月面都市開放作戦

 E.G.軍の反攻作戦会議に参加する為、アーサー達は戦艦フリージアのブリーフィングルームに集った。

 これから行うのはファングの侵攻が始まって以降、初めての反攻作戦である。

 失敗は許されない。

 今回の作戦はE.G.軍の最高指揮官であるブレナン大将が参加している。

 当然の事だが大将が総指揮を執る事になった。

 ブレナン大将から作戦の概要が伝えられる。

 作戦に参加する戦力は、戦艦フリージアを含む宇宙戦艦18隻。

 18隻全ての艦船を一人で指揮するのは困難なので、6隻づつに分けて運用する事になった。

 ブレナン大将の旗艦グラムを中心とした第一艦隊。

 パウエル中将の戦艦バルムンクを中心とした第二艦隊。

 そして、フィオナ・エイベル少佐の戦艦フリージアを中心とした第三艦隊である。

 本来であればフィオナ艦長は指揮を執れる立場ではない。

 フィオナ艦長より階級が上の少将や大佐が参加しているからだ。

 だが、今までの戦闘の実績を買われて、上官に代わって第三艦隊の指揮を任されたのだ。

 E.G.軍宇宙艦隊の最初の攻撃目標は月面都市タロースである。

 元々地球との交易で栄えていた都市である故、第一次宇宙戦争時にE.G.側についていた。

 だが、今はブーケ・オブ・ダンデライオンの支配下に置かれている。

 それを不服に思い決起したが、ファング第一艦隊に簡単に制圧されてしまったのだ。

 そして、再び月面都市タロースの市民が決起するのを防ぐ為、ファング第一艦隊が駐留している。

 今回の作戦目的は、この駐留しているファング第一艦隊の排除である。

 E.G.軍の攻撃と同時に、現地の有志による都市奪還作戦も行われる。

 作戦最大の障害は、ファング第一艦隊の英雄イーサン・アークライトである。

 月面都市タロースの市民が決起した時、彼の圧倒的な戦闘能力によって僅か数時間で鎮圧されている。

 ロサンゼルス基地での戦闘時以上に操縦の腕を上げていると推測される。

 だが、脅威は接近戦に秀でたイーサン・アークライトのリベレスティンだけではない。

 副官の専用機リベレスティアの射撃能力も脅威である。

 それでもブレナン大将は圧勝出来ると考えている。

 E.G.軍には圧倒的な戦闘力を発揮し始めたアーサー・グリント大尉がいる。

 そして、アーサーと一緒に戦ってきたオリヴァー・カーライル中尉にも期待が寄せられている。

 ブレナン大将がアーサーに作戦への意見を求めた。

 アーサーは過去にイーサン・アークライトと戦闘を行った経験があり、作戦に参加した兵士の中で最強のパイロットだからだ。

 意見を求められたアーサーは先陣を切る事を提案した。

 イーサンの性格が変わっていないのであれば、彼は必ず先陣を切ってくるからだ。

 このアーサーの提案はブレナン大将に承認された。

 作戦会議を終えたE.G.軍宇宙艦隊は、第三艦隊旗艦フリージアを先頭に月面都市タロースへ侵攻を始めた。

 そして、各部隊のパイロット達はコクピットで待機する事となった。

 アーサーもカリバーンのコクピットの中で待機していた。

(今まで弱くて逃げ続けてた。戦力不足に悩まされてきた。でも今の私なら奴らを滅ぼす事が出来る。カリバーンの本当の力を示せる事が出来るのだ)


「砲撃開始! チャリム部隊出撃して下さい!」

「カタパルトと火器管制システムとのリンク完了。グリント大尉、出撃お願い致します」


 フィオナ艦長と凛から通信が入る。

(いよいよ敵の排除開始だな。私が悲劇の元を断つ)


「アーサー・グリント、カリバーンが敵を殲滅します!」


 アーサーは最大出力でカリバーンを飛行させる。

 敵もこちらに気付いているはずだ。

 イーサンも同じよう最大速度でこちらに向かっているはず。

 副官が追いつき援護を始める前に撃墜出来れば有利に戦闘を進められる。

(アマンダと言ったか……残念だがカーライルにはあの副官を抑えられるだけの実力はないな。アランがいれば……いや、それは弱さだ。いない者にすがるなアーサー・グリント! 私は最強の英雄なんだ!)


 *


「凛ちゃん! 出撃準備はまだか?」


 カーライルは出撃を焦っていた。

 アーサーが無茶をするのが目に見えて分かるからだ。

 最新鋭のカリバーンが最大速度で先行したら、アルダーン・カスタムでは追いつく事は出来ない。

 エースであるカーライル用に改良したカスタム機ではあるが、動力機関は量産機のアルダーンと変わらないからだ。


「もう少し待ってください……準備完了です。カーライル中尉、出撃お願いします!」

「おっしゃあ! オリヴァー・カーライル、アルダーン・カスタム出撃する!」


 カーライルのアルダーン・カスタムが戦艦フリージアから射出された。

(最悪、アーサーと二人で敵に囲まれる可能性があるな。でも、見捨てるって選択はねぇんだよな。せめて、あの副官くらいは止めてみせないとな。俺だって歴戦のエースなんだからさ!)

 カーライルは先行するカリバーンから徐々に距離を離されていたが、諦めずにスラスターを全開にして最大出力で飛行した。

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