裏切りのアラン7

 アランはシンセシスー1を操作して、ファングのスナイパー機が持っていたスナイパーライフルを手に取る。

 普通であればファングの武装はセキュリティが掛っており、使用する事は出来ない。

 だが、シンセシスー1にはE.G.とファング双方の武装を使う事が出来る統合プログラム『Synthesis ver.1』が搭載されている。

 ファング側の武装でも問題なく使用する事が出来るのだ。

 だが、何故か接続出来なかった。

 アランは直ぐに原因を調べた。

 戦況が動けば狙撃のタイミングを逃してしまう。

 友軍が優勢であれば進軍するし、不利であれば撤退してしまう。

 戦闘が始まった初動の段階で決着をつけなければならない。

 アランは焦りながらも、何とか原因をつかんだ。

 入手したスナイパーライフルが新兵器であり、従来の武装のデータベースではアクセス出来なかったのだ。

(登録がないなら、登録すればいいだけだろ!)

 アランはシンセシスー1の端末を操作し、新型スナイパーライフルへのアクセスを始めた。


「アクセス成功! さて、正体を明かしてもらうぞ」


 アランはスナイパーライフルへのアクセスが成功した喜びで、思わず声に出した。

 直ぐにモニターに武装の概要を表示させる。


 対チャリム用狙撃銃『パラサイト』

 使用弾丸:パラサイト

 射程:2,100m


パラサイト寄生虫? 趣味の悪い名前だな。弾薬情報から詳細が分かるか?)

 アランは更に弾薬情報を検索する。


 大気圏用特殊弾丸『パラサイト』

 通常弾とビームのハイブリッド弾丸。

 空力性能に長けた通常弾の後に連結してビームを放つ事で、現状では大気圏内で減衰しやすいビームの弾速を維持する弾薬である。

(なるほど。名前の趣味は悪いが性能は凄いな。これほどの性能の兵器を開発するファングは脅威だが、今は有り難く使わせてもらおう)


 初速、発射角、空気抵抗、弾薬の軸回転、重力……

 アランは狙撃に必要な計算を始めた。

 初めて使用するスナイパーライフルであり、狙撃に必要な実績データはなかったが、通常弾と同様の管理が出来る弾薬である事が有利に働く。

 計算を終えた、アランはスナイパーライフルを虚空に向ける。

 標的のロイド中将は視認出来ない。

 だが、正確な位置情報はシンセシスー1に送られている。

 ロイド中将を守る為と嘘をついて得た情報だ。

 標的の位置情報は正確で、弾道計算も完璧。

 後は引き金を引くだけだ。

(ロイド、戦場で動かない存在は唯の的だよ。友軍に囲まれていても、安全ではないのさ)

 アランは迷わず引き金を引いたーー


『ロイド中将戦死! ロイド中将戦死!! 司令本部は防衛システム、カレイドスコープを展開します。各部隊は各自の判断で行動されたし!』


 友軍司令部から緊急通信が入った。

 通信がアランの行動の成果を肯定する。

 アランが放った弾丸は、正確にロイド中将の機体を貫いたのだ。


「なぁ、ロイド。初めて会った時に言った言葉を覚えているか? 俺が奪った命が未来への糧になる……俺も同じ思いだよ」


 狙撃を終えたスナイパーが同じ場所に留まる事はない。

 アランはの追撃を避ける為、北西の山岳地帯へ向かった。


 *


 E.G.諜報部の調査レポート


『ロイド中将の戦死について』


 1.目的

 表題について、ロイド中将が正確に狙撃された事に疑義がかかり、E.G.諜報部で調査を行う事となった。


 2.調査結果

 ・容疑者の調査について

 ロイド中将の手記から、中将の暗殺を企てる可能性がある以下の3名について調査を行った。

 ①オリヴァー・カーライル中尉

 出撃前に独房に収監されており、暗殺の実行は不可能である。

 ②フィオナ・エイベル少佐

 ロイド中将の搭乗機の前方に位置する戦艦フリージアに搭乗していた為、暗殺の実行は不可能である。

 ③アーサー・グリント准尉

 最前線で敵新型機と交戦しており、暗殺の実行は不可能である。


 不審な行動をとったアラン・バークスについても追加調査を行った。

 アランはロサンゼルス基地帰還後、動作不良を起こした搭乗機のシンセシスー1に閉じ込められている。

 ウォルフ技師長と整備員が救出作業を行っていた事が確認されている。

 又、ロイド中将狙撃直後にバリアーシステム、カレイドスコープを起動している。

 仮にアランが実行犯であっても、狙撃後に帰還する事は不可能であることから、暗殺の実行は不可能である。


 ・狙撃ポイントの調査について

 弾道から計算して狙撃ポイントを捜索した所、ファングの新型スナイパーライフルを発見した。

 諜報部で使用を試みたが起動は叶わなかった。

 この新型スナイパーライフルは、E.G.のチャリムでは使用出来ない兵器と断定する。


 3.結論

 上記調査結果より、ロイド中将の死はファングによる狙撃が原因であり、事件性はないものと判断する。

 気になる点として、狙撃ポイントである山岳地帯に不可解なアンカーの痕があったが、既に死因は特定されており、事件性はないと考える。


 以上。

 諜報部 ライリー・アーチボルト

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