第2話 母上様
それから少女は数日間に渡ってゴブリン王からの凌辱を受けた。
しかし、それが彼女にとって最悪の不幸だったのかといえば、彼女自身にもよくわからずにいた。
何故なら、その行為中彼女の意識は混沌としてしまい、本能的な欲求に全身が支配されていたからだ。
全てが夢うつつのようで、彼女が正常な意識を取り戻した際にも自分がゴブリン王に何をされたのか、詳細を思い出すことが出来ない。
皮肉な事に、前世で片思いをしていた、憧れの異性と愛し合っていたような、そんな錯覚に、少女はそこはかとなく満足感すら感じていた。
童話のマッチ売りの少女が見た幻想のような、廃坑の闇に現れた幻のようにも感じる。
半面、自分が人間ではない何かに凌辱を受けているのだと、理性はそれを認識している。
その事に恐ろしさもある。
しかし、闇の中で彼女がとれる選択肢は現状保留しかなかった。
自分は未だに全裸のままで、身を守る術もなく、靴もなければ大森林を走破出来るとは到底思えなかった。
そもそもこの暗い廃坑から無事に抜け出せる根拠が全くない。廃坑の地図も明かりも持っていない。
運よく廃坑を抜け出したところで自分が目覚めた森林がどのような場所で何処に向かえば人里に出るのか、そもそも人が通る街道が実在するかも分からない。
目覚めて直ぐに自分は映画に出てくる小鬼、ゴブリンみたいな奴に囲まれて拉致されてきた。森林には彼ら以外にも危険な存在が多く存在するかもしれない。
そもそも人間の村がこの世界に存在する確証も無い。
仮に存在して辿り着けたとして全裸の女が異世界の言葉で話しかけたところでどういう顛末になるかは全く予想がつかない。
少女は悩んだ末に現状保留を受け入れていたのだが、それを推す根拠がもう一つあった。
少女はゴブリン王の配下達にゴブリン王の妃として歓待を受けていたのだ。
もちろん歓待といっても、原始的な生活を営むゴブリン達のそれは人間社会のそれとは程遠い。
全ては暗闇の中ではあったが、食事と排泄、湯あみと睡眠に関して、少女はゴブリン達に出来る最大限の配慮を得ていた。
特に食事は意外なほどに美味しいものだった。
地球のそれとは異なるはずだが、パンとミルク、野菜に焼いた卵、焼き魚、甘い果実等が少女に与えられた。
少女は初めてゴブリン達からの食事を得た時、あまりの美味しさにボロボロと泣いた。
何故自分が泣いているのか、少女自身にも良くわからなかった。
暗闇の中で少女は時間の経過について全く分からずにいた。
体内時計を信じれば十日程経過したと彼女は感じている。
唐突にゴブリン王は少女への日参を辞めた。
彼女は見る事が出来なかったが。彼女の前に祭壇らしきものがしつられて、
おそらく司祭のようなゴブリンが、彼女の前で訳の分からない詠唱を行った。
そんな事があってから、僅かに一か月で処女は妊娠、出産を経験した。
人間の子供であれば一か月で出産など絶対に有り得ない。
実際彼女の産んだゴブリンは野球の硬球ほどの大きさしかなかった。
頭部だけで言えばピンポン玉より少し大きいくらいか。
取り上げられた赤子は、彼女から隔離されてゴブリン達が育てているようだった。
出産から更に十日程が経過した頃、ゴブリン王の日参が再開された。
彼女はふいに女王蟻という存在をイメージした。
迷路のようなアリの巣の最奥にいて、ひたすら出産を続けるそれである。
やがてゴブリン王は麻薬成分を含んだ体液を放出し、彼女は甘い幻覚に逃避する。
少女が前世に片思いをしていたのは、高校の担任教諭だった。
彼には妻子がいたので、彼女は自重して自分の思いを彼に伝える事はしなかった。
しかし、彼女にとって彼は理想の男性そのものと思われた。
彼以外と結ばれないとするなら、それは所詮妥協の人生ではないか。
妥協の人生に生きる価値があるのだろうかと、彼女は真剣に思いつめた。
幻想の中で、彼女はゴブリン王の存在を積極的に受け入れるようになっていた。
その瞬間彼女は前世のあの頃に戻り、憧れた彼の方から積極的に愛され、思いの全てが深い快感と喜びと共に満たされるのだ。
更にひと月が経過した。
少女は二度目の妊娠を予想していたが、何故か妊娠せずにゴブリン王の日参が続いていた。
その日も彼女はゴブリン王を受け入れ、幻想の夢に落ちようとしていた。
突然、重い衝撃音が聞こえ、ゴブリン王が自身に倒れこんできた。
「ひっ!!」
彼女は驚いてゴブリン王を起こそうとしたが、どうやらゴブリン王の身体には頭が付いていなかった。
首から血が吹き上がり、少女の身体を温かく濡らしていく。
闇の中で見えなかった事が彼女には幸いし、かろうじて気を失わずに済んでいた。
しかし、恐ろしい状況に変わりはない。
誰かがゴブリン王の首を跳ねたのだ。
そしてその誰かがまだそこにいる。
その者の息づかいを感じている。
やがてその者が言葉を発した。
「お久しぶりです、母上様。
ゴブリンですからまだ名前を持っておりませんが、私は母上様の息子に間違いありません。
私の父がどうしても母上様を解放しないというので、今回止む無く強硬手段を取りました」
少女は二つの事に驚愕した。
一つは、彼が自分の息子と名乗り上げた事、
もう一つは、彼が日本語で話しかけてきた事だ。
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