カリバーン撃墜作戦

 月面の第二都市アルゲースに、撤退したファング第一艦隊が集結していた。

 更に地上から戻って来た第二艦隊も合流している。

 一早く第二艦隊が合流出来たのは、E.G.軍が宇宙センターで宇宙戦艦の打ち上げを行っていた事を知っていた為だ。

 E.G.軍宇宙艦隊に敗北した第一艦隊は、第二艦隊と共同でE.G.軍の侵攻に対抗する事にした。

 イーサン・アークライトは戦艦ルナリアのブリッジで会談の準備を始めた。

 通信が繋がり、モニターにファング第二艦隊の旗艦クラスペディアのブリッジが写った。

 ブリッジのコンソールに腰掛けた不遜な態度の男がいる。


「やっとお出ましかイーサン。早く敗者の顔を拝みたかったぜ!」


 艦長を差し置いてレイモンド・バージェスがイーサンに話しかけてきた。

(何の権限があって発言しているのだ。何故、第二艦隊の兵士はレイモンドを野放しにしているのだ?)


「君に話はない。用事があるのは艦長だ」

「コイツに何の用がある?」


 レイモンドが艦長を指差した。


「艦長に対してコイツとは何だ! 君は立場を理解しているのか?」

「理解しているさ。俺がいなきゃコイツら全員棺桶行きだったさ。こいつらは誰のお陰で今まで生きてこられたか知ってんだよ。長寿の秘訣は俺様だってな!」

「思い上がりだな。君の噂は聞いているが、階級を無視してのさばられては困る」

「のさばるって酷い言い方するね。イーサンが倒せなかった敵のエースを撃墜したのが俺様だって知ってるだろ? 有り難く思ってくれよ」


『敵のエースを撃墜した』その一言がイーサンを苛立たせる。

(アーサーもレイモンドがアランを殺したと言っていた……だが俺にはこの程度の男がアランを殺せるとは思えない)


「卑怯な手でも使ったのだろう?」

「嫉妬ですか、俺様の才能に対して。あのリベレーンのまがい物を撃墜したのが、そんなに気に入らないのかよ」

「気に入らないのは君だよ、レイモンド。君の様な兵士はファングの品位を落とす」

「はぁ、品位ねぇ。戦争に品位なんていらんだろ。勝った方が偉いんだよ。お前が勝てなかった、あの生意気な小僧に俺様は勝ったんだ。アイツの機体の腕と足を一本一本丁寧に消し飛ばして、最後は宇宙センターごとドカーンだ!」

「言いたい事はそれで全てか?」

「全てだが……何が可笑しい?」


 レイモンドの話を聞いて思わず笑みがこぼれる。

 予想外のイーサンの反応を見て、レイモンドが戸惑っている。

 そのようなレイモンドの姿を見て、イーサンは更に笑いが堪えられなくなる。

(正確な説明と、正確ではない説明……君が行った事は正確に把握出来たよ。だとすると、足元をすくわれる可能性も考慮すべきだな)


「私が笑った理由か……君が正直で正確だと分かったからだよ」

「はっ、やっと俺様を認めたか。これからは死のブルースクリーン、レイモンド・バージェスがファングの未来を担う事になるだろう」

「それで、ファングの未来を担うレイモンドは、敵の宇宙艦隊に対してどう戦うのだ?」

「あの銀色は健在なんだろ?」

「銀色、敵の新型機カリバーンの事だな」

「へぇ、あの機体そんな名前だったのか。カリバーンを撃墜すれば敵の艦隊は丸裸同然だ。戦艦の数が多くても、俺様とイーサンの二人なら撃沈し放題だと思うぜ」

「そんな事は分かっている。だが、カリバーンを撃墜する事が不可能に近い。理由は分からないが動きを読まれている」

「認識していない相手の動きは読めないさ。デブリに隠れて奇襲すればいいだけだ。簡単だろ?」

「簡単とは思えないな。デブリに隠れる事は出来るが、隠れたところにカリバーンが来る保証はない」

「なら俺様が保証しよう」

「保証出来る根拠は?」

「忘れたのか? 俺はカリバーンの相棒の坊主をぶっ殺してんだぜ。俺が姿を現したら狂ったように追いかけてくるさ」

「カリバーンのパイロットの気持ちを利用しようというのか?」

「そうだよ! 相手がこちらの心を利用して戦うなら、俺達が逆に利用しても良いだろぉ?」


 イーサンは自身の表情が険しくなるのを感じた。

 冷静に対応しようと不快な気持ちを抑えてきたが、レイモンドの不快な提案に不快感を抑えられなかった。

(カリバーンは撃墜する必要がある。だが、こんな卑怯な作戦を受け入れる必要があるのか?)


「不愉快だな」

「不愉快で正しいんだよ、戦争なんだからさぁ。アークライト家の坊やでも、それくらい理解し始めているだろ?」

「アークライト家は関係ない」

「はいはい失言でした。ところで、俺様の提案はどうよ? やるか? やらねぇか?」

「確かにレイモンドの言う通りカリバーンは出てくるだろう。だが、おびき出す前に怒り狂ったカリバーンに撃墜される可能性もあると思うが」

「心配ないさ。ギルモア博士が開発した『テトラトス』があるんでね」


 レイモンドが出したギルモア博士の名。

 それはレイモンドが裏でアークライト家と繋がりがある事を示している。

(こいつも父の手の者か。『アカミ』所属の第二艦隊にもネイサン・アークライトの影響が及んでいるとは……これが連盟の盟主の力か……)

 今のイーサンに父であるネイサン・アークライトに逆らう力は無い。

 レイモンドの提案が不快であっても、今は従う必要がある。


「新型機か……いいだろう。見せてもらうよ、君の実力を」

「さぁ、狩りを始めよう。赤と青の共演だ!」


 イーサンに提案を受け入れられ、レイモンドが喜びの声を上げた。

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