第65話 勝ったな

 今日は待ちに待った大星祭。

 迷路脱出の練習場となっていた円形状の第1闘技場は、練習の頃とは全く違う姿になっていた。

 国中の人間を集めても、空席はできると思われた客席にはぎっしりと人で埋まっていた。グレックスラッド王国だけではなく、他の国からも遠来された方がいらっしゃるようだ。


「エレちゃん、すごく似合ってる」

「ありがとうございます」


 隣に座るアーサー様は私を見て、優しい笑みで褒めてくれた。


 今日の私はいつもの制服ではなく、大星祭に用意された服。白を基調とした軍服で、その刺繍には金色の他に、クラスごとにカラーの糸で施されていた。私たちのクラスのカラーは水色で、空のように透き通った糸で刺繍がされていた。さらに、女子の服には水色のリボンが添えられており、可愛らしいさが増していた。


 因みに、刺繍糸はアーサー様の瞳と同じ色。隣に座る彼の軍服を見に纏った姿は、目眩がしてしまうほど美しいかった。会場に来るまでにも、アーサー様を目撃した女子の中には気絶してしまう人がいたほどだ。

 もちろん、他のみんなも軍服に着替えており、嫌がっていたマナミ様もちゃんと軍服を着ており、いつもの眼鏡ではなく、なぜか丸サングラスをかけていた。日差しが強くて眩しいのかしら?


 学生たちはクラスごとに席を設けられており、出場する時以外はそこで応援するようになっていた。セレナは応援に気合を入れており、ポンポンやメガホンを持ってきていた。また、彼女に頼まれて、マナミ様はワダイコなるものを持ってきていた。叩く気はなさそうだけど。


 アーサー様とは反対側の私の隣に座るギルは、緊張しているのか少し口数が少ない。


「ギル、そんな肩を上げなくても、楽しめばいいのよ」

「………ハイ。ガンバリマス」


 返ってきたにはぎこちなかったけれども………まぁ、体調もいいみたいだし、大丈夫だろう。

 ブリジットはいつも通りの様子で、マナミ様の隣に座って会場を眺めていた。余裕たっぷりそうで非常に安心だ。


 そうして、観客席で学園長の開会宣言及び、生徒会長の選手宣誓を見守り、大星祭が開幕した。


 最初に予定されていたのは魔法戦。私とアーサー様、その他多数のメンバーが出場する種目だった。

 私はアーサー様とともに、待機場へ向かった。魔法戦には多くの学生が参加するため、待機場所は人で埋め尽くされていた。


 魔法戦は個人戦とチーム戦があり、個人戦はトーナメント形式になっている。

 私は個人戦で、アーサー様はチーム戦。チーム戦は学年ごとの対決で、多く勝利したチームが優勝だ。


 個人戦がトーナメントで休憩を要するため、競技自体は個人戦とチーム戦が交互に行われる予定になっていた。


「では、アーサー様。行ってまいります」

「いってらっしゃい」


 最初に出場するようになっていた私は、アーサー様にいつもの如く挨拶をし、私は壇上へ上がる。同時に、戦いを待ちわびていた歓声がわっーと上がった。


「よろしくおねがいします」


 白い階段を上った先の向かいにいたのは隣クラスの女の子。私の相手は彼女なようだ。

 私は彼女に挨拶をし、頭を下げると、相手も慌てて返す。


 直前にくじを引くため、誰と戦うのか分からなかったけど、それでも大丈夫。


 事前準備は完璧。私はどの人に当たってもいいように、全員を分析していた。

 結界魔法が使えない以上、他のもので防御を固めなければならない。しかし、火であれば植物系の魔法はNG、水を使われれば火はあってないようなものになってしまうため、相手の魔法によって使用する魔法を変えなければならなかった。


 彼女は確か土魔法を得意としていたはず。

 身を守るために、土壁を作ることだろう。


 そうなると魔法を使うよりも物理で行った方が早いけど………。


 攻撃は魔法を使用しなければ、失格となる。

 ならば、仕方あるまい。

 物理オンリーで無理なら、強化魔法を付与して行こう。


「バトル開始!」


 その合図とともに、私は魔法を展開。一直線に駆け出した――――………。




 ★★★★★★★★



 

 ――――結果は私の勝利だった。

 相手の方には大変申し訳ないのだが、圧勝で30秒のうちに戦闘不能にしてしまった。

 その後もあっさり倒してしまい、気づけば決勝。


 その決勝の相手はというと――――。


「………ブリジット、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく」


 まさかまさかのブリジット。彼女と私は同じクラスだが、トーナメント形式なのでクラスメイトと当たる可能性は十分にあった。

 でも、まさかブリジットと決勝で戦うことになるとは………。


 まぁ、これで1位と2位の得点は私たちのクラスとなったわけで。個人戦は勝ち取ったも同然。たとえこれでへまはしても、クラスには何も影響しない。

 でも、決勝まで来たんだし、優勝はしたいな。


 しかし、最近のブリジットの成長は凄まじい。魔法は全然使えないと言っていた。が、マナミ様と練習するようになってからは“魔法が使えない”だなんて嘘だと思えぐらいに、使いこなせていた。

