第28話 新年。−2

 ぼーっとして花田さんの肩に頭を乗せていた…。

 心配をしていたけど、お酒を飲む二人が大学の話で盛り上がったようで、一応ホッとした。そのまま彼女のそばでじっとする。まだ11時40分くらいだから、もっと頑張って年越しそばを食べたかったのに…。どんどん眠くなる俺が少し憎かった。


「な———お———くん!」

「……」

「私の前で無防備なのはよくないよ…? 食べられちゃうかも〜」

「……」


 また恥ずかしいことを言う花田さん。

 俺はそばから彼女の唇が感じられても、何もできなかった…。


「変態…」

「尚くんのエッチ…」


 そのままキスをする二人。


「菜月…!」

「うん? どうしたの?」

「初中、あんなことやってるの?」

「うん…。家だし、もう慣れちゃったから恥ずかしくないけど…?」

「へえ…、そうなんだ…」

「エルの彼氏は…?」

「別れちゃった…」

「あっ、ごめん」


 先からずっと尚を見つめるエルに、菜月は気づいていた。


「エル、缶ビールもうないね…? 私、どうせ夜更かしするから買ってくるよ!」

「えっ、いいの? 私が行ってもいいのに…」

「今日は客でしょ? すぐ前だから、行ってくるね。テレビでも見ながら待ってて」

「あっ、うん!」


 尚をベッドに寝かせた後、急いでコートを着る菜月が家を出た。

 そしてエルが待ち焦がれていた時間が訪れる。尚の家からコンビニまでは距離があるから、菜月だとしてもすぐ帰ってくるのは無理だった。それを知っていたエルは尚の寝顔にソワソワしながら、彼のそばにどんどん近づいていく。


「柏木くん…」


 指先で唇を触るエルは、ずっと菜月を妬んでいた。

 こんな可愛い子を独り占めして自分だけが幸せになろうとする菜月に、エルは隠していた欲望をもう抑えられなかった。そして「友達の彼氏」という状況に、どんな罪悪感も感じないまま尚とキスをする。菜月だけが知っているその唇の感触を、自分も知りたかった。


「……」


 エルはずっと欲しがっていた。

 言うことをよく聞く可愛いワンちゃんが…。


「……フン、こんな味か…。気持ちいいね…」

「……」

「酔っ払って何もできないの…? 柏木くん…、可愛いな。やはりこれ欲しい…」


 ベッドを掴んでいたエルの左手が、尚のソコを握っていた。


「可愛い———」

「……っ…」


 すると、恥ずかしい声を漏らしてしまう尚に、彼女はシャツの中にまで手を入れてどんどん大胆なやり方で選んでいた。


「な、何これ…!」


 こっそり自分のキスマークを残したかったエルは、もうめちゃくちゃになっている尚の上半身に気づいてしまった。数多いキスマークが腕と胸元に残されていて、その横腹には菜月に噛まれた歯形が数十個残されていた。どこにつけても、自分の存在感を表すことができないほど、尚の体はすでに菜月の物になっている。


「ふ、普段からあんなことをやってきたの…? 菜月、柏木くんの体にこんなことをしたくせに…。何もしてないよ? みたいな顔をして…」


 仕方がなく。首筋につけようとしたエルは、すでに残されている菜月のキスマークにまたびっくりしてしまう。


「何これ…、こんなプレイが好きなの? 柏木くんは…」


 体のどこを見ても菜月が残した赤い痕ばかりで、エルはさらに嫉妬していた。


「大学ではそんなに大人しくしていたのに、ここでは初中柏木くんを襲うの…?」

「ううん…」


 寝ている尚の体を自分の方に向かせたエルが、その乱れた姿に顔を赤めてしまう。


「柏木くん…、菜月にあんなことをされても好きって言えるんだ…。羨ましい。私にはこんな彼氏いないのに…、どうして菜月だけが…」


 一線を越えるのはそんなに難しくなかった。

 抗えない尚を制圧するのはたやすいことだと思う彼女が、菜月が帰ってくる前に自分の欲を満たそうとした。


 その証として、またキスをするエル。


「……っ」

「……」


 寝ていても自分の感触が伝わるように、少しずつ男の弱点を攻略する。

 ソコで腰を動かしたり、首にキスをしたり…。友達の彼氏にべたつくエルは、まるで自分の物のように尚とスキンシップをしていた。笑みを浮かべるその顔には友達の彼氏に手を出した罪悪感より、彼を所有したい欲求に興奮していた。


「はあ…、柏木くんが私の物だったら…。もっと可愛がってあげるのに…」


 すりすり…。


「菜月は…こんなのを毎日やってたんだ…」


 数十分の間、抗えずエルにやられっぱなしの尚だった。


「……」


 ……


 息が詰まるような気がする。

 悪夢なのか、あるいはお酒のせいで体の調子が悪かったのか…よく分からない。ただ、温かい何かに触れて…そのままくっついて離れないような気がした。花田さんがまた何かをしているのか、たまたま寝ているうちにキスをしたりするからな…。


「……っ」


 でも、この匂いは…花田さんじゃないような…。

 そして目を開けたところには俺と唇を重ねている木下さんがいた。


 嘘…、だろう…?


「あら…、起こしちゃったの?」

「……はい? どうして、木下さんがここに…? な、何を…してるんですか?」

「ねえ…、菜月は今いないから…。もうちょっとだけ、気持ちいいことをしよう。柏木くん…」

「はいっ…?」


 そう言ってから俺を制圧する木下さんに、キスをされてしまった。

 今起きたばかりで頭が痛い…。そしていきなりキスをされたこの状況に全く理解できていないまま…。俺を抱きしめる木下さんと唇を重ねていた。


 唇に残る木下さんの感触に、俺は恐怖を感じてしまう。

 これは…やってはいけないことだったから…、体がすごく震えていた。


「な、何をするんですか?」

「今度一緒に遊ばない? 二人っきりで」

「変なことを…、私は花田さんと付き合ってますよ…?」

「だから?」

「だからって…」

「木下さんは友達の彼氏に手を出すつもりですか?」

「もう手を出しちゃったし…。私は欲しい物を手に入れるためなら、友達の物にも手を出す人だよ? フフッ」


 木下さんは何を言ってるんだろう…? 正気なのか…?

 もしかして酔ったのか…? いや、俺の夢? 悪夢? なんだろうこれ…。


「ねえ、柏木くんはどうする? 一緒に遊ばない? 菜月には内緒でね?」

「……」

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