第41話 離宮暮らし②
6月25日:明日も42話を更新します。よろしくお願いいたします。
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試合が始まった瞬間、走り出した私たち。
駆けながらも、私は大杖を大きく横へと振り、ナナへ先制攻撃を仕掛けた。
氷塊を何個か作り出し、それをこちらに向かってくるナナに飛ばす。
ツインテールを揺らしながら走る彼女を的確に狙って飛ばしたのが、左右に動いて無数の氷塊をさらりと避けられた。
なら――――。
私は同時に氷塊を飛ばした。
左右はもちろん、足元や頭にも当たるように、何個も氷塊を用意して飛ばす。
それに対し、ナナは大きくジャンプし、側転からのバク宙をして回避。
空中でクルクルと回ると、美しく着地する。そして、何事もなかったように走り出した。
今ので少し分かったけど、ナナの身体能力は普通じゃないわね。
侍女になる前は何かしていたのかしら?
それとも護衛としても雇われるから、侍女になって特訓を受けた?
まぁ、どちらにしろ、彼女は侮ってはいけないような気がする。
油断は禁物だ。
「よっこらせぇっ!」
真っすぐ走ってきたナナは、私の近くまで来ると白の鎌を大きく振る。
こちらが避けると分かっているのか、遠慮なく大胆に振ってきた。
風をきるように大鎌をふるう姿は、まさに暗殺者。
可愛らしい雰囲気から、戦闘とは縁がない人だと思っていた。
だが、その認識が間違いだった。彼女は戦闘経験がある。
ナナは本当に殺す気で戦っているのかな、と思うぐらい彼女の本気を感じた。
迫ってくる鎌に対し、私はタンっとその場を飛び、杖を上に投げる。
そして、鎌の刃の平に左手で押し、空中をくるりと一回転。
その間に、右手で彼女の肩に触れ。
「ルクスラピオ」
と、ある呪文を口にした。
その瞬間、ナナの動きはぴたりと止まった。
「やってくれたね、エレ様――」
今、彼女にかけた魔法は視界を奪う魔法。
光魔法の一種で、厳密には光の感覚を奪うものだ。
それでも、彼女は嬉しそうに笑っていた。
「この感覚、久しぶりだわ」
いつもウキウキルンルンな声でしゃべるナナだが、今の彼女は別人だった。
声色が低いものに変わり、語尾を伸ばさない。
「私ちゃんね、暗い場所での戦闘は得意としてたんだよね」
と言って、彼女は何事もなかったかのように、走り出す。
私の居場所を分かっているようだった。
視界を奪ったうえで難なく動けるとか――ナナは耳がいいのかしら?
自分の身長以上の高さがあるナナの鎌。
刃の部分も長く、広範囲の攻撃はとてもしやすく、中距離攻撃を得意とする武器だ。
だが、これには欠点もある。
鎌はレイピアなどに比べ大きいので、小回りが利かない。
攻撃するときには振りかぶる、もしくは横なぎするのが基本だ。
だから、私は遠距離の攻撃で仕掛ける。
結界魔法で足元に土台を構築。その土台を上へと伸ばし、自分の体を押し上げる。
そして、杖を横に振って光魔法で鎖を作り、彼女の鎌を狙って鎖を伸ばした。
緑魔法で植物の蔓を作り出してもいいのだが、魔法で燃やされる可能性がある。
でも、光の鎖で鎌を抑えれば、ナナは鎌による攻撃はできない。
拘束も解けないから、魔法のみの攻撃しかなくなる。
魔法攻撃への対処は得意だし、魔法のみの戦いなら結界魔法が使える私の方が有利だ。
こういうのもなんだけど、ほぼ結界魔法で防御をすればいいから。ナナには申し訳ないけれど。
3つの光の鎖はナナへと延び、彼女の鎌に巻き付いて拘束した。
よしっ。
これで後は降りて、クライドの時と同じように、首を狙うだけね。
と、結界魔法の土台から飛び降りた瞬間――――。
「甘いね。エレ様――」
ナナの鎌はぐにゃりと曲がり、銀の液体に変わった。
液体はまるで生き物かのように、ヌルヌルと鎖の間を抜け、左へと移る。
気づけば、鎌は柄の両端に湾曲した刃を持つハラディという武器に変わっていた。
「私ちゃんの武器って、普通じゃないんだよね」
下へと落ちていく私を見上げるナナ。
彼女は嬉しそうににひっと笑い、彼女の瞳がギラリと輝いた。
このまま落ちれば、彼女にやられる。
光の鎖を動かし、今度はナナの武器ではなく、彼女自身の体を狙った。
一本の鎖は右足に巻き付き、もう2本の鎖は両手首に絡む。
「残念。それも私ちゃんには効かないんだよねー」
その瞬間、ナナの体は液体のように溶け、銀の塊となり、べたっーと地面に広がる。
鎖から逃げ移動すると、銀の液体は体を作り出し、元のナナに戻った。
そこからはなかなか上手く事を勧めれなかった。
攻撃をしても、さらりと避けられる。
いくら拘束しても、彼女はスライムとなって逃げていく。
その間にも、彼女はハラディで私の首や杖を持つ手を狙ってくるし、ちょくちょく魔法で地面を燃やされる。
そのたびに、水魔法で消火活動をするか、結界魔法や土魔法で新たに地面を作るかしないといけない。
攻撃も上手くできなければ、拘束もできない。
だからといって、相手の攻撃が避けられないわけでもない――――拮抗状態だ。
こうなったら――――。
私はまた光の鎖を伸ばし、彼女の手首と足首、お腹を拘束する。
同じような結果になるのは分かっているが、こちらにはその先の考えがあった。
予想通りナナはスライムになって、鎖の拘束から逃げる。
私はその瞬間を逃さず、スライムを囲うように箱の結界を張った。
スライムなった時、ナナは武器から手を離す。
元の体に戻るのが遅ければ、地面に武器が落ちることだってあった。
それに、結界で囲ってしまえば、ナナは武器を取るどころか元の体にも戻れない。
私は彼女の元へ走り出し、地面に落ちた彼女のハラディを奪った。
「えっ? えっ?」
箱の結界に閉じ込められたスライムさんは、困惑の声を漏らす。
「え、うそ? 私ちゃん、こんな負け方しちゃうの? えっ、えっ――――」
「なんか、すみません………」
私もこんな勝ち方をするとは思っていなかった。
だが、武器を奪って結界に閉じ込めてしまえば、ナナは戦闘不能となる。
あまりかっこよくはないし、スカッともしないけれど、ルール上は勝ちだ。
「いやだっ――――こんなダサい負け方いやぁ――――!」
箱が小さすぎるあまり、元の体に戻れず液体のまま嘆き始めるナナ。
液体に口や目はないが、泣いているようにも見えた。
そこへ端で見ていた審判のリリィが近寄ってくる。
そして、液体のナナと、彼女の武器を奪った私を確認し、コクリと頷いた。
「試合終了――! エレ様の勝ちです!」
「いやっ――――! こんな負け方いやっ――――! やり直した――――い!」
訓練場ではリリィの終了宣言とともに、スライム状態のナナの悲鳴がひたすらに響いていた。
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