ハワードは手数料0円で500円分から、Anazonギフト券に交換できるようになりました。
きの
第1話 ハワードは手数料0円で500円分から、Anazonギフト券に交換できるようになりました。1
俺の名はハワード。
しがない武具職人だ。
武具職人は俺の祖父が始めた家業で、ここリルマサの街においては実はあまり重宝されていない。
地理的な要因から戦闘の少ないのどかな田舎街リルマサ。
ここで武具職人を名乗っている人を見かけたならそれはあくまで自称であって、他称としては農具屋の名で呼ばれていることだろう。
少しこの家業の来歴の話を聞いてくれるだろうか。
もともとここ、リルマサの郊外で農夫を営んでいた我が一族だが、どこまで働いても裕福とは無縁の暮らしの続く生活に嫌気がさして祖父が実家を飛び出したのが今から約70年ほど前のことだと聞いている。
その後祖父は冒険者の街トーランにて武具職人に弟子入り、みるみる頭角を表し、30代の頃には独立して現在の店をはじめたらしい。
ではなぜその孫であり跡継ぎの俺がトーランではなくこんな需要の少ない祖父の地元で店をしているのかというと、家内騒動の果に放逐されたからにほかならない。
ことの発端は祖父の愛郷心だった。
少年の頃に家を飛び出した祖父は、その後の実家のことを憂いていたこともあり、俺たち3兄弟のうち一人に実家の土地と代々の土地を守らせると言い出したわけだ。
この頃には彼の父母――俺の祖父母も天に召されており、今更土地を守ることになんの意味があるのかと外野は思うわけだが、当人にはそうしなければならい理屈があったのだろう。
それでも最も武具作りの腕が良かった俺はそれを半ば対岸の火事のように見ていた。
なにせ祖父は実力主義であり、順当に行けば次男ながら俺が店を継ぐというのはほとんど確定事項のように見えていたからだ。
ところが蓋を開けてみれば店を継いだのは、一体誰から生まれたのかと思うくらい奸計に長けた兄だった。
昔から理屈っぽい兄とは反りが合わず親しくはなかったがこんなことになるとは思いもしなかったというのが正直なところだ。
今思えば俺は心の何処かで自分より技術の劣る兄を蔑み、兄もそれを感じていたのかもしれない。
兄は言葉巧みに外堀を埋めて、「これからは実際の腕よりも商才が重要、腕のいい職人はいくらでも雇える」などと祖父にまで取り入ったかと思うと、あれよあれよという間に俺は降格させられて期日までの数年を雀の涙ほどの給料で馬車馬のごとく働かせれ、気がつけばダルゴス武具店リルマサ支店長の椅子に座らされていたというわけだ。
特別跡継ぎに執着もなかった俺はトーランで汗みずくになって働かされることを思えばとばかりに言われるがままにのこのこ兄の指示に従って祖父の地元へとやってきて、こうしてのどかに鳥のさえずる朝を迎えている。
「さーて、今日はどうなるんでしょうねー?」
簡素な朝食を済ませた俺は店のカウンターに座り、武器よりも農具を携行している人の多い往来を見ながら開店前の朝の日課である発注書のチェックを開始する。
曲がった備中鍬の修繕
包丁の柄の付替え
素材の買取依頼
ベルトのなめし
素材の買取依頼
穴の空いた靴の修繕
鞄の作成
素材の買取依頼
素材の買取依頼
「お、鞄の作成依頼じゃないか!ここじゃこんな大口の依頼滅多ないないからな……一体誰だ?」
小さな町だ、名前を聞けばだいたい誰だかわかる。しかしそこに書かれていたのは見覚えのない名前。
「ジョー・ゲンセンか、聞かない名前だな。まさか街に冒険者でも来てるんだろうか?といっても、このあたりじゃ狩人で足りてるから冒険者の仕事なんてあんまりないと思うけど……それに、旅先で鞄なんて買うかね?」
冷やかしという線も十分考えられるが、根っからの制作好きである俺は大して深くは考えなかった。冷やかしで買い手が現れなかったなら店に並べればいいだけだ。
何せここでの生活における俺の主な不満は制作依頼がないことだ。
武器防具とまでは言わない。せめて修理ででなく制作の依頼をくれ。そんな心の叫びをおくびにも出さず日々の仕事をこなす他俺には道がない。
かくなる上は独立もやむなしとは思うものの、さすがに祖父の健在なうちはこの店を守るための持参金を持たせてくれた彼に後ろ足で砂をかける訳にはいかないだろう。
「それより問題はこっちだな」
お気づきの通り大半を占めるは買い取りの依頼だ。
事前の発注でこれだけあるのだから店を開けても販売より買取品の持ち込みのほうが多いくらいだ。
この街は街園近くに森があり狩人が一定数いるのだが、その素材を買い取って加工する店というのが圧倒的に少ない。
そんなわけでいくら買い叩いても持ち込みは減りそうになく、不良在庫ばかりが溜まっていく現状。
