第4話:領地

神暦2492年、王国暦229年1月17日:王城・ジェネシス視点


「な、その顔はどうしたのだ!」


「騎士ベレスフォード家の連中にやられました」


「ベレスフォード家だと?

 何故ベレスフォード家の者達がジェネシスを襲うのだ?!」


「その事に関しましては、傅役の私が話させていただきます」


 めんどうな説明はセバスチャンが引き受けてくれた。

 セバスチャンなら父王陛下を上手く説得してくれるだろう。


 ★★★★★★


「おのれベレスフォード!

 いや、ベレスフォードだけではない!

 協力していた連中もことごとく捕らえて首を刎ねてくれる!」


 普段は女にしか執着しない父王陛下が珍しく本気で怒っている。

 セバスチャンの誘導のしかたもよかったのだろうが、俺に対する愛情も少しはあるのかもしれない。


 いや、愛情というよりは自分の血を残す執着だろうな。

 祖父の人倫に悖る悪行の所為で、自分の血は残らないかもしれないと畏れている。

 その畏れが健康な俺を殺そうとした連中への怒りに変わっているのだろう。


「それにしてもジェネシスはよくやった。

 鍛錬などで試合はしていたであろうが、実際に殺し合うのは初めてであろう。

 それを、手傷を受けながら多くの敵を捕らえたのだ。

 殺す方が遥かに簡単であろうに、見事である!」


「お褒めの言葉を賜り、恐悦至極でございます」


「この事ではっきりした、やはりジェネシスを城の外に出すのは危険だ。

 狩りの行く事は禁止する」


「恐れながら父王陛下、それこそ間違いでございます」

 

「何が間違っているのだ、ジェネシス?」


「城の外にいたからこそ、ベレスフォードの悪意を避けられたのです。

 城外だからこそ、ベレスフォードは剣で襲ってきました。

 私も得意な剣で対抗する事ができました。

 これが城内であったら、油断して斬られていたかもしれません。

 味方だと思っていた近衛騎士や王城騎士に背後から襲われたら……

 まして毒でも盛られていたら、血を吐いて死んでいたかもしれないのです」


「ばっ、バカな事を申すな!

 王城内で毒殺されるなどありえぬ、絶対にありえぬ!」


 お前の父親、それの祖父が先王の王太子を毒殺しているだろうが!

 そのお陰で王位につけた事を忘れるんじゃねぇよ!


「ですが、亡くなられる兄上や姉上たちが多過ぎます。

 城下の平民どころか、貧しい農民よりも死者が多いのではありませんか?

 毒殺でなければ、呪詛か祟りかもしれません」


「違う、絶対に違う!

 余には呪詛される覚えも祟られる覚えもない!」


「父王陛下、恨まれる必要などありません。

 国王である事、王子である事だけで呪詛されるとセバスチャンから教わりました。

 父王陛下も傅役からそのように教えられませんでしたか?」


「……そうであった、確かにその様に教わった」


「ならばこそ、防ぎようのない呪詛や毒に狙われないように、居場所は転々とした方が良いのではないでしょうか?

 敵が準備できないように、月毎に居場所を変えた方が良いのではありませんか?」


「……それでも、王城の方が安全であろう」


「恐れながら国王陛下、王子の傅役として話させてもらっていいでしょうか?」


「……しかたがないな、許す」


 セバスチャンは俺よりも父王に対する説得が上手かった。

 過去に王城内で起きた貴族や騎士の殺し合いの数々を引き合いに出して、いかに王城内が危険であるかを訴えてくれた。


 特に効果的だったのが、俺が個別例を避けた疑わしい王や王子の死だ。

 その中には、本来なら絶対に戴冠できないはずの父上が、王になる事になった某王太子の不審死の話もあった。


「そこまで心配だと申しのなら、王城に寝泊まりする時間を減らす事は許す。

 だが王城を出る事だけは絶対に許さん。

 そんな事をしてしまったら、ジェネシスの王位継承権が無くなってしまう」


「許可頂きありがとうございます、父王陛下。

 つきましては少々強欲な願いがあるのですか、よろしいでしょうか?」


「強欲な願いだと、いったい何事だ?」


「呪詛や毒殺を避けるために、毎日食事をする場所と寝る場所を変えたいのです。

 ですがその為には、多くの屋敷と砦が必要になってしまいます。

 昨日の事件で多くの騎士家が取り潰しになるのですよね?

