第88話 空席。

「尚のやつ、また欠席か? そんなに体の調子が悪かったっけ?」

「ううん…。よく分からない…。でも、そんな顔じゃなかった気がする」

「だよね? イロハちゃん…」

「うん」


 葵ちゃんと尚が話をしたあの日から、もう数日か経ってしまった。

 二人の間に何かあったのか分からないけど、尚は誰にも連絡せず、そのまま欠席している状況だ。先生は尚の体が悪くて今は学校に行ける状況じゃないと言ったけど、俺はそうだと思わない。葵ちゃんが言ってくれたこともあるし、尚が学校に来ないのは本当に珍しいことだった。


「今日…、柏木くんの家に行ってみる?」

「うん…。そうした方がいいかも」


 気になる…。葵ちゃんもあんまり連絡してくれないから…。

 二人とも何があったんだ…?


「今日も電話出ないな…」

「柏木くんのこと?」

「うん…」


 帰り道、俺はイロハちゃんと尚の家に向かっていた。

 あいつが実家に戻るわけないし。わけがあるやつだから…、きっとあのマンションにいると思っていた。


「ここだよね?」

「うん」


 ノックをしてみたけど、尚は出てこなかった。

 何度も電話をかけたけど、電話にも出なかった。


「……本当に、家にいるの?」

「そうだな…」


 そして、俺は葵ちゃんが言ってくれたのを思い出す。

 自分のお姉さんに何かをされてるかもしれないことを…。もしかして、尚は今あの人と一緒にいるんじゃないのか…? ベルを押しながらそんなことを考えていた。もし、あの人と一緒にいるなら…。これはすごくやばい状況じゃ…。


「鳴いてるよ? 電話…」

「あっ、うん!」


 葵ちゃん…?


「先輩…、隣部屋です! 隣部屋に監禁されているはずです!」

「隣部屋?」

「そこに住んでいます。花田菜月は! でも、そっちは危ないから一人で行かないでください!」

「そこに尚がいるってこと…?」

「はい!」

「分かった」


 電話を切ってから、しばらく考えてみた。

 俺が今やるべきことを…。


「誰?」

「いや…、お母さんが早く帰ってこいって…」

「え…。じゃあ、今日は帰ろうかな? 柏木くんもいないようだし」

「そうね…。仕方がない」

「うん」


 ……


 もちろん、俺はイロハちゃんを送ってあげるだけ…。

 一応、そこに行ってみるつもりだった。葵ちゃんが言ってることが本当なら、そこに尚がいるはず。俺は友達として、尚を助けてあげないといけない。1年くらいだけど、お前と過ごした楽しい時間はまだ忘れていないぞ。また、一緒に遊ぼう…。


「……」


 待ってろ…。俺が今そこに向かってるから尚…。


「はあ…はあ…」


 急いで走ってきたけど、時間が遅くなってしまった。

 あの人は今家にいるのか…? ベルを押さないといけないのに、なぜか指先が震えていた。俺は緊張してるのか…? あの人がもし、葵ちゃんが言った通りに…尚のことを監禁していたら…。俺はどうしたらいいんだ…? ややこしい状況だな…。


 そんなことは後にして、まずはベルを押してみた。


「は〜い。誰ですか?」

「あ、あの…。すみません…。501号の友達なんですけど…」

「はい…? でも、ここは502号ですよ?」

「少し聞きたいことがあるますけど、いいですか?」

「……」


 少しの沈黙…。


「はい。ちょっと待ってください」


 すごく緊張していた。

 中にいる人は間違いなく…、前に会ったあのお姉さんだろ…?


 ガチャ…。


「はい。どうしましたか?」

「あの…、尚…。いや、501号の友達なんですけど…。最近、学校に全然来ないから…もしかして何か知ってますか?」

「あ〜。尚くんのことですね…。たまには話をしていますけど、よく分かりません」


 俺の前で笑っているけど、何を考えているのかよく分からない顔だった。


「部屋、暗いですね?」

「はい…。今帰ってきた場からりなので…」

「あの…知ってますか?」


 俺は探りを入れた。


「はい?」

「私のお母さんは調香師で、幼い頃から香りにすごく敏感でした」

「へえ…、そうですか?」

「だから、尚の匂いもちゃんと覚えていますよ? あいつの男の匂いがいつの間にかすごくいい匂いに変わったのも…。そばにいた私は知っていますよ?」

「……」

「どうして…、ここで尚の匂いがするんですか…?」

「へえ…、勘違いだと思いますけど…?」

「そこにいるんですよね? 尚」


 確信はないけど、ここにいるんだと…そう思っていた。

 馬鹿馬鹿しいな…。俺…、こんな人だったのか…? 尚…、お前…がいなくなるのが嫌だった。葵ちゃんのことも好きだけど、俺はお前のことも悪くはないと思っていたから…。大切な友達がいなくなるのは嫌だった…。


「じゃあ、入りますか? 疑われているようで、直接確認してください。その目で…」

「ありがとうございます。し、失礼します…」


 普通の部屋…、ここに尚がいるのか…?

 よく分からないな…。ちょっと広いし…。


 そして、俺は出口を塞ぐような引っ越しのボックスに気づいてしまう。

 なんか…、あっちの部屋…使っているような気がするけど…?


「あの…こっちのボックスは」

「はい…」

「は—————っ!」


 何…、後ろからすごい痛みが…。


 すぐ倒れてしまう楓。


「ああ…。葵ちゃん、こんなことはよくないって話してあげたのに…。人の話を全然聞いてくれないよね…」


 ため息をつく菜月。

 そして、開いているドアからある人が入ってくる。


「これ、どうしますか…?」

「あら…、帰ってくるのが早いね?」

「はい…。タクシーを乗りました」

「いい子いい子…。本当に、可愛いね…。イロハちゃんは…」

「……」


 笑みを浮かべる菜月の前には、自分のスカートを捲るイロハがいた。


「あら…? ご褒美がほしいの?」

「はい…」

「それも見たい?」

「はい…」

「じゃあ…。私が見せてあげたら…、ちゃんと処理してくれるよね? この人」

「はい…」


 ボックスを運んだ後、すぐ尚を監禁した部屋の扉を開ける菜月。


 そして手足が束縛された尚の裸姿に、顔を赤めるイロハだった。

 彼女は息ができないほど興奮して、足がすごく震えていた。手を伸ばせばすぐ届くその場所に、イロハが欲しがっている尚がいたから。ドキドキする自分の胸に手を当てていた。


「あっ…、あ…、あ…」

「今は声を出してもいいよ…? 尚くん、眠ってるから…」

「あ…、あ…、か、柏木くんだ…。柏木くんだ…」

「可愛い…、尚くんのことがそんなに好きなの?」

「うっ…、好きです。はあっ…」


 イロハのアソコを優しく触りながら、耳元で囁く菜月。


「イロハちゃんだから、特別に見せてあげるんだよ? いつも頑張って、私の話通り動いてくれるからね…?」

「はい…。はい…っ」

「下着越しに感じられるこの感触、好きだよね…? イロハちゃん…」

「はい…」

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