第7話:卑怯者

神暦2492年、王国暦229年1月19日:王城・ジェネシス視点


「オオオオオ、何という事だ、顔が、眼が、オオオオオ」


「王家王国に反旗を翻し、盗賊を使って王都に火を放ち、何の罪もない民を殺して財貨を奪い、罪を悔いるように言って聞かせた私に斬りかかったのはこの男です」


 俺はデシーズ家の当主を始めとした一味を全て捕らえた。

 直ぐその足で王城に向かい、謀叛人一味を捕らえたと父王に報告した。

 同時に名誉の負傷をしたので、直ぐに会いたいとも伝えた。


 普段ならもうとっくに寝ているか妻妾と愛し合っている時間だ。

 だが謀叛人が王都に火を付けたばかりか、王子の1人を負傷させたとなれば、いくら色情狂の父王でも無視はできない。


「おのれ、ジョサイアが推薦するから側近の1人に取立ててやったというのに、恩を仇で返しおって!

 許さん、絶対に許さん!

 余、自ら首を刎ねてくれる!」


「父王陛下、この者が申すには、私の事はいずれ殺すつもりであったそうです。

 盗賊団に盗ませた金も、ジョサイアと陛下に献上していると言っております。

 本当の事でございますか?

 本当ならば、私は父王陛下の配下を捕らえてしまった事になります。

 罪を詫びる為に国を出ようと思っているのですが?」


「何を申しておるのだ?

 余はこのような者から金品を受け取った事など1度もない。

 むしろよく働いているとジョサイアが申すので、褒美を与えていた」


「ではジョサイアがこの者を操り陛下を偽っていたのでしょうか?

 それとも陛下が私を偽られているのでしょうか?

 もう全て明らかになっているのですから、偽るのは止めてください。

 知らなかったとはいえ、陛下のお考えに背いたのです。

 潔く罰を受ける所存でございます」


「ジェネシス、父上ある余の言葉が信じられないのか?!

 余は何も知らぬ、盗賊団を使って町家に火を放たせた事などない!」


「では、贅沢の為に盗みを命じた事もないのですか?

 そのような所業を重ねられたから、民に恨まれて呪詛され、私の兄や姉達が次々と死んでいくのではありませんか?

 神をも畏れぬ所業を繰り返されたからこそ、天罰を受けて孫まで次々と死んでいるのではありませんか?」


「ジェネシス、そなた父を信じられなと言うのか?!」


「父王陛下、陛下とジョサイアの日頃の行いは私の耳にも入っているのです。

 それを聞いている私に、信じろと言っても無理でございます」


「父を信じるのだ、いくらジョサイアの事を気に入っているからと言って、実の息子以上に優先する事などない。

 まして我が子を殺して王国の政治を私しようした者など、絶対に許さん。

 どのような言い訳をしようと、極刑にしてくれる」


「そのお言葉を聞いてようやく安心する事ができました。

 自害するか、国外に逃げるしかないと覚悟していたのですが、これで屋敷に戻ってゆっくり眠ることができます」


「なんだ、後宮に泊まっていないのか?」


「本当は母上様の事が心配なので、後宮に泊まりたいのですが、母上様が危険だと申されるので、屋敷に戻る事にしたのです」


「危険、オードリーは何を心配しておるのだ?」


「ジョサイアは父王陛下が可愛がって居られる側室の養父ではありませんか。

 父王陛下の心が母上様に移るのが許せなかったのでしょう。

 養女に王子を産ませて外戚となり、今以上に権力を振いたかったのでしょう。

 母上様を殺して今一度父王陛下の寵愛を取り戻そうとしたのです」


「まさか、オードリーは命を狙われていたのか?!」


「今更何を申されているのです、父王陛下。

 私がジョサイアの手先に命を狙われたと何度も申しているではありませんか!

 このように、左目を失っているのではありませんか。

 亡くなられた姉上もジョサイアに殺されたのかもしれません……」


「近衛騎士団長!

 余の護衛は他の者に代わってもらえ!

 今直ぐジョサイアの所に行って、首を刎ねて持ってこい!」


「陛下、それは危険過ぎます、お止めください!」


「何を恐れているのだ?

 ここは余が支配する王城だぞ?

 近衛騎士団長が配下を率いて出ていくくらい危険でも何でない」


「ジョサイアは、つい先ほどまで父王陛下の寵愛を受けて、権力を我欲の為に使っていたのです。

 父王陛下の愛妾である母上様でさえ命の危険を感じ、姉上の死をジョサイアによる謀殺を疑うほどだったのです。

 近衛騎士団長が側を離れてしまったら、父王陛下の命を奪い、その罪を私に着せて逆転を狙うかもしれません」


「余は国王だぞ、余よりもジョサイアの命令を聞く者がいると言うのか?!

 許さん、絶対に許さんぞ!

 何が何でもジョサイアの首を刎ねさせる!

 直ぐに王城騎士団と王都騎士団で手の空いている者を全て呼び出せ!

 今直ぐ呼び出せ!

 どのような犠牲を払ってでもジョサイアの首を持ってこさせろ!」


 俺の見え見えの煽りを真に受けて、父王がジョサイアの処刑を決断した。

 取り調べをさせたら口八丁手八丁で父王を言い包める可能性があった。

 処刑された後で首だけ届けられるのなら安心だ。


「よくご決断してくださいました、父王陛下」


「側近よりも我が子を優先するのは当たり前ではないか。

 これで安心して後宮に泊って行けるであろう。

 オードリーと一緒にゆっくりするがいい」


「はい、父王陛下の英断を聞いた者達は、ジョサイアが何を言ってきても、もう言う通りには動かないでしょう。

 これで安心して休む事ができます」


「うむ、うむ、そうか、そうか。

 それにしても、今回もジェネシスはよく働いた。

 長年余を誑かすほどのジョサイアの悪事をよく見抜き諫言した。

 何十年もの間、これほど勇気を示した者はただの1人もいなかった。

 褒美を与えるので好きな物を言うがいい」


「では、遠慮なく申させていただきます。

 ジョサイアの一味が蓄えた金銀財宝は全て父王陛下が接収されてください。

 その代わり、ジョサイア一味の領地と王都屋敷を私に下さい。

 今回働いてくれた者達に褒美を与えなければいけません」


「何を申しているのだ、ジェネシス。

 役目の間に立てた手柄は余が褒美を与えるから大丈夫だ。

 領地や王都屋敷はジェネシスの好きにすればいい。

 前回と同じように賄領とすればいい。

 金銀財宝については王家と王国の国庫に入れておこう。

 いずれはジェネシスの物になるのだ」


 1年も経たないうちに、全て散財するのは目に見えている。

 色情狂で浪費家で卑怯者だからな、この世界の父親は。


「ありがたき幸せでございます、父王陛下。

 言葉に甘えて後宮で母と休ませていただきます」

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