白銀のシンセシス

 ファング第一艦隊を退けたE.G.軍宇宙艦隊は、月面都市タロース周辺の宙域で待機していた。

 次の目標である月面都市アルゲースへの攻撃準備が整うまでの短い休息。

 アーサーはいつもの様に休息を取らず、格納庫でカリバーンと向き合っていた。

(どうすればアイツらを倒せる? 教えてくれカリバーン? 俺はお前を使いこなせているか?)

 いくらカリバーンに問いかけても、何も答えてはくれない。

 それでもアーサーは独りで問い続ける。

 他に話しかける相手はいない。

 親しかった整備班の皆はアーサーを避けている。

 凛とカーライル中尉はアーサーを気にかけているが、アーサー自身が遠ざけている。


「グリント大尉、G.D.ウエイブVVS2クラス一機検出されています。艦長の指示です、念のために待機して下さい」


 凛から通信が入った。

(何事だ? たかだか一機程度で大げさだな。エースの私が待機する必要があるのか?)


「映像送ります」


 映像に映ったのは青いチャリム。

 ファングの機体の基本色は黒色。

 機体を青く塗装する相手はーー


「レイモンドォー! レイモンド・バージェェェェェス!!」


 アーサーはカリバーンに搭乗してカタパルトに向かった。


「ハッチを開けろ! 出撃する!」

「罠かもしれないので待機を続けて下さい。状況把握が先です」


 出撃しようとしたアーサーをフィオナ艦長が制止する。


「私を止められると思っているのか? ハッチを開けないならこじ開けるぞ! 私は本気だ!!」


 アーサーはトライ・レジェンズをハッチに向けた。


「整備班を巻き込むつもりですか?」

「巻き込みたくないから出撃させろと言っている!」

「仕方がありませんね……整備班は退避! 凛、出撃準備を進めて下さい!」


 整備班の皆が格納庫から慌てて退避を始めた。

 アーサーがハッチをこじ開けてしまったら、宇宙空間に放り出されてしまうからだ。

 全員の退避が完了した後、カリバーンが戦艦フリージアから飛び立った。


「一人で行くな! 危険だ!」


 カーライル中尉のアルダーン・カスタムがカリバーンに続いて出撃してきた。


「危険なのはカーライルだ。私の邪魔をするな!」

「邪魔するさ! お前に死なれちゃ困るんだよ!」

「誰が死ぬって? 私は誰にも負けない!!」


 アーサーはフルスロットルでカーライル中尉のアルダーン・カスタムを振り切った。

 そして後退を始めた青い機体を追いかけた。


「お前はレイモンド・バージェスか?」

「良く分かったな銀色!」


 想像通り、青い機体のパイロットはレイモンド・バージェスだった。

(逃がさない、逃がさないぞレイモンド!)

 月周辺のデブリベルトに逃げ込んだレイモンド機を追いかけ、アーサーもデブリベルトに突入した。

 デブリに視界が塞がれ、青い機体を見失ったが行き先は予測出来ている。

(デブリベルトか……ゴミの影に隠れれば不意打ち出来ると思っているのか? 随分舐められたものだ!)

 突如、背後からG.D.ウエイブの反応が検知された。

(G.D.ジェネレイターを切って潜んでいる事くらい想定内だ。お前だろ? イーサン・アークライト!)

 アーサーはカリバーンを旋回させ、背後から迫るリベレスティンにビームを放った。

 リベレスティンがビームを回避して後退したのを確認した後、振り返りながらソードモードで斬り下ろした。

 背後に迫っていたレイモンド機が、ビームソードを振り上げてトライ・レジェンズを受け止めた。


「それで不意打ちをしたつもりか? 見えていなくても分かる。動きが単調なんだよ!」

「不意打ちした気はないんだけどな」

「負け惜しみか?」

「いや、事実だよ」


 ガツン! カリバーンに衝撃が走った。

(何だ! 誰の攻撃を受けた?! 落ち着け、状況把握だ!)

 アーサーはカリバーンの両腕が、レイモンド機の両腕に掴まれて押さえつけれれている事に気付いた。

 ドゴン! 激しい衝撃がコクピットを襲った。

(殴られた? 両腕でカリバーンを押さえつけているのに何故殴れる……う、腕が4本あるだと!)

 レイモンド機の背部から伸びる腕に押さえつけられ、動きを封じられている。

 隙を見てトライ・レジェンズで反撃しようとしても残りの2本の腕に阻まれる。


「言った通りだろぉ? 不意打ちってのはこういう事だ。イーサン、手柄を譲ってやるから早く始末しろよ」

「君に指示されるのは不愉快だが、友軍の未来の為に止めを刺させて頂く!」


 イーサンのリベレスティンがカリバーンに止めを刺す為に接近する。


「くそぉぉぉぉぉっ! どけよ!」

「どきません。貴方を止めるのが、今回の私の役割です」


 アーサーを追いかけてきたカーライル中尉のアルダーン・カスタムがアーサーを助けようとしたが、アマンダのリベレスティアに阻まれて接近出来ない。

(予想通りリベレスティアも潜んでいたか。カーライルでは対処出来ないだろうな……これで終わりか……私は……僕は……何の為に……)

 アーサーは操縦桿から手を離し、シートにもたれ掛かった。


「カーライル……いやオリヴァーさん。ファングを滅ぼしてくれませんか? ここで死ぬ僕の代わりに!」

「何言ってるんだよぉ! 諦めるなよ、アーサー!」


 カーライル中尉が必死に呼びかけたが、アーサーに出来る事は何もない。


「ははっ、笑えるよ! 何故後退する?! イーサン!!」


 突如飛来した二筋のビームが、カリバーンを押さえつけていたレイモンド機の腕を消し飛ばした。

 イーサンが後退したのは、このビームを避ける為だったのだろう。

 ビームが飛来した方向を確認すると、白銀の戦闘機が猛スピードで接近していた。

(見た事が無い戦闘機……いや、戦闘機ではない!?)

 戦闘機が変形をして人型となった。


「こんのぉー、馬鹿やろぉがああああ!!」


 謎の機体がカリバーンの頭部を蹴り飛ばした。

 激しい衝撃がコクピットを揺らす。

 だが、アーサーにとって蹴り飛ばされた衝撃より、謎の機体のパイロットの声の方が衝撃的だった。


「シンセシスー2! アラン・バークスが戦いを終わらせる!!」


 白銀に輝く機体が暗い宇宙を照らしたーー

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