駆けろ! デッド・チェイス!!

八雲 鏡華

第1話 主人公は死んでしまった!

 この物語の主人公。平凡なサラリーマンだった芦早 あしはや しゅんはこれまでの生涯しょうがい、勢いのまま生きてきた。そして今、その勢いのまま事故に遭ってその生涯を閉じようとしていた。

 信号無視の車にかれ、ズタボロとなった芦早の体は野次馬に見守られながら救急隊員に運ばれていく。その様子を霊体となった芦早は近くでの当たりにしていた。


「うおおお! なんてこった! 俺は死んでしまったのか!?」


 芦早が狼狽うろたえていると、黒いローブをその身にまとった人物が近づいてきた。その人物は芦早の間近に来るとローブのフードを外す。

 その中からふんわりとした白銀長髪の紅目の少女の顔が現れた。その銀髪が風になびきキラキラと輝いている。


 「あなたが芦早 俊さんですね? 私はこの地区担当の死神、アズラです。この度の不幸な事故、お悔やみ申し上げます。早速ですが芦早さんの今後についての説明を……」


 いきなりペラペラとまくし立てるように話す少女、アズラに芦早は面を食らったようにポカンと口を開けていたが、ハッとしてアズラの話に割り込んだ。

  

  「死神だって!? キミがあの魂を奪う死神なのか!?」


  「そうだと言ってるじゃないですか。それに人聞きの悪いことを言わないで下さい。私たちは死者が霊界でしっかりと暮らすことができるようにサポートしているだけです。最近は人間がやたら増えた影響か死者もその分増えて忙しいんですから素直に従って下さい」


「つまり俺はこのまま霊界に連れていかれるってことかい?」


「少し語弊ごへいはありますけど間違ってはいませんね。とにかく芦早さんはこれから霊界への移住手続きや転生申請などをやって頂かなければならないので大人しく着いてきてください。お通夜やお葬式の際には一時帰宅も許されるので心配しなくても大丈夫ですよ」


「う、うおおおお!」


「なっ……!? い、いきなりなんですか!」


 突然、大声を出した芦早にアズラは思わず驚いて飛び跳ねる。


「ということはこのままでは俺は本当に死んでしまうって事じゃないか!」


「いや、だからもう死んでいるんですけども」


「俺にはまだやるべきことが……特になにか思いつく訳でもないがとにかくまだ死ぬわけにはいかない! だから大人しく捕まってやることはできないな! さらばだ!」


 勢いのまま生きてきた男は死んでもなお、勢いのままに死の運命から逃れるべくして、いきなり大袈裟おおげさなリアクションで騒ぎ始めた芦早を呆然と見つめていたアズラの目の前から逃げ出した。アズラがハッと正気に戻ったときには既に芦早は小学生の頃から自慢だったその脚力をもってして遥か遠くの方まで既に逃げてしまっていた。


「ちょ……ちょっとー!? く、くそ! まさか逃げ出すなんて……このままでは私のエリートな職歴に傷が……! は、早く追いかけないと!」


 黒いローブを脱ぎ棄て、黒基調の軍服ワンピースのような制服があらわになったアズラは死神としての責務、自分の職歴を守る為に慌てて芦早を追いかける。こうして、芦早 俊による死に抗う逃避行とうひこうが幕を上げたのであった。

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