裏切りのアラン1
「ところで、嬢ちゃんはよく食べるね」
カーライル中尉は、黙々と一人でタルタルステーキを頬張る凛に問いかけた。
「料理の説明は下らなかったけど、料理自体は美味しいわよ。赤ワインもきっと美味しいんだろうな。私は飲めないけど」
「嬢……凛は俺の過去やロイド中将との因縁は気にしないんだな」
「気にしないわ。ロイド中将は印象が悪いから敵。カーライル中尉は知り合いだから仲間。それでいいじゃない?」
「俺が嘘をついているとは思わないのか?」
「その可能性はあるけど、カーライル中尉が正しいって証拠があるわ」
「俺には心当たりがねぇな……」
「フィオナ艦長とアーサーよっ!」
凛がフィオナ艦長とアーサーを指差す。
(あぁ、今の俺には身の潔白を証明してくれる仲間がいるんだな……それなら全て伝えないとな。俺の仲間達に……)
カーライル中尉は事情説明を待つ、戦艦フリージアの搭乗員達に過去を語り始めた。
*
3年前。
カーライル大尉はオーストラリア大陸で反政府組織の殲滅の任務についていた。
当時は自分で言うのも恥ずかしいくらい女性にだらしなかった。
任務で立ち寄った行く先々で恋人を作る『恋多き男』。
それが、周囲の仲間からの評価だった。
今回の任務でも新しい恋人を作るはずだった。
だが、それは叶わなかった。
街で声をかけた相手が、翌日に自殺したからだ。
何故彼女は死んだのか?
理由を探るうちに、自分が所属する部隊の悪評を知った。
カーライル大尉が所属する部隊は、略奪を行い、武力で住民を従わせていたのだ。
彼らが行った行為は軍規違反である。
部隊の仲間を問い詰めたが、帰って来た答えは不本意であった。
「お前も同じだろ。今までだって、銃で脅して女を従わせてたんだろ? 今回のお相手は、先に死なれちまったみたいだけどな!」
カーライル大尉は呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。
彼女は純潔を守る為に自ら死を選んだのだ。
カーライル大尉は知らなかった。
声をかけただけで命を絶たれるくらいに、住民達から忌み嫌われていた事を。
今まで付き合ってきた相手はどうだったのだろう……
笑顔の裏で、恐怖を抑えて、カーライル大尉の機嫌を取っていただけだったのかもしれない。
(俺は……俺は? 俺はあああああっ!!)
カーライル大尉は衝動的に引き金を引き、そのまま部隊の仲間11人を殺害した。
その後、カーライル大尉は捉えられ、軍法会議にかけられた。
友軍の虐殺……極刑は免れない。
でも、それでも良いと思った。
今まで傷つけたきた人々を思えば当然の結末。
誰も弁護する人はいないと思われたが、カーライル大尉を擁護する人物が現れた。
それが、E.G.のオーストラリア方面軍の指揮官であり、上司であるフィオナ・エイベル大佐であった。
彼女は部隊が行った悪逆非道な行いの証拠を集め、カーライル大尉の弁護をしたのだ。
エイベル大佐のお陰で極刑は免れた。
だが、それでも友軍殺しの罪は消えない。
カーライル大尉は囚人部隊の一員として戦場に送られたのだ。
大尉が囚人部隊として戦場を巡っている間、フィオナは婚約者であるロイド少将を詰問していた。
E.G.の部隊が略奪等の不法行為を行っている背後に、ロイド少将がいる可能性が高いと知ったからだ。
だが証拠はなく、逆に名誉棄損で訴えられそうになったが、フィオナの父が勝手に示談を進めた。
軍の中枢から排除したいと思うロイド少将と、戦地から娘を遠ざけたいというフィオナの父の思惑が一致したからだ。
証拠がない状況でロイド少将と法廷で戦っても負ける。
そう思ったフィオナは示談を受け入れ、デトロイトの新兵器のテスト部隊に左遷されると同時に少佐に降格となった。
そして、刑期を終えたカーライルをテスト部隊の隊長として迎え入れたのだ。
*
「そんな訳で俺が全て悪いんだ。ロイドが中将に昇進して基地司令になっていたせいで皆を巻き込んだ。申し訳ない」
カーライル中尉は皆に頭を下げた。
部隊の皆がカーライル中尉は悪くない、一緒にロイド中将に立ち向かおうと声をかけてくれる。
皆がカーライル中尉は悪くないと信じてくれたのだろう。
だがーー
「それで? どう対処するんだ?」
アランが冷たく言い放つ。
「皆には迷惑をかけないようにする。俺がアイツの靴を舐めてでも何とかするからさ」
「お前には失望した」
アラン食堂の出口に向かって歩き始めた。
(失望? 俺にか? アランは俺に何を望んだ? 分からない……)
「アラン、どこに行くんだ?」
「ロイド中将と話をする約束をした。俺は中将の部隊に参加する」
アランが食堂を出て行った。
(今の話を聞いてどうしてロイドの部隊に参加するって言えるんだよ! 俺のせいなのか……俺の手が血にまみれているからなのか……)
仲間だと思っていたアランに裏切られ、カーライル中尉は失意に沈んだーー
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