アーサーの裏切り

 アランは戦艦フリージアに用意された自室に向かっていた。

 ロサンゼルス基地のE.G.軍に配属となるから荷物の整理を行う必要があるのだ。

 ロイド中将は戦死したが、生前出した指示は有効だった。

 いずれ新型機も手配される事だろう。

 戦艦フリージアの廊下を歩いているとカーライル中尉に声をかけられた。


「アラン、話がある」

「分かった」


 アランはカーライル中尉を自室に招いた。

 カーライル中尉の話はロイド中将についてなのは間違いない。

 それなら、他の兵員に聞かれる訳にはいかない。


「なぁ、何で一人で行動した?」

「一人で行動?」

「諜報部の調査レポートは俺も読んだ。俺も疑いがかけられていたからな。でも、ロイドを撃ったのはアランだよな」

「それで?」

「それでってなんだ! 一歩間違えれば処刑されていたんだぞ!」

「だろうな」

「だろうなって……少年は死んでもいいのかよ」

「良くいは無い。だが、しくじればそういう事もある。それに一人で行動してはいない」

「ウォルフ技師長か……彼も関わっていたのだろう?」

「準備が必要だったからね。笑えるよな。ウォルフは撃墜したリベレーンVEのパーツで作ったシンセシスー1の張りぼてに声をかけ続けてたんだ。アラン、もう少しの辛抱だってな」


 アランは基地帰還後にウォルフ技師長から聞いた話を思い出して笑った。

 技師長の演技のお陰で、アランはシンセシスー1のコクピットに閉じ込められていた事になり、ロイド中将暗殺の嫌疑が掛らなかったのだ。

 だから、アランは堅物の技術者のウォルフ技師長の演技の才能に感謝している。


「笑えねぇよ! お前に全部背負わせちまったんだぞ! どうして俺達を信じてくれなかった?」


 カーライル中尉が叫んだ。

 中尉にとってアラン達が独自行動した事が面白くはなかったからだ。


「何もしないからだろ。奴を討つのに法廷で提出出来る証拠が必要か? 他者を虐げている事実だけで十分だ。奪われたものは戻らない」

「それを何でバークス少年がやる必要があるんだ!」

「出来るからだ。今までもファングの兵士を撃ってきた。相手が友軍であっても変わらない」

「どうして簡単に他人の命を狙えるんだよ!」

「人を殺す為に作られた銃が、命を奪う事をためらうか?」

「少年は銃じゃねぇだろ!」

「俺は初めて人を撃った時から、常に自身の敵に銃口を向けている」

「俺はどうすれば……」


 カーライル中尉が口篭もる。


「何もしなくていい。俺はロサンゼルス基地に配属となる。ここでお別れだ」


 アランはカーライル中尉に別れを告げた。

 これからロサンゼルス基地に配属となり、本格的にファングと戦うのだ。

 ここで、立ち止まっている暇はない。

 アランは少ない荷物をまとめて自室を去ろうとしたが、ドアが開いてアーサーが入室してきた。


「あっ、やっぱり部屋にいたよ。オリヴァーさんも一緒で良かったよ」

「アーサー、何か用か?」

「これが良かったって状況に見えるか?」


 不躾にノックもせずに入室したアーサーに、アランとカーライル中尉は冷たい視線を浴びせる。

 だが、アーサーはそんな冷たい視線も気にしていないようだ。


「取り込み中でしたか?」

「いや、今終わった所だ。俺はロサンゼルス基地に配属になる。世話になったな」

「何言ってるのアラン。まだ聞いてない?」

「何をだ?」

「アランはフリージア隊に配属だよ。明日から僕の部下だ」

「どういう事だアーサー。俺も聞いてないぞ」


 アーサーの話を聞いてカーライル中尉が驚いている。

 アランがフリージア隊に配属する事は、カーライル中尉も知らない事だったようだ。


「質問なら挙手をしてくれないかな、オリヴァー君?」

「おい、一応俺の方が階級が上なんだけどな」

「それがぁ、違うんですよね。今日から僕大尉なんで」


 アーサーが嬉しそうに言った。


「何でアーサーが大尉なんだよ!」

「ロイド中将戦死の責任逃れですよ。失態隠しで英雄が必要になったんです。司令官であるロイド中将が戦死するような激戦の最中、敵新型機を退けたE.G.軍の英雄アーサーのご登場です。僕が大尉になったのは玉突き人事ってやつですね」

「でも、友軍がイーサンを追い込んだのに撃墜出来なかったんだろ? それで英雄扱い出来るのか?」

「無理やり感が強いですよね。ランスモードで薙ぎ払えば撃墜出来るところまでイーサンを追い込んだのに、アランが心配で引き返してしまいましたから。普通なら敵前逃亡で処分されてますよね」

「そこまでは俺も予想してなかったな」

「ありがとうアラン。僕が一人でもイーサンに撃墜されないと信じてくれていたんだろ?」

「友軍のお陰だろ? ところで、俺がフリージア隊に配属というのはどういう事だ?」

「僕の要望です。アランは戦利品替わりです」

「俺を戦利品にするな! 俺は裏切ったんだ! 俺を許せるのか!」


 アランは素直に受け入れられない。

 アランは全てを裏切ったのだ。

 カーライル中尉の信頼を……仲間だと思ってくれていたフリージア隊の皆を……ロイド中将を……


「アランには見事に裏切られましたね。だから僕も裏切ります。見限るだろうというアランの想像をね。僕はアランのやった事気にしませんよ」

「アーサーは良くても他の搭乗員は納得いかないだろう?」

「それなら大丈夫ですよ。みんな笑ってましたよ。お前がアーサーだから裏切られるんだって」

「なんだよそれ……」


 アランは脱力した。

 それは敵を撃つために独りで戦い続けてきたアランにとって、初めての経験だった。

(俺は……ここにいてもいいのか?)


「そういう事で宜しく二人共。今日から僕が君たちの王様だよ」


 堂々と胸を張るアーサーを見て、アランとカーライル中尉は一緒にため息をついたーー

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