トウモロコシと風車とソーラーパネル5
アランはウォルフ技師長から送られた、シンセシス−1の追加装備を確認する。
武装は短射程のマシンガンと、肩部のミサイル迎撃用のバルカン。
次にシンセシス−1を覆う武器以外の追加装備を確認する。
上腕部のチャフ、脚部のフレア、全身を覆う
更に大型シールドまで装備している。
電波障害を起こしてレーダーミサイルの誘導を妨害するチャフ。
熱源を発生させて赤外線探知誘導ミサイルの誘導を妨害するフレア。
ミサイルを迎撃する肩部バルカン。
連射が利くマシンガンもミサイル迎撃に役立つだろう。
全身を覆う
過剰といえるミサイル対策と砲撃対策。
そこから導き出されるのは通常弾による戦闘。
ウォルフ技師長は、今まで対艦用のビーム兵器をメインで使用していたファングが、武装を通常弾やミサイルに切り替えていると想定しているという事だ。
確かにアランは前回の戦闘で、チャリム同士の白兵戦で通常弾の有用性を示した。
だが、その1回の戦闘の経験で、ファングが全面的に武装を変更するとは思えない。
(ウォルフ技師長を信用しすぎたか? でも今から武装変更は出来ない。手持ちの装備で出来るだけやってみせるしかないな)
アランは引き返さず、そのままE.G.の治安維持部隊が戦闘している空域に向かう事にした。
最悪の事態となっても、今回の追加武装の大半は切り離し可能だ。
敵機に囲まれて機動性が必要になったら使い切って廃棄すれば良い。
最適ではなくても、最悪にはならない。
アランはウォルフ技師長から送られた武装データを閉じて、先行するカーライル機とアーサー機を追った。
*
ダベンポート西部ではファングの戦艦とE.G.の治安維持部隊の戦闘が続いていた。
直ぐに全滅すると思っていた治安維持部隊のティガー・ロウは風車やソーラーパネルの影に隠れながら攻撃を継続してる。
弾け飛んだソーラーパネル、へし折られた風車、焼けただれるトウモロコシ畑……
アイオワ州に来たときに空から眺めた美しい景色は見る影もなかった。
(何をやってるんだE.G.は!)
アランは激怒した。
治安維持部隊は善戦しているように見える。
だが、実際はファングに損害を与えられておらず、発電施設を失い続けているだけだ。
このまま戦闘が続けば、ライフラインに多大な影響を与えてしまう。
ただでさえ、前大戦時のスペースデブリの影響で、太陽光発電が制限されているのだ。
これ以上損失が出れば、市民の生活に影響が出る。
「敵を引きつける為に戦艦に突撃します!」
先行しているアーサーが、カリバーンのスラスターを全開にして敵艦に突撃する。
「待っていたぞ、銀色!」
赤く塗装された指揮官専用のリベレーンVEがカリバーンの行く手を遮り、ビームソードを振り下ろした。
アーサーはカリバーンのトライ・レジェンズをソードモードに切り替えて切結ぶ。
アーサーとイーサンの二人が、飛び交いながら激しく刃を交えている。
カーライル中尉はアーサーが囲まれないように、周囲の敵機に攻撃を始めた。
撤退支援を任されたアランは、援護のチャンスを伺いながら周囲を警戒した。
敵はイーサン率いる第一艦隊で間違いはない。
それなら例の副官も近くにいるはずだ。
突如、イーサン機が後退したと同時に、後方に控えていたリベレーンVEが脚部からミサイルを発射した。
合計10発の内、5発がアーサー機を追尾、5発がアラン機に向かってきた。
(俺より近くにいたカーライル機を追わない……レーダー追尾型か!)
アランは追尾するミサイルの挙動から、レーダー追尾型のミサイルと判断した。
カリバーンとシンセシスー1だけを追尾するという事は、2機だけに搭載されているVVS2グレードのG.D.ジェネレイター固有の電磁波を探知して追尾しているという事だからだ。
シュバッ! ヴゥゥゥゥン!!
アランは上腕部のチャフを放ち、アーサー機を追尾するミサイルを妨害すると同時に、肩部のバルカンで自機を追尾するミサイルを迎撃した。
ミサイルの迎撃には成功したが、爆炎でイーサン機を見失う。
(爆炎が晴れたら撃ち落としてやる!)
だが、爆炎が消える前に無数の砲弾が白煙を突き破って来た。
アランは機体を制御して回避しようとしたが、砲弾の数が多く避けきれなかった。
ドン!
シンセシスー1に砲弾が着弾したと同時に、
装甲内部の爆薬が炸裂し、外部装甲ごと砲弾を吹き飛ばした。
アランはウォルフ技師長の戦況予測の正確さと準備の良さに感謝すると同時に、イーサンの対応能力の的確さに苛立ちを覚えた。
こちら側だけが高性能機を使用している事を逆手に取る戦術。
僚機との的確な連携。
敵と通信して情報を流出させる甘さがあるが、E.G.側の指揮官より明らかに有能だ。
(どうするんだカーライル中尉? なんとかしろよアーサー!)
今アランが頼れるのは、カーライル中尉とアーサーの二人だけしかいないーー
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