第20話:亜竜再び
神暦2492年、王国暦229年3月9日:ロアノーク代官領・ジェネシス視点
「亜竜は俺が斃す!
お前達は周囲の魔獣を確実に斃せ!」
「「「「「おう!」」」」」
★★★★★★
ロアノーク代官所からスタンピードが始まったという旗振り通信が届いたのは、5日前の事だった。
これまでは騎馬や徒士による伝令が、王家王国の1番早い通信方法だった。
だが商人は、穀物や魔獣素材の相場を伝えるために、大旗を使った信号を継いで騎馬伝令よりも早く情報を伝えていた。
俺は属性竜討伐司令官の地位を得て直ぐに王都の商人達と交渉した。
くずる商人達に王家王国の権力を使って、災害情報も伝えるように命じた。
命令するだけでは、故意に情報を隠したり間違った情報を流されたりする。
魔獣素材の競売参加権を与えて味方に取り込んだ。
特定の商人だけに利を与えないように、常に競売を行う事にしている。
それに参加できるかできないかで、信用と富が違ってくるのだ。
旗振り通信、騎馬伝令、徒士伝令を複数の街道を使って情報を伝達させる。
属性竜や亜竜、魔獣によって大切な情報が伝わらない事が1番怖い。
民を守るためには情報網の整備が絶対に必要だった。
情報網を強制的に変更させておいて本当に良かった。
亜竜がロアノークに現れたという情報が旗振り通信でもたらされたのだ。
1日の遅れが、10万人の命が助かるか失われるかにつながる。
だからこそ、俺も最速でロアノーク代官所に急いだ。
残念ながら、王国の常設騎士団は俺の出陣に間に合わなかった。
総登城を命じても、非番の騎士団が集まらなかった。
当番で登城している騎士団も、出陣できる状態ではなかった。
いや、それ以前の恥ずべき状態だった。
急にケガや病気を申し立てて、魔境への出陣から逃げやがった。
そう言う騎士の家は潰すと決めたが、今はそんな事をしている時間がない。
幼い頃からの側近と300の家臣だけを引き連れて出陣した。
最優秀な軍馬を急いで大量にそろえたのが役にたった。
軍馬を乗り潰さないように変え馬に乗り換えつつ急行した。
途中の宿場町で休憩を入れ仮眠を取った。
亜竜と遭遇する事も考え、余力を残した急行だった。
それでも王国の常設騎士団とは比較にならない機動力だ。
「王子、この先に魔獣を見かけたという情報がありました!
スタンピードを起こしたのはエディン大魔境で間違いありません」
「情報助かる」
フェデラルの代官所が、2つの魔境をぬうような街道に入る前の関所に、情報を伝える人を派遣してくれていた。
俺達がこれから救援に向かうロアノークは3つの魔境に接している。
大魔境と呼ばれているエディンと、俺達がこれから抜ける街道の左右にある、ナンパ魔境とクインシー魔境だ。
ナンパ魔境とクインシー魔境でスタンピードが始まっておらず、左右の魔境から不意に魔獣が現れないというだけで少し安心できる。
だが同時に、今回のスタンピードと亜竜がエディン大魔境に原因があるというのは、とても心配な事だった。
大魔境と呼ばれ、他の魔境と区別されるような魔境なのだ。
魔獣があふれ出た時の数と強さは、他の魔境とは段違いなのだ。
ロアノークだけでなく周囲一帯にとてつもない被害を与える。
俺達は、エディン大魔境を大きく一周するようにして、魔獣を退治して回らなければいけないだろう。
「あの街を助けるぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
ナンパ魔境とクインシー魔境の間を通る街道を抜けたとたん、多くの魔獣がいた。
不安な魔境街道を抜けた旅人が安心して宿泊するはずの街が、多くの魔獣に襲われ必死の防戦をしていた。
側近と配下の騎士達は決意を込めた返事をしてくれるが、実際にやってもらう事は、俺が斃した魔獣を回収して魔法袋に入れるだけだ。
彼らにも低レベルの魔獣を斃すだけの実力がある。
側近と主だった家臣なら、中レベル魔獣を斃せるだろう。
アンゲリカとマッケンジーが連携すれば、高レベル魔獣も斃せるかもしれない。
だが、万が一負傷されてしまったら、行軍速度を落とすか、途中の村や町に置いて行かなければいけなくなる。