「彼らの生活を考えると買ってやらないわけにもいかないんだよな。まあ、少しずつでも制作の材料になるわけだし、現状維持だな。さて、昼からは例の客も来ることだし、依頼をできるだけこなしていくか」
そんな独り言をこぼすのも現状の危機感からだったりする。
朝は簡素な食事、夜は芋のスープとパンを少し、昼は抜き。こんな貧困生活を送っているのも、このままのペースで買い取りを続ければ数ヶ月もしないうちに店が破綻するのが目に見えているからだ。
だからといって解決策もないので目の前の仕事をこなす。
なんとか朝のうちに3つの依頼を終わらせて、昼休憩から戻ったところにちょうど一人の男が現れた。
ちなみに午前中、依頼をこなしながら対応した来店客は2人。どちらも買取依頼だった。
さすがにそろそろこちらも何か買ってくれる人に来ていただきたい。
男は商品には見向きもせずカウンターまで来ると、何か口にしたが聞いたことのない言葉だ。
外国人になど会ったことのない俺は当然理解できない。
「すいません、外国の方ですか?ちょっと何言ってるのか……」
返答したところで通じないのだが、何も言わないわけにもいかず身振りを交えながら話してみる。
どうやら男は言葉が通じないことには理解を示したようで、それならとばかりにバッグからなにやら取り出してカウンターにドサリと置いた。
見たことのないような真っ白な革だ。
「ま、まさかこれを買い取れって?これ一体何の革……、ちょっと値段が」
当惑する俺だが言葉が通じないので詳細も確認できない。
どうしたものかとあたふたしていると、男は机に散乱していた紙を一枚拾い上げてこちらに示す。
例の依頼だ。
「もしかしてこの依頼の人ですか!?ということは、持ち込み素材!?」
男は静かにうなずくと、依頼書のはしになにやら日付を書き足して店を出ていった。
●
それから数日。
鞄は無事完成し、あとは引き取りを待つだけだ。
「白い皮を汚さないように処理するのは神経を使ったけど、加工自体はそれほど難しくなくてよかった。ただ惜しむらくは一番大きい革の真ん中に汚れが…」
サイズの関係で一番大きい革はフタ部分に使わざるを得ない。つまり、最も目立つ部分に汚れがきてしまう。
もちろんこちらの落ち度ではなく初めからあった汚れなので仕方がないが、職人としては素材が真っ白なだけに残念でならない。
形としてはセカンドバックのような大きさと形状。金具を除けば真っ白の表面に装飾は少なめで側面にポケットがあるだけだ。
そこに黄色い線状のキズ…汚れだろうか。それからその横に黒いシミが並んでる。
もちろん落とそうとしたが、汚れ落とし用の薬剤を使っても全く落ちる気配がなく、下手なことをして傷つけてしまっては元も子もないので諦めた。
そしてそれからさらに数ヶ月。
男――依頼主のジョーからは便りの一つもない。
「間違いない。間違いなく冷やかしだ……。やられたな、こんな珍しい素材持ち込むくらいだから払いには期待してたんだが」
我が家の家計はいよいよ限界を迎えていて、今月からは買い取りも断っている状態。期待の分ショックもひとしおというものだ。
さすがにこれだけ放置して今更取りに来るはずがない。残念だがこの鞄も他と一緒に陳列棚に並べるしかない。
珍しいものだが値段を上げたところでどうせ売れないので普通の鞄と同程度の値段をつけることになるだろう。
「いや、まてよ。素材は持ち込みなわけだから、実質損はしてない……のか?いや、むしろ得してるじゃないか?」
手間賃も払われていないので実際には得というよりプラマイややプラスというところだが、素材込みの依頼でなかっただけでも助かった。
「しかしまあ、初めて作る形の鞄だし売り物にする前に使い勝手くらいは試しておくか」
俺はカバンを持って買い出しに出かけることにした。
明日の朝食用のパン二切れと悪いリンゴ1こ。店もすぐ近くなので試用にはちょうどいい。
長く店を空けるわけにもいかないので、馴染みの店で目的のもだけを買って帰ってきた俺はテーブルに食材を並べて愕然とした。
「おいおい、何だよこれ……」
買ってきた食材に真っ黒い汚れが付着している。
判で押したような黒い汚れがくっきりと。
「りんごと、パンも両方ダメか」
中を確認するが汚れの移るようなところはないし、全く意味がわからない。
「りんごは皮をむけばいいとして、パンは……汚れのとこだけ削り取るか。むしろ貴重品なんかを入れなくて良かったと思おう……にしてもこれじゃあ売るどころか自分で使うこともできないか」
珍しいものなので標準的な値段で売れば早く買い手がつくのではと期待していたこともあり、失望感は拭えない。
生活費にも織り込んでいたので明日から日雇いの仕事を増やす必要がありそうだ。
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