゃないでしょう、あなた」

 「…………あんたはやっぱりゴリラやな。なんか昔よりも進化しとるし」

 

 背の低い木々にもたれかかって動かない鬼姫。

 夜で月明かりも草木で遮られたそこは暗く、よくは見えない。

 が、彼女が笑っていることだけは鮮明だった。


 「何を笑ってるの」

 「いやぁ、昔のことを思い出してな。あんたのお友達、ほんまに面白かったわ、弱すぎて」

 「…………」


 確かにルイは私よりも魔力能力はなかった。

 剣術も私が負けたことはなかった。

 総合的にみても、私の方が戦闘能力が高かった。


 でも…………彼を批判されるのは、気分がとても悪い。 


 彼は努力していた。

 自分が理解するまでとことん調べ尽くすぐらい勉強熱心で、気になったことは相手がどんな人であろうと有識者に質問して、料理という私が持たない能力も取得して――――みるみる成長していた。


 「あのガキは、雑魚中の雑魚やったわ。あんたを守る気ではいたみたいやけど、弱すぎや」


 そんな彼をバカにされるのは、非常に腹立たしい。許せない。

 

 「…………それ以上しゃべらないで」

 「ハッ、そう怒らんといてな。事実を言っただけやろ」

 

 こちらを煽るように、にたぁとと笑うシュレイン。


 「………ねぇ、街で魔物に暴れさせたのはあなた?」


 ブリジットの義妹レイン・ラストナイトという人物になりすましていた。

 でも、この感じはかなり前から学園に潜伏していたと思われる。


 今思えば、突然街に魔物が出現したのは、国に魔王軍と繋がっていた人間がいたからではなく、彼女がいたからなのではないかと思う。


 「せや。直接やったのはうちやないけど、命令だしたのはうちや」


 やはり、予想通りの回答が彼女から返ってきたのか。

 

 「じゃあ、ブリジットやスカーレットさんを操ったのもあなたなのね?」


 そう問うと、甲高い笑い声が響く。


 「操るもなにも、スカーレットはうち・・・・・・・・・やで? 笑わせんといてや。まぁ、ブリジットを誘導しとったんのはうちやな。あの子操りやすすぎて、わろうてもうたわ」

 「………………」


 スカーレット=シュレイン。

 それなら、私へのいじめに関しては、精神的苦痛を与えて追い込もうとしていたと、不快ではあるが、納得がいく。


 でも、私に冤罪を着せて学園から追い出そうとしたのはなぜ?

 私が学園を出て行っても、軍に戻るだけ。

 軍の戦力を減らすのが目的なら、逆効果だ。


 「もしかして、私を戦場に戻そうとしていたの?」


 そう呟くと、聞いていたのかシュレインがハッと鼻で笑った。


 「そんなわけあるかいな。学園からも軍からも家からも、全てから追い出して、あんたを正真正銘の1人にしてやって殺そうと思ったんよ。味方がおらんくなったほうが人間は弱いしのぉ」

 「…………」

 「ま、それも上手くいかんことが読め取ったから、入学時からあんたの寝込みを襲おうとしたこともある。が、それもできひんかったよなぁ………なーんか知らんけど、あんたの周りに妙に強い護衛がいたんよ。あーあ、ほんまムカつくわ」


 ………………ん? 護衛?

 私に護衛なんてつけていなかったのだけれど?


 昔に兄様が護衛をつけようと提案してくれたことがあったが、全て断っていた。

 でも、それ以外で護衛の話題が出たのって、アーサー様ぐらいで。

 彼の護衛なら気づけていた。


 ………………。

 ………………もしかして、兄様が?

 ええ…………私、いらないって言ったのに………。


 でも、兄様がつけてくれたおかげで、結果的に夜襲撃に合うことはなかった。

 黙って護衛をつけられていたとはいえ、後で兄様には感謝しよう。


 「無駄話はここまでね。さっさとあなたの息の根を止めるわ」

 「そうかい。じゃあ、私は――――」


 光魔法を展開させようとした瞬間、へばっていたシュレインが突然顔を上げ、こちらに視線を向ける。

 紅の瞳は怪しい光を放っていた。


 「紅血術こうけつじゅつ――――血零けつれい


 彼女のその小さな呟き。

 私は一瞬で自分を取り囲むように、結界魔法を展開。

 直後、空から赤の雨が降り、雨粒が矢となって、私を狙って飛んできた。


 しかし、結界魔法で全て弾かれ、消滅。

 

 「あ~ぁ、その結界ほーんと厄介やな」


 体をゆっくり動かし、余裕たっぷりに立ち上がったシュレインは、不快そうに大きなため息をつく。

 

 「でも、それ、限界があるやろ? 限界があるんやったら、それを超える出力で結界それをぶち抜けばいい。単純っちゃ、単純やなぁ。ま、ちょいと本気を出してみるかぁ――――」


 シュレインは足を大股に開き、腰を低く構える。

 そして、彼女が一歩踏み出した瞬間、シュレインは私の目の前に移動。振りかぶっていた拳を結界に直撃させる。

 

