隣部屋にヤンデレのお姉さんが引っ越してきました。(助けてください…)

星野結斗

第1話 プロローグ

「ねえ…、尚くん。どうしてそんなに可愛いの…? はあ…、どうしよう…。好き、私の尚くん…」


 頬を触る彼女の手が温かい…、体が冷えて、声も出て来ないこの状況…。


「……」


 俺の名前は柏木尚かしわぎなお、今…俺の部屋で隣部屋のお姉さんに束縛されている。こうなった原因は俺にもよく分からない…。思い返せば、日課を終わらせた俺がお風呂から上がる時だったかもしれない…。洗面所でスタンガンを持っていたお姉さんが、いきなり飛びついてきてそのまま気絶してしまった。


 その後は覚えていない…。


「ねえ…、起きてるんでしょう? 尚くん…」

「……はぁっ…ケホッ!」


 お風呂から上がった後、お姉さんが服を着せてくれなかったせいですごく寒い…。

 頭も重いし、どうやら風邪を引いたようだ。


「うん…? なんって言った? よく聞こえなかったから…。もう一度話してくれない? ねえ、尚くん」

「ケホッ…」


 唇が乾いて…、口もきけない…。


「ねえ…、話してみてってお姉さんが言ってるじゃん…?」

「……」

「やっぱり…、唇が乾いたからかな…?」

「……」


 怖い…、お姉さんがとても怖い…。

 元々、優しい人だったのに…どうしてこうなっちゃったんだ…?


「仕方がないよね…? 悪いことをしたのは尚くんだけど、声が出ないと…困るからね…?」


 何もしていない…。俺は学校から帰ってきて…、お風呂に入っただけなのに…。

 どうして…?


「フン…。尚くん…それ、どうして?って顔なの…? 帰り道に他の女と楽しく話したくせに…、そんな顔しないで」

「……」


 ペットボトルの水を少し飲んだお姉さんが、俺と唇を重ねる。

 温かい水が口の中に入ってきて…、ちょっとだけ助かるような気がした。それよりさりげなくキスをするお姉さんに、今から何を言えばいいんだ…。お姉さんに「解放してください」って言っても聞いてくれるのかな…? そして水を飲ませてくれたお姉さんは、いつもと同じ顔で俺を見つめていた。


「はあ…、はあ…」

「どう? 尚くんのために温めた水だよ? 優しいでしょう? 今なら声が出るのかな…?」

「う、うん…」

「私に言いたいことはないの…?」

「どうして、こんなことをするんですか…! 花田さんは…!」


 苗字で呼ぶと、すぐ俺の頬を叩くお姉さんだった…。


「私、その呼び方は嫌って言ったでしょう…? そして敬語も嫌」

「ご、ごめんなさい…」

「前にも教えてあげたよね? 呼び方…。言ってみて」

「菜月…」

「うん…。好き…」


 どうしてこうなったんだろう…。


「もっと…言ってみて」

「菜月…」

「うんっ…! 尚くん!」

「……」

「でも、可愛いから今日のことは忘れてあげる。私、優しいでしょう?」

「あ、ありがとう…。菜月」


 俺の体を弄ぶお姉さんは、「んっ…」という恥ずかしい声を漏らして下着の中からゴムを取り出した。


「ねえ…、尚くん…。今夜は一つになりたい」

「……うん」


 俺はこの日常から逃げられるのか…。

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