第44話 もう決めたことなので
アーサー様と話し合ったその日の3日後に、私たちは学園に戻った。
学園は早く前から、通常通り授業が行われており、いつものようににぎやかだった。
「おかえりなさい、エレシュキガル」
アーサー様とともに教室に向かうと、学園再開後すぐに戻っていたセレナとマナミ様、リアムさんが出迎えてくれた。
変わらず元気そうな3人を見ると、どこか安心できた。
離宮に行ってから、会うことはなかったが、セレナとマナミ様とは手紙のやり取りはしていた。
手紙には私が元気にしていることは伝えていたが、毎回私を気遣う手紙が来ていた。
多分、セレナとマナミ様は、かなり心配されていたのだと思う。
「皆様には大変ご心配おかけしました」
頭を下げて謝る。すると、セレナとマナミ様の方からはぁとため息がそろって聞こえてきた。
気になって顔を上げてみると、2人は呆れながらも微笑んでいた。
「次から、普段からの付き合いがない方とお茶をする時には、私を誘ってくださいな。その者を見極めてますから」
「私も呼んでちょうだい。変なことをしようとしたら、動きを一生止めてあげるわ」
「はい。ありがとうございます」
色んな付き合いがあるセレナなら、どんな人なのか分かるし、魔眼持ちのマナミ様なら、万が一のことがあっても対処できる。
よし。次から絶対に2人を呼ぼう。そうしよう。
さてと………欠席で遅れた分、早く授業内容に追い付きたいところだけれど………。
その前に、私は席につこうとするマナミ様を呼び止めた。
「ん? なあに?」
「ナナのことはありがとうございました」
離宮で世話係として働いてくれていたナナ。
彼女は本来マナミ様の侍女であり、今回はマナミ様の指示で私についてくれていた。
ナナ曰く、「エレシュキガルが心配だし、あなたが世話をしてあげなさい。アーサーが選んだ侍女だけだと心配だわ」と言って、送ってきたのだそうだ。
「お礼を言われるようなことはしていないわ。むしろ、謝らないと」
「え? なぜです?」
「私はナナに、あなたが望むままに動けるようにしてやってって、指示を出していたの。でも、どういうわけか、エレシュキガルは誰かさんに監禁まがいなことをされた」
そうマナミがいった瞬間、アーサー様は目をサッと逸らす。
そして、彼と一緒に目を逸らした人がもう一人。
マナミ様は、そのもう1人をじっと睨んでいた。
「どういうわけなのか、説明してくれるかしら――――ねぇ、ナナ?」
「あはははぁ…………」
学生服姿のナナは逃げるように私の背後に隠れた。
離宮で御世話係をしてくれていたナナ。
だが、彼女は本来マナミ様の侍女。
そろそろ主人の所に戻りたいと言っていたので、ナナは私たちと一緒に戻ってきていた。
因みに、アーサー様の傍付きであるリリィも一緒に帰ってきていた。今はここに姿がないが。
「私ちゃんは、あの状況では~マナミ様の指示通りにできなかったですよーん。私ちゃんがアーサー
「はぁ?」
マナミ様はさらに睨みをきかす。眉間には山脈のようにしわができていた。
「え、なんでそんな目で私ちゃんを見るのですか? もしかして、私ちゃんに惚れちゃいました?」
「んなわけないでしょ……なんで、あなたの主人である私の指示に従わなかったのか、怒ってるのよ」
あまりの怒りに口角がピクピクと動いているマナミ様。
何の準備か、彼女は両手を組んでポキポキ鳴らし始めた。
だが、後ろのナナはなぜか余裕の笑み。
うーん。これは逃げた方がいいと思うのだけれど…………。
「マナミ様、私ちゃんに物理で勝とうとするのは無謀ですよーん」
「ハッ。なら、この目であなたの動きを止めてからにしましょうか」
「うぉ。それだけはご勘弁をぉー」
その後、結局ナナは、ご主人様に捕まり、軽く首を締められ、ぽつぽつ白状し始めた。
「いやぁ、私ちゃん的には、エレ様があそこにいる方が安全だと思ったんですよー。それに、エレ様は『どこかに行きたい』なんて、私ちゃんには言いませんでしたし、私ちゃんはエレ様を積極的に外へ出す必要はないと思ったんです~」
「バカね。あの状況で、エレシュキガルから『外に出たい』だなんて言うわけないじゃないの」
マナミ様に叱られたナナは「すみませーん」と申し訳なさそうに謝った。
「でも、これからの私ちゃんは、ずっとマナミ様のお側にいられますぅ! 今まで頑張ったのでぇ、ぜひご褒美くださぁーい!」
「指示に従わなかったんだから、なしよ。それに完全に学園が安全になったわけじゃない。あなたは一時エレシュキガルの護衛をしていなさい」
騒がしい再会だったが、授業チャイムが鳴ると、席につき授業を浮けた。
そして、その日の放課後。
学園復学の記念にみんなでお茶会をすることになったのだが。
「僕、ちょっと用事があるから」
と言って、アーサー様はサロンがある方ではなく、校門へと歩いて行った。
………………うーん。どこに行くのだろう?
行き先が気になり、彼を追いかけて尋ねてみると、アーサー様はスカーレットさんとブリジット様が収監されている牢獄へと向かうと言った。
また、今回の騒動について調べることがあり、今日のお茶会には参加できないと話してくれた。
ブリジット様の所に行かれるのね………………。
「待ってください」
馬車が待つ校門へ向かおうとするアーサー様は、私の声で足を止めた。
「心配しなくても、僕は帰ってくるよ」
「いえ、そうではなくって………………」
ブリジット様とはちゃんと話し合いたい。
友人になりたい。
彼女は望んでいないかもしれないけれど………………それでも。
「アーサー様、私もブリジット様のところへ一緒に連れていただけませんか?」
「…………理由を聞いても」
「はい。私はブリジット様とご友人になりたい。だから、まず彼女に会いたいのです」
そう訴えると、アーサー様は「そういえば、あの時もそんなことを言っていたね………」と小さく呟いた。
「僕が止めても、きっとダメだよね?」
「はい。もう決めたことなので」
一度決めた私は、もう譲らない。
もし、これでダメだって言われたら、後で私1人で行こう。
………………どうやって、監獄に入るのか分からないけれど。
すると、アーサー様は少し呆れたように、でも嬉しそうに笑い、私に左手を差し出した。
「じゃあ、2人で行こうか」
「はい!」
アーサー様の手を取り、私はニコリと微笑む。
彼も優しい笑顔を返してくれた。
そうして、私たちはセレナにお茶会には参加できないことを伝えて、アーサー様とともにブリジット様の所へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます