第16話:凱旋パレード再び

神暦2492年、王国暦229年2月21日:王都・ジェネシス視点


「「「「「ウォオオオオ」」」」」

「亜竜だ、本当に亜竜を狩られたんだ!」

「すごい、すごい、凄い、ジェネシス王子凄すぎる」

「ジェネシス王子がたったお独りで亜竜を狩られたぞ」

「それも無傷だぞ、無傷で亜竜を狩られたぞ!」

「もうこれで亜竜も怖くない、属性竜だって狩ってくださるかもしれない!」

「ジェネシス王子万歳!」

「「「「「ジェネシス王子万歳!」」」」」


 また凱旋パレードをしなければいけなくなってしまった。

 セバスチャンが巧みに交渉してくれたお陰で、亜竜は俺の物となった。

 

 ただ父王もしたたかで、競売にかける場合は5割の税を取られる条件だ。

 しかも父王や王族が重病になった場合は、無償で亜竜素材の治療薬や回復薬を提供しなければいけない。


 俺は自由が1番大切なのだが、母上や姉兄にまったく情がないわけではない。

 王女や王子の地位を捨てて他国に渡らせるのは気が引ける。

 俺が無許可で大陸に渡る事で、立場を悪くさせるのも気が引ける。


 セバスチャンはその点も考えて父王と交渉してくれた。

 父王は父王で、金よりも回復薬や精力剤を優先した。


 俺が国に残り自由に狩りをするなら、これからも亜竜を狩れる可能性が高い。

 色情狂なだけでなく、病的に自分の子供を残そうとする父王は、精力剤に信じられないくらい執着するのだ。


 最初は子供に対する愛情が勝っていたが、冷静になればもっとたくさん子供を得る方法を正確に判断できた。


 100トン級の亜竜を無傷で狩れるのなら、もっと小型の亜竜でいいのなら魔境の中に入っても狩れるのではないかと予測できた。


「セバスチャン、余がB級冒険者に動員をかけた方が狩りが楽になるか?

 亜竜の睾丸は良い精力剤になるのか?」


 父王はセバスチャンに安全確実に亜竜を狩れる方法を訪ねたそうだ。

 それだけなら少しは尊敬できるのだが、目的が今手に入る以上の精力剤が欲しいからだと言うのには、分かっていた事とはいえ幻滅してしまう。


 亜竜の血と肝臓、睾丸とペニスを主成分に、他の生薬を配合した精力剤の記録が文献に残っていないかなんて、俺に聞くな!


 父王は貴族や商人が献上する魔獣素材の精力剤を常用されている。

 茶魔熊が手に入った事で、茶魔熊の肝臓と血液、睾丸とペニスを主に多くの生薬を配合した精力剤を使っているらしい。


 伝聞ではこれまでの精力剤とは段違いの効果があったらしい。

 だからと言って、自分だけでなく結婚している兄や姉達にも勧めるな!

 色情狂を子供達にまで勧めるんじゃない!


 まあ、いい、父王や異母兄姉がどう生きようと俺に知った事ではない。

 直接かかわってこないのなら好きに生きてくれ。

 問題は俺に媚を売り始めた貴族や騎士をどうあつかうかだ!


