2 卵焼き

「きょ、今日は卵焼き、ネギ入りなんだよな」


 しどろもどろになりながら浩平こうへいは答える。怪しいと思いつつ「えっ、いいな~!」とおれは答えた。ネギ入りの卵焼きは、おれの好きなものの一つだからだ。抗えない。弁当箱に綺麗に収められた卵焼きに思わず心が惹かれる。


「一個、やるよ」


 食い意地を張っているおれを浩平が優しく笑う。育ちの良さそうな顔つきが、柔らかく、ほろっとくずれる瞬間。おれの中で好きだなと思う、浩平の顔。


「じゃあ、おれのパンもちょっとやるわ。交換こしよ」


 ただもらうだけはさすがに心苦しいから、おれは自分のパンを少しちぎった。そのとき、ふと、このパンを買ったときの状況を思い出した。そういえばこのパン買ったとき、桔平きっぺい先輩と食堂で会ったな、と。確か桔平先輩の横には、よく見かける背の低い友達らしき人もいた。一言二言だが、話もした。

 

浩平の箸で卵焼きを一口で放り込み、もぐもぐと咀嚼する。うわ、さすが桔平先輩だな、うま~、とだらしない顔をしていると、浩平がそんなおれの様子を見ていた。おれを見る浩平の口元が僅かに緩んでいて、それがなんだか恥ずかしかった。妙にいたたまれなくて漫画のように咳払いをしたくなった。とりあえず桔平先輩の話でもしようかな。


「そういえば、さっき桔平先輩に会った」

「え」

「なんか浩平をよろしく、とか言ってた、な……」


 ガタンと、その瞬間、音がして浩平の姿が視界から消えた。ん?と不思議に思い、机の横から様子を窺うと、浩平が床で尻もちをついていた。椅子から落ちたようだった。本当に今日はどうしたんだ?


 その後、さすがに浩平の様子がおかしいと思い、いろいろと探りをいれてみたが、浩平は赤面して「いいから!ほんとに!」と言うばかりだった。


浩平はおれの話を逸らすのが上手いので、気づけばなぜか読みたかった漫画を貸してもらうという約束をしていた。おれは目先のことばかり気になってしまうタイプだから、今回もきちんと漫画のことで頭がいっぱいになっていた。


浩平に探りを入れることを思い出したのは、昼休みが終わり、浩平が自分の教室に帰ってしまってからのことだった。あああ!


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