その街や村が再び魔獣に襲われないとは断言できない。
今度こそ護り切れずに人々と一緒に魔獣に喰われてしまうかもしれない。
側近や家臣を見殺しにするような置き去りはできない。
だからといって、治癒魔術をかけて治しながら進軍すると、どうしても油断してケガをするバカが現れる。
俺に助けてもらえる、治してもらえると思うと、油断したり無茶したりするのが人間らしい弱さ甘さだと思う。
しかしそんな時間のロスが、10万人の命を奪う可能性があるのだ。
大きな街から順に亜竜が襲っていたとしたら、わずか数分の遅れが1万人の街を全滅させてしまうかもしれないのだ。
側近や家臣を鍛える事よりも民の安全を優先して本当に良かった。
多くの民が逃げ込んでいた代官所に、亜竜が襲う直前にたどり着けた。
俺は前回と同じように圧縮強化した魔力を亜竜の鼻から叩き込んだ。
一撃に全てを賭けるような愚かなマネはしない
通常攻撃の300発分の攻撃を1つ鼻から叩き込んでいる。
予備に600発分の攻撃を1つ浮遊させている。
側近と家臣は亜竜と離れた場所にいる魔獣を攻撃している。
事前に注意していた事をよく守っている。
決して亜竜や魔獣に近づかない事。
十分な距離を取って魔術や弓矢の遠距離攻撃に徹する事。
民に流れ魔術や流れ矢を当てない事。
「ギャゥフ」
今回の亜竜も一撃で斃す事ができた。
だが、勢いをつけて城に匹敵する代官所に体当たりしようとしていたのだ。
その勢いはなくならず、代官所の方に転がっている。
「「「「「キャアアアアア」」」」」
このままでは中に避難している人々ごと代官所が破壊されてしまう。
そう思ったから身体強化をして亜竜を止めた。
「サンドウォール」
手足の踏ん張りだけでは地面を掘って滑るだけなので、魔術で圧縮強化した土壁を造り出し、それを足場にして踏ん張った。
そうしていなければ、俺ごと代官所に突っ込んでいた。
「「「「「ウォオオオオ」」」」」
「すげえ、すげえ、すげえ、素手で亜竜を止めたぞ!」
「素手で亜竜を斃しちまったぞ!」
「王子だ、あの方こそジェネシス王子だ!」
「「「「「ウォオオオオ」」」」」
「ばんざい!」
「「「「「「ばんざい!」」」」」
「ジェネシス王子、ばんざい!」
「「「「「ジェネシス王子、ばんざい!」」」」」
代官所の城壁にいた兵士と冒険者、平民の男達が歓声をあげている。
大半の連中が万歳三唱している。
恥ずかしくて隠れたくなる。
1人の冒険者が手を振りだした。
直ぐに半数以上の者が同じように手を振ってくれる。
「王子、声援には答えてやってください。
民の希望に応えるのも王族の役目ですぞ」
セバスチャンにそう言われては無視できない。
恥ずかしくて本当はやりたくないのだが、王族の務めは果たさなければいけない。
「「「「「ウォオオオオ」」」」」
「「「「「ジェネシス王子」」」」」
「「「「「「ばんざい!」」」」」
「「「「「ジェネシス王子、ばんざい!」」」」」
「王子、何か言葉をかけてやってください。
我々は大魔境を一周以上しなければいけないのです。
あの者達には、まだまだ代官所を守ってもらわなければいけないのです」
「よく今日まで代官所を守り抜いた、褒めて遣わす」
「「「「「ウォオオオオ」」」」」
「「「「「ジェネシス王子」」」」」
「だがこれで終わりではない、これからも代官所を守ってもらいたい。
我らは大魔境からあふれ出た魔獣を全て狩らなければならない。
そのためには直ぐにここを離れなければならない。
もう1度我らがここにやって来るまで、代官所を死守してくれ。
その手当として、亜竜以外の魔獣は与える。
食料にするなり売って金にするなり好きにしろ」
「「「「「ウォオオオオ」」」」」
「「「「「ジェネシス王子」」」」」
「ありがとうございます」
「遠慮せず食べさせていただきます」
「売って破壊された家の足しにします」
俺は話している間も油断していないし遊んでもいない。
予備に作っていた600発分の圧縮魔術を分裂させて周囲の魔獣を斃した。
索敵魔術に反応する魔獣を全て斃しておいた。
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