辺境と城市をめぐる史書断簡
久里 琳
第1話 戦端
商朝、景帝十三年のことであった。
北辺の蕃族が
驃騎将軍劉
六時間にも及んだ死闘は陽が天頂に達するとき、血みどろの搏兵戦を演じていた中央の戦線に右賢王アルトゥ・ウルの騎馬隊が投入されるや、
二十万と號する大軍も、驃騎将軍直下の二万足らずを除けばその多くは鄙邑より徴された元農民たちである。未だ
俄か仕込みの訓練で兵となった彼らに、敗戦の戦場を生き延びる才覚など望むべくもなかった。革鎧の
崩れた戦線から七里下がったところで一度は陣を立て直し、追撃に猛る敵を迎え撃たんと試みた驃騎将軍であったが、地平線を
三年の空白の後に起こった両軍の対決は、此度も商の敗けと決したのである。
敗れたりとは云え驃騎将軍は無能の将ではない。前線に突出した城市である甘州への退却を決めると、堂々たる陣を布き再度の決戦に挑むと見せながら、その裏では先ず未熟な兵から退かせる周到ぶり。それでも追い縋る敵の騎兵を斥けつつ城市を目指す退却行は容易ならざる難業だった。
甘州への途は
漸く甘州の城壁の内に将兵を
※ 商は古代中国を制した王朝の名(という設定)。殷の別名を商と云うが、この王朝は殷より
※
※ 中華世界での一里は約500m。時代により多少前後する。
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