「ジェネシス王子、王子が何度も会うのを嫌だと申されるのなら、面会を求める貴族や騎士を一堂に集めて謁見しましょう」


「1度で済ませられるのならそれが1番だ」


「ただし、1度ですます以上、その場で確実に配下にしなければなりません」


「金や名誉、権力が欲しいだけの連中の、形だけの忠誠心など不要だ」


「忠誠心など必要ありません。

 民と心有る騎士を苦しめないように配下にするだけです。

 他の王子に配下になっている貴族や騎士に罰を与えるのは問題ですが、王子の配下となった者なら厳罰に処しても問題ありません」


「下劣な連中に罰を与えるために配下に加えろと言うのか?」


「心を入れ替えて国のために仕えるなら、罰を与える必要もありません。

 能力に応じた役目を与えればいいのです」


「あの連中が心を入れ替えるとは思えないぞ」


「入れ替えなければ予定通り罰を与えるだけです」


 セバスチャンとそんなやり取りをした後で、俺主催の舞踏会と晩餐会を開いた。

 兄達に忠誠を誓っているはずの貴族や騎士が予想以上に集まった。

 俺はセバスチャンと計画した罠をしかけた。


「今日はよく集まってくれた。

 俺はこれからも王国のために命懸けで働くつもりだ。

 そんな俺に賛同し、手助けすると誓ってくれる者には、亜竜の鱗を渡す。

 ペンダントはもちろん、心臓を守るプレートにもできる。

 常に人目に触れるように持ち歩くと約束した者に下賜しよう」


 さて、何人の貴族と騎士が俺に忠誠を誓ってくれるだろう。

 常に人目に触れるように身に着けると、俺の派閥に入った事は明らかだ。

 元の派閥から裏切者として増悪されるのは間違いない。


 元の派閥には、俺の行動を探るためにスパイになったと言えない事もない。

 だが、どれほど上手く言い訳しても疑われる。

 その状況でさらに離反の策をしかければ、確実に孤立させられる。


 亜竜の鱗だけ手に入れて約束を守らない者は、殺してしまえばいい。

 別に命を奪う殺し方でなくてもいい。

 社会的に抹殺すればいいだけだ。


 王子との約束を平然と破って利を手に入れたのだ、もう誰にも信用されない。

 社交界はもちろん商人との取引も不可能になる。


 俺の持つ高ランク魔獣素材を手に入れたい商人は、俺に媚を売ってくる。

 俺に敵対した貴族や騎士と取引しなくなる。

 領地の収穫物を商人に売れなくなった貴族など直ぐに没落する。


「ジェネシス王子、どうか私に亜竜素材の精力剤をお分けください。

 私もいい歳になったのに、まだ子供ができないのです。

 このままでは自分の血を残すことができなくなってしまいます。

 亜竜素材から作った精力剤は、男の子種を作る能力があると聞きました。

 我が家の年収と同じ金貨をお礼に差し上げます。

 ですから、どうか、どうか、どうか私に亜竜精力剤をお分けください」


 某伯爵家の初老当主が土下座しそうなくらい頭を下げて頼んで来た。

 俺も亜竜素材の精力剤には子種を作る効果があると資料で読んだ。

 だが過去の資料に書いてあるだけで、実験して確かめたわけではない。


 それに、亜竜素材の薬を作りとなると、亜竜を解体しなければいけない。

 解体してしまえば、素材の半分を父王に分けるか、競売にかけて売った金の半分を父王に分けなければいけなくなる。


「本当に亜竜素材の精力剤でいいのか?

 まだ実験をしていないから、確実に効くとは言えないぞ。

 それに、効果の高い亜竜素材だと副作用も強力で、大きな危険をともなうぞ。

 それよりは私の回復魔術を併用しなければいけないとはいえ、これまで何の副作用もなかった灰魔猪と灰魔鹿、灰魔狗に生薬を配合した精力剤の方が良いぞ」


「ジェネシス王子の回復魔術と精力剤による治療ですか?

 何度も実験をして確かめられたのですか?」


「ああ、魔獣や軍馬を使って何度も実験を繰り返して成功している。

 人間でやるのは初めてだが、それは亜竜素材の精力剤も同じだ。

 亜竜を使った精力剤にどれほどの副作用があるか、想像できるだろう?」


「はい、それは確かにそうでございますが……」


「まあ、本当に効果があるのか心配なのは分かる。

 だから伯爵の前での証拠を見せてやる。

 我が家の軍馬では、事前に何か仕込んでいたかもしれないと疑いたくなるだろう。

 だから今日我が家に来た貴族や騎士で、去勢された軍馬や輓馬の輓く馬車でここに来た者に協力してもらおう。

 伯爵の馬車を輓いてきた輓馬が去勢されているのが1番確かなのだが?」


「申し訳ありません、家の輓馬が去勢されているかどうか、知らないのです。

 直ぐに御者に確かめて参ります」


「そうしてくれ。

 だが待っている間に去勢した軍馬や輓馬を持っている者がいないか確かめる。

 誰かいないか?

 去勢された軍馬や輓馬の馬車でここに来た者はいないか?」

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