第100話 どうして。−4
私はただ普通に生きてきただけ、どこから間違ったのかすらもう分からなくなってしまった。葵ちゃんに嫌いって言ったこともないのに、どうしてお父さんと同じ扱いをされてるのかな…? じゃあ…、私は今からどうすればいいの…? 誰か教えて。
「……」
それから、ずっと一人で悩んでいた。
それでも私は一番好きだった妹を、すぐ諦めなかった。
それが消えてしまうと、本当に何も残らないから…。
私には好きって言ってくれる家族もいないし…。今からどうしたらいいのかを考えるより、自分の精神が崩れないように葵ちゃんに執着していた。いつかきっと分かってくれると、私はそんなことがあっても執着することしかできなかった。
「……」
毎日毎日がつらくて誰かそばにいてほしかったけど、私のそばには誰もいない。
「お母さん…」
「うん?」
「私は…」
「どうした?」
このままじゃ何もできないから、お母さんに声をかけてみた。
挨拶以外にこうやって声をかけるのは初めてだったから、何を言えばいいのか分からなかった。お母さんと話す方法すら思い出せないほど、私とお母さんの間には会話がなかった…。こっちを見つめるお母さんに、私は「なんでもない」と…自分から声をかけて、その場から逃げてしまった。
「菜月ちゃん…」
幼い頃にはどうやって話したの…?
どうして、声が出てこなかったのかな…?
そして私があんなことを心配していた時、いつの間にか私の成績順位が下がってしまったのだ。本当にびっくりした。成績が下がった時のお父さんはため息をついて、私の成績表をすぐ床に投げ出してしまった。それに「ごめんなさい」しか言えなかった当時の私はこっそり涙を流しながら、その成績表を拾う。今はそんなことを考える時じゃない。私が頑張らないと…私の未来が、ずっと欲しがっていた「幸せ」がなくなってしまう。もっと頑張らないと…、もっと頑張らないと…。
そこから学んだこと、人間は常に変わる。
確信させても、いつかは変わってしまう。
人をすぐ信じてはいけない。
そして人を操るためには、絶対的な力が必要ってこと…。そうじゃないと、相手に従うしかない。それだけ。お父さんが私に教えてくれた普通の人生だった。
誰にも負けないようにずっと頑張っていた。
誰が何を言っても、無視して自分の道を真っ直ぐ走っていた。それしかできなかったから、間違ったことを知っていてもそのまま走るしかない私だった。
そしてその苦しい時間を耐えた私には、お父さんとお母さんの離婚というとんでもないことが待っていた。しかも、私がそれを知った時はもうお母さんと葵ちゃんがこの家から消えた後だった。どうして、私一人だけ…置いて行くの…? 私は、私は二人と一緒にいられないの…? 本当に嫌われていたのは私だった。そうだと思っていた。
人はすぐ人を捨てる…。
あの時の私は捨てられた…。二人に捨てられて、この大きい邸宅の中に残された。
「……」
虚しくて、寂しくて、悲しくて…。
この気持ちをどうすればいいのか分からなかった。
そして、お父さんは「一人暮らし」の約束を守ってくれた。
私がそれを話した理由は、葵ちゃんと二人で暮らすつもりだったから…。今更そんなことを言われても、私には何も残っていないかった。そしてお父さんの話に、ただ「はい」と答えるしかなかった。
誰かに捨てられた時の感情がとても怖くて、それは大学生になっても変わらなかった。そして私が初めて付き合った人もいつか私を捨てるかもしれないって、心の底から不安を感じていた。人は常に変わるから、それが怖くて堪らない私だった。
「なんで…、そんなことをするんだよ…! 菜月…」
「こ、こんなことをしないと…、私から離れるんでしょう? 私は、捨てられるのが怖いから…。〇〇くんもすぐ私を捨てるんでしょう?」
それはトラウマになってしまった。
そして、私はお父さんに学んだことがある。絶対的な力を使って、相手を私に従わせる。お金でもいいし、外見でもいいから…とにかく私から離れないように…。ずっと、ずっと、ずっと…。そばにいてほしかった。
人は難しい、私がそんなに「愛」をあげたのに…。
何が足りなかったのかな…? 私は普通の恋をしているのに、どうして私から逃げて…葵ちゃんのところに行っちゃうのかな…? 理解できない。分からない!
私を捨てた人と、あんなことをするなんて…。
だから、あの人を監禁した。
私に従うように、いろんなことを試してみた。まるで、お父さんみたいなやり方。私は、私のやり方が正しいと思っていたから…。そんなことしか知らなかった。私から離れるのが悪い…。私に好きって言ったくせに、どうして離れようとするの…? 好きって、ずっとそばにいてくれるって意味じゃないの…? また私の前で大切な人が消えてしまうのは嫌…、それだけは絶対嫌…。
私から離れないで…、何もないから…。
ずっとそばにいてほしい。どこにも行かないで、私のことを愛してほしい…。
そしてその結果は…、あの人の殺意だった。
「悪魔だ…!」
……
私は…、知っていたかもしれない。
ずっと、それを知っていたかもしれない…。
でも、それを認めるのはできなかった…。
お母さんと出会った時、私はすごく悲しかった…。知っていたから、知っていても私はその事実から目を逸らしてしまった。会いたい、一度だけでもいいから私のことを「愛してる」って話してほしかった。
とても苦しかった。それは時間が解決してくれない痛みだったから、ずっと何かを求めてしまう。そしてあの時、私を助けてくれた尚くんに希望を抱いていたよ…。
尚くんなら、こんな私を愛してくれるって思っていたから…。
だから、私は尚くんにも執着をしていた…。最初はそんなに傷つけたくなかったのに、気づいた時はもう私の証をいっぱい残した後だった…。不安に怯えていた私にはそれしかない…、そうすると尚くんはそばにいてくれるから…。
そして、いつかこうなることを知っていた。
もう…、この痛みに耐えられないから…。
こんな彼女でごめんね…。
尚くん…、ごめんね…。
……
もうすぐ死ぬことを知っていても…。
最後にもう一度…、尚くんの顔が見たい…。
好きだよ…。尚くん…。
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