 また、探求心もあってか創意工夫が卓越しており、魔法陣の構築も卒業レベルを超えていた。


 だが、私はブリジットと戦う機会がなかった。というか、彼女に拒否されていた。

 でも、今日は戦える。楽しみだわ。


 期待を膨らませながら、審判員の合図と同時に私は氷魔法を展開。


「コラプス」


 魔力量を抑えながら次々に魔法展開し、私の魔法を破壊していくブリジット。私は1人彼女に感心しながら、ブリジットの攻撃を回避。そして、宙を舞いながら反撃を行う。


「余裕ぶらないでよ! 本気を出しなさいよ!」


 どうやら100%の力を出していないことに気づかれたようで、ブリジットに強く睨まれた。

 ブリジットの戦法をじっくりと分析したかったのだけど、このまま全力を出さないのも彼女に失礼よね。


 そう思い、本気を出してみたところ。


「もぅ~~~~!! 手加減しなさいよ!」


 と理不尽な叫び声が聴こえ、その後審判員のバトル終了の声が響いた。

 砂ぼこりがおさまった先にいたブリジット。彼女の足は場外に出ていたため、負けとなり、私が優勝した。


 5人で行うチーム戦も私たちのクラスが優勝。

 アーサー様の戦いは私のものとは比べ物にならないほど、圧勝。

 私と同様自分の体に強化魔法をかけ、瞬時に相手の前へ移動。瞬きする間もなく、相手は場外へと放り出され、アーサー様の勝利となった。


 他のメンバーは苦戦することもあったが、最終的に私たちのクラスが一番となった。


 それからは次へ次へと競技が行われ、プログラムが進んでいった。

 練習したせいかがあったのか、アーチェリーも難なくこなし、本番では1つは外したものの、他は的中央へ命中。

 ギルも緊張していたわりには、競技中には驚くほど集中力を高め、全てど真ん中へ射っていた。

 

 この調子であれば、私たちのクラスが圧勝する………!!


 そうして、プログラムが半分以上終了し、迎えたリレー。


 出場しない私は同じく出場無しのギルやマナミ様、セレナたちと並んで観客席に座って、スタートに地点に立つアーサー様を見守った。

 じっ―――と見ていると、アーサー様と目が合い、にこっと優しい笑みで手を振ってくれた。それに答えるように、私は手を振り返す。


 ………なんか後ろでドタドタって倒れる音がしたけど、大丈夫だろうか。


 別クラスのクライドも出場するようで、アーサー様の隣のレーンで屈伸していた。


 アーサー様、頑張って。


 スターターピストルが鳴り、1番手が走り出す。100m走ると、次の走者へバトンが渡され、2走者が走り出す。だが、バトン渡しの際に手こずったのか、私たちのクラスは少し遅れていた。

 

「じゃあ、お先に失礼ぃ~。マナミ、勝たせてもらうね~」


 とクライドはなぜかマナミ様に宣言して、先頭を走り抜けていく。

 その後、アンカーのアーサー様へバトンが渡った。遅れに遅れて最後尾。1番は無理だと諦めた瞬間。


 えっ………………?


 軽やかにトラックを駆けていくアーサー様は、前を走っていた選手を次々と抜いていき、そして1番だったクライドをも抜いて。


「やった!!」


 見事一番でゴール。全力で走っただろうに、アーサー様は爽やかな笑みを浮かべて両手を挙げていた。

 興奮のあまり私は立ち上がり、マナミ様は優雅に拍手。ギルも習って拍手を送っていた。

 周りの観客もどんでん返しの展開に、口笛を吹きこれでもかと歓声を上げている。


 おめでとうございます、アーサー様。


 遠くて聞こえないだろうが、私は必死に拍手を送った。

 リレーメンバーに囲まれて、楽しそうに話しているアーサー様を見守っていると、彼が私の所へ真っ直ぐ走ってきた。


「これ、エレちゃんに」


 と、私の首にかけたのはリレーで勝ち取った金メダル。そして、額にちゅっと口づけ。その瞬間、近くにいた女子たちの悲鳴が上がり、どたどたと倒れる音が聞こえた。


 眩しいほどの笑顔を浮かべるアーサー様。滴る汗も美しかった。

 あまりの美しさに頬が熱くなる。ドキドキが止まらない。胸が早鐘のように高鳴っていた。


「………おめでとうございます。私も勝って、メダルをプレゼントしますね」

「うん、楽しみに待ってる」


 なんとか声を絞りだし、祝言を伝える。すると、アーサー様にハグをされ、頭をポンポンと撫でられた。また女子が何人か卒倒していた気がする。

 その隣で穏やかな笑みを浮かべるマナミ様。彼女はなぜかサングラスのブリッジをくいっと上げて。


「これは勝ったな………………クライド、約束は守ってもらうぞ………」


 とニヤリと笑って呟いていた。

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