トウモロコシと風車とソーラーパネル6
「さて、そろそろ帰宅しますか、お二人さん!」
カーライル中尉が気楽な声で退却を指示する。
「簡単に言ってくれる! こちらはかなり消耗している。退却する余裕はない」
「そう焦るなって、バークス少年。余裕をなくすと、命もなくすんだぜ!」
「オリヴァーさん。僕も攻撃を避けるので精一杯で、退却する余裕はないですよ。アランがサポートしてくれなきゃ、今もミサイルと鬼ごっこ中ですよ!」
「それは楽しそうだなっ」
カーライル機が迫りくる銃弾を器用に回避した。
「しぶといな緑の奴! お前は落とす! このイーサン・アークライトがっ!」
カーライル機に向かって突撃してくるイーサン機。
アーサーがトライ・レジェンズのアローモードで狙撃して進路を阻む。
イーサン機が、トライ・レジェンズの高出力ビームの帯を縫うように避けながら、マシンガンで反撃をした。
ガガガガガン!
アランが大型シールドで銃弾の雨を防ぎ切る。
「のんきに話している余裕はないぞ!」
アランは追撃を防ぐ為にマシンガンを乱射すると同時に、イーサン機後方のリベレーンVEを警戒する。
先ほどミサイルを放ち、砲撃でシンセシスー1にダメージを与えた機体が、デトロイトで戦った副官機だろう。
出来れば砲撃を阻止する為に攻撃しておきたいが射程範囲外だった。
長射程武器を装備している相手から、一方的に攻撃を受ける状況。
アランにはどうする事も出来なかったが、治安維持部隊のティガー・ロウが副官機に対して攻撃を始めた。
砲撃主体の装備で重鈍そうだから倒せると考えたのだろう。
だが、あっさりと副官機に攻撃をかわされ、逆に砲弾を打ち込まれ爆散した。
装甲が飛び散り、付近のソーラーパネルをズタズタに引き裂く。
仲間が一撃で破壊されたのを見て、別の機体が風車の影に隠れたが、副官機が放った砲弾によって無情にも風車ごと機体を貫かれた。
治安維持部隊が注意を逸らした事で、アラン達は攻撃を受けなかったが、このまま友軍機が減っていけば敵機に包囲されてしまう。
このままでは退路を断たれてしまうだろう。
「もう限界ですよオリヴァーさん! この状況を挽回出来る秘策はあるんですか?」
アーサーが叫ぶ。
援軍は期待出来ない、明らかな戦力不足だ。
「秘策はないさ! でも俺ってピンチの時は赤い配線を切るタイプなんだよね」
(爆弾解除の話かよ!)
アランは心の中で悪態をついた。
カーライル中尉らしい比喩表現だが、一言で言えば目の前のイーサン機を撃墜しろという意味だ。
今度こそイーサン機を撃墜しなければ生き残れないのだ。
「あいつは僕が落とすっ! アラン、頼む!」
アーサーがイーサン機を撃墜する事を宣言した。
今はその言葉を信じるしかない。
そして、アーサーは「頼む!」と言ったのだ。
頼むと言いながら、具体的な依頼をしていない。
言葉にしなくても分かるだろうという全幅の信頼。
「やってやるよ!」
ブシャッ!
アランは脚部のフレアを全弾イーサン機の後方に射出した。
赤く輝く光の帯がイーサンの後方の視界を塞いだ。
目的は二つ。
一つ目は、イーサン機の後方にいる敵副官機の視界を塞ぐ事で、ミサイルと砲撃の援護を一時的に止める事。
二つ目は、本来ミサイル迎撃に使用するフレアを、何もない空間に射出する想定外の行動で、一時的にイーサンの気を反らす事だ。
「なっ、暴発か?」
イーサンが戸惑いの声を上げた。
(イーサン、それがお前の最後の言葉だ!)
アランの思いに呼応するように、アーサー機がイーサン機の背後のスラスターを切り裂いた。
推力を失って落下するイーサン機の下方からカーライル機が接近する。
ビームマシンガンから放たれるビームの帯が、イーサンのリベレーンVEの装甲を抉る。
「お別れだ! 赤い坊や!!」
カーライル中尉のアルダーン・カスタムがビームソードを突き出す。
だが、ビームソードが貫く前に爆発が起き、イーサン機が後方に吹き飛んだ。
そして、白煙を上げながらフレアが作り出す赤い光の中に消えていった。
(自機の脚部ミサイルを撃って自爆することで逃れたか)
アランは直ぐにイーサンが危機を脱した方法に気づいた。
「さくっと撤退するぞ!」
カーライル中尉の指示で直ぐに撤退を始めた。
追撃すれば戦闘継続が困難なイーサン機を確実に撃墜出来たが、敵機に囲まれ自分達も撃墜される恐れがあった。
だから、元々の予定通り撤退するのは正しい判断であった。
*
戦闘が終了して、通信士の仕事を終えた凛は、窓から景色を眺めながらアラン達を待っていた。
アラン達は既に戦艦フリージアに着艦している。
予定通り、敵の追撃部隊の注意を引きつける事に成功したのだ。
これで敵戦艦がフリージアを追ってくれれば、市民が直接戦闘に巻き込まれる可能性は大幅に減少するだろう。
だが、美しかったトウモロコシ畑と風車とソーラーパネルは甚大な被害を受けていた。
今後、アイオワ州は深刻なエネルギー不足となるだろう。
凛は来た時とは違う悲しい気持ちで、眼下の風景を眺めていた。
「動物さん達大丈夫かな……」
凛は会いに行けなかった動物園の動物達を案じて呟いた。
深刻なエネルギー不足となったら、真っ先に切り捨てられるかもしれない。
(人は残酷だから……)
みにゅ〜ん。
”みぃちゃん”が凛を慰めるように鳴いた。
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