 だが、結界は破損なし。傷一つ付いていなかった。


 「ハッ、全力でぶちかましてあげたんやけど、ひび一つ入らんて。物理攻撃対策は完璧っちゅうわけかいな」


 その間も私は氷魔法を展開、10個以上の氷の刃を作り、シュレインに放つ。


 だが、彼女は人間とは思えない脚力で空へとジャンプ。

 回避しきると、立方体の結界の上に乗り、シュレインは下にいる私に向かって犬歯を見せて笑っていた。


 結界魔法を素手で殴るなど、岩に向かって殴りを入れるのと同義。

 一度、拳には自信がある軍の男性に、本気で結界を殴ってもらったのだが、一発で骨が折れてしまっていた。


 なのに、彼女はまるで痛みを感じないかのように、笑っていた。

 ――――――――本当に化け物ね。


 「なら、魔法で割ってやるしかないかねぇ」


 そう言いながら、結界を下りて私から距離を取るシュレイン。

 離れた場所で立つ彼女は両手を交差させ、奇妙なポーズを取り。


 「――――第1魔源核解放」


 と、ニタリと笑いながら、そう呟いた。

 彼女の乱れる髪の間からは、彼女の肌に赤色の光る奇妙な紋章が顔、首、胸、腕へと広がっていく。

 

 ………………第1魔源核って、何? 初めて聞く言葉だわ。


 聞き覚えのない単語に、困惑しつつも、警戒は怠らない。

 次にやってくる攻撃に備えて、結界魔法を展開、強化。


 「あんたにはこれやるわ――――紅血術繚乱曼珠沙華りょうらんまんじゅしゃげ


 シュレインが得意とする紅血術の1つのその魔法。

 それは1回で何人の人間の血管を貫き、名前の通り血が彼岸花のように散らせる――――当たった者を全員屍に変えていた魔法。

 

 当たれば、致死率100%。

 でも、当たらなければいい。避けさえすればいい。

 回避さえできれば、生存は100%。


 「ああ、避ける気やろ? なら、もっと面白いことしたる」


 こちらの考えを呼んでいたのか、そう言ってくるシュレイン。

 体中にできた彼女の刻印が、さらに光が強くなり。


 「黒閃光柱ノアフラッシュピラー

 

 彼女は闇魔法も同時展開をしようとしていた。


 「うふふっ、あんたが避けたら、後ろの王城とか街とか当たるでぇ? ええんかい?」

 「…………」

 

 彼女が展開しようとしている延長線上には王城と城下町。

 そこには人々が何人もいる。


 私が避けれてしまえば、十中八九全員死亡。

 死なせないためには、私が攻撃を受けるしかなくなる。


 繚乱曼珠沙華――――その魔法は数回は防いだことがある。でも、無理だと思った時には回避していた。

 魔力全出力のものを撃たれれば、こちらがどうなるのか分からない。


 でも………それでも受けるしか選択肢はない。


 真っすぐやってくる赤と黒の閃光。

 それに対応するため、自分の前に何層にもわたって結界を張る。

 そして、全て強化させる。

 全身の魔力を手に集中させ、展開と強化の術式を脳裏で編んでいく。


 「死ね――――エレシュキガル」


 シュレインが放った光の柱が1つ目の結界に当たる。


 パリンっ――――。


 だが、すぐに割れ、粉々になり空中に消えていく。

 視線の先に見える鬼は、口を開けて汚く大笑い。嫌な笑みだった。


 2つ目の結界を強化させるが、数十秒のうちに割れる。

 代わりに、その間に新しい結界を作れ、強化もできた。


 これなら耐えれる――――。


 「あはは! まだ粘るかいな!」


 強化しても限界はきて、破損していく。

 だから、割れていくたびに新しい結界を展開させる。

 でも、徐々に強化が追い付かず次々に割れていく。


 「第2魔源核解放!」

 「くっ――――」


 シュレインがそう叫ぶと、威力が先ほどよりも倍以上に上がり、一気に3つの結界を割った。


 一枚、また一枚と砕けていく。

 これだと防げれない。全部結界が壊れて、私にも王城や街にも当たる――――。

 でも、今自分自身にカウンター魔法をかけても、きっとあの魔法に負けて、迎撃できずに私は死ぬ。


 ………………………………ええ、覚悟を決めよう。


 最悪のケースはみんなが死ぬことで、最善は私1人だけが死ぬこと。

 自分だけが死ぬのであれば、それでいい。

 王城や街にいるみんなに、アーサー様が死ななければいい。


 半径1キロ圏内の全ての魔法を強制的に自分自身へ集める――――その禁忌魔法を展開させる。


 パリンっ――――。


 同時に最後の結界魔法が割れ、破損の音が響く。

 

 ………………ルイ、ごめんなさい。

 私、魔王おろか鬼姫も倒せずに、死ぬわ。

 

 ………………アーサー様、ごめんなさい。

 私、ずっと隣にいるって言ったのに、その約束は守れません――――。


 迫りくる光を目の前に、死を覚悟して、私はそっと目を閉じた。








 「――――ごめんね、エレちゃん。遅くなった」








 その瞬間、聞こえてきたのは謝罪の声。

 当たるはずの光はやってこなくって、そっと瞼を開けた先に見えたのは大きな彼の背中。

 顔は見えない。だけど、すぐに誰か分かった。


 「な、なんで………」


 颯爽と現れた彼の前に展開されていたのは、水色に光る結界魔法・・・・。 

 数年前であれば違っただろうが、今現在結界魔法を使えるのは私ただ1人。

 使える人なんていない。


 それに、水色・・の結界は、今はもういない彼だけが使える専用の結界魔法で――――。


 「――――ルイ?」


 気づけば、この世にいないはずの彼の名前をこぼしていた。

 

 「やっと思い出してくれたんだね」

 

 私を安心させる温かくて優しい彼の声。

 彼は結界魔法を展開しながらも、私の方に振り向き、顔を見せた。 


 「――――久しぶり、エレシュキガル」


 そこにはアーサー様の笑顔があった。




 ――――――――


 第1章も大詰めです! 次回もよろしくお願いします!(`・ω・´)

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