 彼らの領地と王都屋敷をいただけないでしょうか?

 全てとは申しません、半分だけでもいただけないでしょうか?」


「なんだ、そのような事か?

 ジェネシスが戦って奪った領地や屋敷ではないか。

 半数などと遠慮する事はない、全て自分のモノにするがよい。

 ただし、独立した爵位は与えぬ、手に入れた領地は全て賄領とするがよい」


「はっ、有難き幸せでございます。

 私のために働いてくれた者達に褒美を与えたいと思っていたのでございます。

 父王陛下のお陰で十分な褒美を与える事ができます」


「おお、そうか、そうか。

 ケチな主君に家臣はついて来ないからな。

 しっかりと褒美を与えるがよい」


 父王陛下は御機嫌で、今回処分する騎士達の領地と王都屋敷を全て俺にくれると約束してくれたが、その多さを理解しているのだろうか?


 直接俺を殺そうとして騎士家だけで7家1万人規模なのだぞ?

 砦といってもいい領地館と王都屋敷が7館ずつあるのだぞ?


 事は王子殺害未遂事件で、親戚縁者全てが厳罰を受けるのだ。

 正妻の実家はもちろん、先祖代々のどこまで遡るかで大きく違ってくる。

 父王陛下の性格を考えれば、100前後の騎士家が潰されるだろう。


 まあ、これから潰される騎士家に関しては、父王陛下の取り巻きが賄賂を要求して口利きする可能性が高いから、潰されない所も出てくるだろう。


 潰される騎士家の領地も、なんだかんだ言って取り巻き連中が手に入れるだろう。

 特に噂に聞くジョサイアが貪欲に手に入れようとするだろうな。


「セバスチャン、その方たちに対する褒美について相談したい。

 領地については、色々と使いたい事があるので分け与えられない。

 だから、新しく手に入れた砦と王都屋敷の管理職を任せたい。

 はっきり言えば、領地は分かられないし給料も払えない。

 その代わり陪臣騎士の地位を与える。

 陪臣騎士として魔境に入って狩りをする許可も与える。

 何なら砦と王都屋敷を間借りさせて仲介料を取る許可も与えよう。

 実家とは別に騎士の位を与えるのだ。

 それで喜んでもらえるだろうか?」


『ジェネシス家』

「陪臣騎士格・上級使用人」

家宰 :セバスチャン

家令 :砦と王都屋敷の総責任者、財政や外交も行う、それぞれ7人

執事 :砦と王都屋敷の副責任者、主に建物内の管理、それぞれ7人

厩舎長:軍馬や駄馬、家畜やペット、馬車や荷車の管理をする。

侍女頭:女性使用人の総責任者

料理長:料理全般に対する総責任者

パン長:製パンに関する総責任者

製菓長:製菓の関する総責任者

侍従 :主人側近くに仕える男性・給仕も行う

侍女長:主人側近くに仕える女性

料理人:パンとおかずを作る

製菓人:菓子作りを専門に行う

近習 :主人の側近くに仕えて護衛だけでなく雑用も行う

乳母 :女性主人に変わって子供に乳を与える

教育係:主に子女教育を行う

「陪臣徒士格・下級使用人」

厩舎係:軍馬や駄馬、家畜やペット、馬車や荷車の管理をする。

   :時に馬を上手く扱えない人の代わりに手綱を取る。

御者 :馬車の管理と操作を行う。

庭師 :庭の手入れをする職人

従僕 :見習中の侍従・見習の間は上級使用人に仕える。

給仕 :見習中の侍従・見習の間は上級使用人に仕える。

料理人:料理をする係

小姓 :未成年の見習侍従

荷物係:力持ちの男性使用人

侍女 :家事全般を手分けして行う女性

下女 :侍女の下で家事全般を行う。

   :未成年の侍女見習いもいる

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