死の海中戦
アーサーが出撃した後の格納庫は慌ただしかった。
本来は部隊の半数を潜水装備に換装して、敵の潜水母艦を撃破する予定であった。
だが、アーサーが先行した事で台無しになった。
フリージア隊が既に敵に補足されている以上、悠長に換装している場合ではない。
「仕方がない、俺と部隊の皆でフリージアの護衛につく。アランは敵の潜水母艦を落としてくれ!」
「分かった」
「オリヴァー・カーライル。アルダーン・カスタム出る!」
カーライル中尉が出撃し、中尉に続いてアルダーン部隊が次々に出撃していく。
出撃準備が整っていないアランは、コクピットの中でシンセシスー1が潜水装備に換装されるのを待っていた。
(俺が最後か……様子がおかしかったが、アーサーは無事だろうか?)
アランはアーサーが心配だった。
アーサーの実力は高い。
だが、敵の大部隊に囲まれて生き残れる程に強くはないと思っている。
いくらカリバーンの性能が高いと言っても、所詮はチャリム一機。
敵の集団に囲まれれば、ひとたまりもないだろう。
急いで出撃して援護に向かいたいが、敵の潜水母艦の撃破を任されたから援護には向かえない。
アーサーの搭乗機カリバーンは敵の主力のリベレーンVEより機動性が高いから、無事に逃げられる事を祈るしかない。
「坊主、準備完了だ!」
ウォルフ技師長から通信が入る。
「やっと出撃だな」
アランはシンセシスー1をカタパルトに向かって移動させる。
「潜水装備といっても防水コーティングしただけだ。シンセシスー1は水中用に作られておらん。坊主も理解していると思うが、左右のパーツが違うから機体バランスが悪い。水中での挙動に気をつけろ!」
「気をつけろで何とかなるのか?」
「ならんよ! 自分で対処しろ! 武装データを送るから確認しておけ!」
「了解だウォルフ。凛、出撃するぞ」
アランはカタパルトにシンセシスー1を固定した。
「バークス兵長。出撃お願いします!」
「そう言えば、兵長になったんだな。アラン・バークス。シンセシスー1出撃する!」
シンセシスー1が戦艦フリージアから射出された。
「ミサイル来るぞ! 迎撃しろ! アランの道を切り開け!」
海中から大量のミサイルが打ち上げられたが、カーライル中尉率いるアルダーン部隊と戦艦フリージアのCIWSが撃破した。
戦艦フリージアには爆雷装備がない。
このままでは一方的に攻撃を受けるだけだ。
今回のミサイル攻撃は防げたが、次も防ぎきれるか分からない。
だから急いで敵の潜水母艦を撃墜する必要がある。
アランは海に向かってシンセシスー1を最大加速で飛行させた。
海中に入ると同時にシンセシスー1がきりもみ状態となった。
(くっ、思った以上に厄介だ。機体の向きが分からない?! 計器頼りか!)
アランは計器を確認して機体の向きを修正した。
そして、G.D.ウエイブを確認して敵の潜水母艦の位置を特定した。
(反応はクラスIF1機。敵は潜水母艦のみか。艦載機が全て出払っているのは好都合だ)
敵に水中専用のチャリムが護衛についていたら苦戦していただろう。
だが、戦力の全てをE.G.軍宇宙センターへの攻撃に集中していたようだ。
E.G.軍は地上の防衛で精一杯で、海中まで攻撃してこないと高を括ったのだろう。
ビィーッ!
アラームが鳴り響く。
レーダーが魚雷を感知したのだ。
アランは機体制御を考えず、シンセシスー1を全力で移動させた。
シンセシスー1の右腕はE.G.軍のカリバーン、左腕はファングのリベレーンの部品を使用している。
左右の流体抵抗が異なるから、真っすぐ動く事が出来ないのだ。
蛇行しながら何とか初撃を回避する事に成功した。
(無茶ぶりじゃないか! 魚雷を回避しながら機体制御を見直せって事か!)
アランは『Synthesis ver.1』の修正用コンソールを引き出し、オートバランサーとスラスター出力の左右バランスの調整を始めた。
魚雷を回避しながらのプログラム修正。
それは常に死と隣り合わせであり、自殺行為といえる。
だが、息を吸うようにプログラミング出来るアランにとっては可能な芸当であった。
プログラミングが完了して、シンセシスー1の挙動が安定する。
(さて、ここからは一方的に狩らせてもらう!)
アランはウォルフ技師長が送ってくれた武装データを確認した。
(吸着式のワイヤーアンカーか……ロサンゼルス基地で使ったヤツの改良版だな。武器はヒートドリル!? 建設機械の流用品じゃないか! 射撃武器は無しか)
射撃武器がないので、魚雷を掻い潜って接近戦を仕掛けるしかない。
アランは魚雷に向かってワイヤーアンカーを放って接近した。
そして、魚雷がシンセシスー1の接近を感知して爆発する前に、別の魚雷にワイヤーアンカーを放って移動する。
敵の魚雷とワイヤーアンカーを利用した立体機動。
(そちらは攻撃してるつもりだろうが、俺にとっては勝利への道筋を作ってくれてるだけだ。見えた!)
敵の母艦に直接ワイヤーアンカーを打ち込み、ブリッジに取り付いた。
そして、ヒートドリルをブリッジに突き立てる。
ギュィィィィィン!
ヒートドリルの先、強化ガラスを隔てた所にファングの兵士がいるのが見える。
死を前にして恐怖におののく兵士。
泣き崩れる通信士の女性。
怒鳴り散らす艦長。
チャリム同士での戦闘では相手の顔が見える事は無かった。
だが、今は命を奪う相手が見える……
(俺はこうやって他人の命を奪っていたのだな……済まない。それでも、これが俺達が選んだ人生なんだ……)
ここで見逃せば友軍が同じように死を迎える事になるだろう。
だからーー
シンセシスー1のヒートドリルが潜水母艦のブリッジを貫通したのを確認した後、アランは海上に向かった。
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