第14話 情報屋のお姫様(アーサー視点)
エレちゃんに拒絶されたという信じたくもないことがあった、その日の放課後。
突然の拒絶に疑問に思った僕は、すぐさま図書館に向かった。
校舎隣の図書館はとても広く、階層は地上4階地下2階もある。
初めて訪れる者にとっては、迷宮ともいえるかもしれない。
そんな王城並みに広い図書館のある一室を、1人の人間が占領している。
ルートを知らなければ、一生見つかることはないだろうその部屋を知っているのはごくわずかの人間だけ。
僕はその部屋に向かおうとしていた。
人につけられていないことを確認しながら、4階へと向かう。
4階に着き、ある本棚ところへ行くと、本棚から1冊の分厚い本を取り出す。
本が置いてあった場所に空間ができ、その奥には小さなくぼみが見えた。
そのくぼみは硬貨よりも大きく手のひらよりも小さい。
僕はそこにポケットにしまっていたペンダントをはめた。
すると、隣の本棚が後ろに引っ込み、階段が出現。
そこに入り、本棚を元通りにして、僕は階段を下りていく。
途中、ドアを見かけたが、その部屋には用がないのでスルー。
どんどん下へと降りていく。
4階までは壁に窓があるため、外の明かりが入ってきていた。
だが、地下部分に差し掛かると、足元に柔らかいライトが照らされる。
そして、6階分降りると、大きな両開きのドアが見えてきた。
そのドアの隙間から、オレンジの光が漏れている。
「失礼するよ」
僕はノックをして重いドアを開けると、見えたのは大量の本、本、本。
その部屋は全ての壁に本棚があり、棚には所狭しと本が置かれていた。
上の天井には小さなシャンデリアがあり、柔らかい暖色の光を灯している。
そんな本だらけの部屋の奥にいたのは、1人の少女。
茶色のツインテールでメガネの彼女は、本を片手にふかふかの本革椅子に座っていた。彼女の両脇にはもちろん、積み重なった多くの本。
「あんたが私のところくるなんて珍しいわね」
少女は本から目を離し、こちらにアンバー色の瞳を向けてきた。
「ちょっと頼みたいことがあったのさ」
僕の顔を見ると、彼女は分かりやすく嫌そうな顔をする。
長い付き合いになるんだから、そんな顔をするのはやめてほしい。
「あんたの頼み事ね……なるほど。あの令嬢のこと」
「察しがよくて助かるよ」
「具体的には何が知りたいの?」
「エレシュキガル・レイルロードに対するいじめについて、君が知っていることってある?」
「ええ、それなら大体把握してる」
すると、彼女は机の上の分厚い本を開く。
そこには大量のメモがされていた。
きっと彼女が目にした学園事情が書かれているのだろう。
「……エレちゃんがイジメられたのを知ってたのに、君は何もしないんだね」
「私があんたのように、何でもかんでも助ける人間と思わないで。面倒事に自分から突っ込むわけないでしょ。ここの貴族の争いってしょうもないもの」
「ごめん」
謝ると、彼女はフンと鼻を鳴らす。
「まぁ、分かってくれればいいわ」
「ありがとう。それで、エレちゃんに嫌がらせをしている主犯って誰?」
「んー……スカーレットとかいう女っぽい」
「っぽい?」
いつもスパッと答えてくれる彼女だが、その時は少し濁した。
「スカーレットっていう女が中心になって嫌がらせをしているのは確実。でも、私はあの女が主犯だとは思えないの。彼女、男爵家の人間なんだけど、従っている人の中に彼女以上の身分の人間もいる」
「つまり、他の人間……男爵家よりも最も上の人間が主犯ってこと?」
「まぁ、あくまで私の推測だけどね。でも、あの女が侯爵家の令嬢を動かしてるから、きっとそうだと思う」
侯爵家となると、それ以上の公爵家の人間か。
この学校に通っている公爵家の者なんて限られてる。
エレちゃんか、あの子か。
「女子寮ではエレちゃんへの嫌がらせはある?」
「あるわ。かなりひどいものよ。見てられないぐらい……レイルロードさんが寮に帰ってきた瞬間に上から泥をぶっかけたり、部屋から出られないようにドアの前に物を置いたり」
「そんなことされているの?」
「ええ、寮母も黙認しているみたいよ。でも、不思議よね」
「不思議?」
「ええ、不思議じゃない? あの子が1人で耐えているんだもの。公爵家の人間なら文句を言えばいいのに、何もしていないの。不思議だと思わない?」
彼女はハッと鼻で笑いながら、「私なら先生や学園長あたりにチクって、それでもダメなら、あなたに頼んで相手を退学にさせるわね。絶対に」と話す。
「ああ、そういえば、昨日だったかしら。スカーレットがレイルロードさんにこんなことを言っていたのを聞いたわ」
「それってどんなこと?」
「『あなたに殿下と関わる資格はない』だとかなんとか。『気品のかけらもない野蛮なあなたと王子は初めから釣り合わない』なんてことも言っていたかしらね」
なるほど。
エレちゃんはスカーレットに言われたことを真に受けて、僕を拒絶するような行動をとったのか。
「分かった。教えてくれてありがとう、お姫様」
「やめて……その呼び方は」
「ごめん。マナミ」
そう呼ぶと、彼女は嬉しそうにフッと笑う。
「そう、その呼び方の方がいい」
「本当にありがとう」
「どういたしまして。じゃあ、あなたの初恋が叶うようにせいぜい頑張って、王子様」
「ああ、頑張るよ」
ツインテールの友人にお礼を言うと、僕は部屋を出た。
★★★★★★★★
『関わりたくない』発言はエレちゃんの真意ではない。
そのことが分かった僕は、彼女に話しかけることにした。
教室で艶やかな銀髪の彼女を見つけると、すぐに駆け寄る。
しかし、彼女はこちらに目を向けることはない。教科書を読んでいた。
「エレちゃん、おはよう」
「…………」
む、無視か……。
きついな。エレちゃんに無視されるなんて……もう生きていけないかも。
いや、頑張る。僕はエレちゃんと仲良くなるんだ。
こんなことで食い下がるものか。
話しかけても無駄なので、僕はエレちゃんの顔を覗き込む。
すると、驚いたのか、彼女は目を見開いた。
「で、殿下?」
「エレちゃん、おはよ」
「おはようございます……」
よかった。
ちゃんと挨拶を返してくれる。
僕は嬉しくて、ニコリと笑った。
「そういえば、エレちゃん。週末にお茶の約束したよね?」
関わりたくないとはいえ、エレちゃんは一度した約束を反故にすることはできないだろう。
卑怯な手かもしれないけど、このまま彼女と関われないということは避けたい。
お茶をする時には、場所を選びさえすれば、エレちゃんは他の目を気にすることなく落ち着いて話せるはず。
でも、エレちゃんは。
「申し訳ございませんが、それはなかったことにしましょう」
「え?」
「話はそれだけですか? なければ、私は勉強に戻りますね」
「…………」
端的言うと、エレちゃんは視線を僕から教科書へと戻していた。
その後もエレちゃんに話しかけようとした。
だが、約束をないことにされたショックと次に拒絶されたらどうしようという不安で、その日は彼女に話しかけれなかった。
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